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LEGO SPEAKER 第54報 ≪第53報 第55報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第54報
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1. はじめに |
アクティブラジエーター方式研究機の2号機として、サブスピーカーユニットを背面に搭載して先の64号機で生じたメインスピーカーユニットとの干渉の問題を低減したいと考えている。 また、本方式のメリットである低音域の改善効果はコンパクトなスピーカーシステムであるほどありがたい。そこで、本65号機はこのような構成で計画を進めたいと思うが、製作に先立って基礎実験を行ってみることにした。
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2.基礎実験 |
サブユニットを背面に搭載したパッシブラジエーターシステムとして、写真2に示した52号機(LEGOスピーカーの製作第42報参照)がある。
これはStereo誌に付属していた10cmフルレンジユニットを前後に対向配置したキューブパッシブラジエーター方式のスピーカーである。
まずは、これを改造してアクティブラジエーター方式に改め、背面サブユニットの減衰抵抗値を調整しながら特性測定を行い、最適な減衰抵抗を選定してみたいと思う。
実験の変更回路は図1のようになる。抵抗器R1の最適化が目的なので、実際の抵抗器は外付けで交換を容易にして行った。
早速改造を行って、まずはインピーダンスの測定である。事前実験としてR1を接続しない状態(Open)と、そこでサブユニットを短絡した状態(Short)、そして、R1:0Ωすなわちサブユニットを並列に接続した状態(parallel)を測定してみた。
図2のOpenではインピーダンス特性に2つのピークがあり、85Hz付近の低い方の共振点は前面のメインユニットのシステムとしてのfoである。280Hz付近の共振点はサブユニットのfoかと思ったが・・・
図3のShortの特性ではこの2つのピークがダンプされ、共振点の移動はほとんど見られないことがわかる。
サブユニットの短絡制動により強く背圧が加わって、メインユニットのfoにおけるQ値が大きく低下したということである。すると、280Hzに残る共振点はなにか?
この実験ではサブユニットのコンデンサーによる制動は行っていない。このため、並列接続が可能である。このparallel特性(図4)ではインピーダンスが4Ω程度に下がると共に280Hz付近の1ピークとなった。
これはつまり、この共振点はメインユニットとサブユニットの合成特性による共振周波数なのだと考えられる。
Openの状態ではメインとサブユニットの電気的な接続はないが、機械的に結合することで、同じ共振点が見えているのだ。
抵抗器R1には8.2Ω、22Ω、56Ω、100Ωの4種類を用意したが、このうち3種類のインピーダンス特性を図5~7に示す。
R1:8.2Ωの特性ではparallelと比較してメインユニットのfoである85Hzがわずかに見えてくる。これに伴い、280Hzのピークが減少している。
56Ωではさらにメインfoのピークが増加し、280Hz点と同等なインピーダンスとなった。同時にベースのインピーダンス値も約5Ωから6.5Ωに上昇している。
100Ωではメインfoのピークの方が大きくなっている。ベースは約7Ωとなった。
このようにR1の調整でメインユニットのfoの変化とともにサブユニットとの合成インピーダンスピークのバランスが変化することがわかる。
これはメインユニットに対する背圧付加が変わることと、機械的な合成と電気的な合成特性の変化に起因している。
次に周波数特性を測定してみよう。
図8に示す周波数特性の抵抗器Open(青線)すなわちパッシブラジエーター動作では90Hz付近にサブユニットの効果と思われる膨らみがあるが、メインユニットの適正背圧が不足するため、100~200Hzでは落ち込んでいる。
メイン、サブユニット並列駆動(赤線)では200Hz付近は3dBほど上昇するが内容積が極めて少ないダブルユニット密閉型の周波数特性となり、100Hz付近は大きく低下している。
600Hz以上の周波数では差異は少ないが、これはサブユニットが背面に搭載されているので影響が抑えられているためだ。
サブユニットを短絡して制動をかけた状態(緑線)では密閉型のダラ下がり特性に見え、中音域の増加が無く、100Hz付近の落ち込みも改善された特性となっている。このような背圧の付加による特性改善は予想されたものである。
次に図9のアクティブラジエーター抵抗器接続を見る。
8.2Ω(青線)では並列駆動特性に近くなり、100Ω(緑線)ではOpen特性に近づいている。22Ω(水色線)、56Ω(赤線)ではこの中間の特性となるが、中音域の増加を抑え低音域を増強するという目的からは56Ω(赤線)が適していると思われる。
実際に音楽を試聴した結果でも、明らかに56Ω接続状態が低音域のレスポンスが良く、力強いベースを聴くことができた。したがってR1の最適抵抗値は56Ω(-26dB)と判断された。
先に示したインピーダンス特性では56Ω接続状態ではメインユニットのfoでのピークとサブユニットとの合成特性である中低音域にある2つ目のピークインピーダンス値がほぼ同様な値の2山特性となっているが、
このインピーダンス特性の特徴から最適な接続抵抗値R1を判断することができるかもしれない。
それでは、基礎実験はこのくらいにして65号機の製作を進めよう。
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3.設計 |
基礎実験に用いた52号機は10cmフルレンジユニットを搭載していたが、本機はよりコンパクトにするため、8cmフルレンジユニットを使用する。
設計した65号機の構造図を図10に示す。
メインユニットには64号機と同様にStereo誌付属のOMF800P(写真3)を選択した。(私はこのスピーカーユニットをいくつ購入したことだろう・・・)
サブユニットには安価なFOSTEXのP800K(写真4)を使う。背面搭載で高価なスピーカーユニットはもったいないし、正方形のフランジが、このハコにマウントするのに都合が良いのだ。
構造的には52号機と同様にLEGOで製作したキューブの前後に長い貫通ボルトでメインユニットとサブユニットを対向して固定したものだ。
バッフルパネルが無く、ユニットを強固に固定できるこの構造は製作が容易な点も優れている。だが、4本のボルトを締めすぎると筐体に歪が生じて音が劣化するので注意が必要だ。
この狭いハコの中にアクティブラジエーターの回路素子である抵抗器とコンデンサーを内蔵するが、最適調整のために付け変える必要がある。
そこで、一旦、メインとサブユニットからダイレクトに配線を引き出しておいて、外部接続で調整作業を行い、調整完了の後に内蔵する方針とした。
なお、本機はとてもコンパクトであるため、ターミナルの使用が難しい。このため側面の穴から直接ワイヤーを引き出すことにした。
本機の回路図を図11に示す。また、基本仕様と使用するスピーカーユニットの仕様を以下に示す。
<65号機 基本仕様>(最終調整値)
・ 形式:ミニキューブアクティブラジエーターシステム
・ 方式:アクティブラジエーター方式
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:2ユニット対向配置密閉型
・ メインユニット:FOSTEX 8cmアルミコーンフルレンジOMF800P
・ アクティブラジエーター:FOSTEX 8cmペーパーコーンフルレンジP800K
・ 外形寸法:W104mm H104mm D102.4mm
・ 実効内容積:0.2リットル以下
・ アクティブラジエーター機能減衰抵抗値:33Ω(-14.2dB)
・ サブユニットLPF:10uF(500Hz -3dB -3dB/oct)
・ システムインピーダンス:6.5Ω
<OMF800P 仕様>
・ 形式:8cmアルミコーンフルレンジ(アルミ切削フェイズプラグ)
・ インピーダンス:8Ω
・ 最低共振周波数:117Hz
・ 再生周波数帯域:fo~32kHz
・ 出力音圧レベル:83dB/W(1m)
・ 入力(NOM):5W
・ mo:2.38g
・ Qo:0.64
・ 質量:320g
<P800K 仕様>
・ 形式:8cmペーパーコーンフルレンジ
・ インピーダンス:8Ω
・ 最低共振周波数:115Hz
・ 再生周波数範囲:fo~18kHz
・ 出力音圧レベル:84.5dB/W(1m)
・ 入力(Mus.):24W
・ mo:2.2g
・ Qo:0.99
・ 質量:261g
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4.製作 |
写真5に本機の全部品を示す。LEGO部品はフレーム枠しかないが、最適回路検討のための素子接続BOXと仮接続ケーブルが本機の特徴的な部品である。特殊部品となる110mmの長いM4 6角穴付ボルトも用意した。
フレーム(写真6)は10cmキューブのただの枠だが、内面は丁寧にマスキングテープで処理してある。
リアにマウントするP800Kは四角いフランジでぴったりなのだが、フロントマウントのOMF800Pは同じ8cmフルレンジでもフランジのサイズが大きいので、若干LEGOブロックの干渉部分に加工を施している。
前面はエッジ付きのレトロデザイン。底面には小さなゴム足を貼り付け、写真では見えないが側面にはワイヤー引き出し用の穴が設けてある。
写真7が素子接続BOXである。調整用のジグであり、最適化作業後には外されるものだ。
アンプからのバナナプラグ配線に接続できるようにバナナジャック付きワイヤーを用意した。
写真8は配線用のワイヤー類、調整用もあるので量が多い。写真9はネジ類である。
抵抗値最適化調整のために準備した抵抗器(写真10)は8.2Ω、12Ω、22Ω、33Ω、47Ω、56Ω、82Ω、100Ωの8種である。すべてアンプにシリーズに入るので電力抵抗器である。サブユニットLPFのコンデンサーは10uFとした。
本機は組み立て作業も容易である。もともと簡単LEGOスピーカーとして企画した52号機と同じ構造なのでLEGOフレームの前後をスピーカーユニットで挟み、貫通ボルトで固定するだけである。
まずはフレームの穴に調整用のワイヤーを通して(写真11)メインユニットを前面に装着する(写真12)。
次にサブユニットを共締めで4本の貫通ボルトで締め付けるが、組み立て時の注意は先にも述べたが、このボルトを締めすぎるとフレームに歪が生じて音が悪くなることと、ボルトの鳴きを抑えるために粘着テープで止めておくことである。
また、この貫通ボルトは緩み易いのでダブルナットは必須である(写真13)。
調整状態のため、メイン、サブ独立してワイヤーが引き出してある(写真14)。
組み立ての完了した65号機の外観を写真15、16に示す。
10cmキューブの超ミニスピーカーシステムである。LEGOスピーカーに似合うキュートな意匠になった。
なお、背面には4本の貫通ボルト先端が飛び出すが、このままでは危険である。この写真にはないが樹脂製のM4袋ナットを用意して安全に処理した。
素子接続BOXを組み立てる(写真17)。
アンプにつなぐバナナジャックワイヤーと4箇所の取り付け穴に抵抗器、コンデンサーを搭載する中継接続ジグである。
配線状態は写真18のようになる。上面のナットを外すだけで容易に抵抗器の交換が可能なのだ。
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5.調整 |
素子接続BOXを利用してサブユニットのアッテネーター抵抗値を変えながら試聴を行う。
専用の調整ジグを作ったので容易に作業が行える。まずはLPFのコンデンサーの無い状態で抵抗器のみの変化を見てみよう。
抵抗値は先に示した8種類を試しているが、このうち抵抗なしのOpenと8.2Ω、22Ω、33Ω、56Ω、100Ωのインピーダンス特性を図12~17に示す。

Openインピーダンス特性

R1:8.2Ωインピーダンス特性

R1:22Ωインピーダンス特性

R1:33Ωインピーダンス特性

R1:56Ωインピーダンス特性

R1:100Ωインピーダンス特性
図12のOpen状態、つまりシンプルなパッシブラジエーターの特性では110Hzにメインユニットのfo共振が大きく出ており、自由にユニットが動いていることがわかる。
制動のない状態である。300Hzにサブユニットとの機械的結合による合成共振特性が見えている。
図13のR1:8.2Ωではメインユニットのfo共振点が大きくダンプされ、強力に制動がかかっている。サブユニットは-6dBで同相に駆動されるため大きな背圧になっているのだ。
300Hzの合成共振点は電気的結合が加わるが、全体のインピーダンスが8Ωから5.5Ωに低下したことを考慮するとほぼ変化が無いことがわかる。
図15の33Ωではメインfo点の共振ダンプが減ってピークが上昇し、ベースのインピーダンス上昇と共に300Hzの合成共振点とほぼ同じインピーダンス値となった。ただしQ値は異なる。
図17の100Ωではさらにメインfo共振が上昇し、Open特性に近づいている。図14、16の22Ω、56Ωはこの中間の特性変化が見て取れる。
先に行った52号機での基礎実験の結果から、インピーダンス特性がバランスした2山になる33Ωが最適な抵抗値ではないかと推測できる。
周波数特性を図18に示す。
特性はOpenと抵抗値8.2Ω、33Ω、100Ωのものをプロットした。
R1:Openのパッシブラジエーター動作(青線)では100Hz付近にサブユニットからの放射と思われる増強があるが、200Hz付近は低下しておりメインユニットの背圧が小さいために低音域の出力が落ちていることがわかる。
R1:100Ωの周波数特性(緑線)ではちょっと見にくいが、ほぼOpenと同様な特性であることがわかり、インピーダンス特性にも現れたが、Openに近い動作状態であると言える。
8.2Ωの特性(水色線)では200~500Hz付近に明確な3dB程度の増強があり、これはメインユニットの背圧付加の効果とサブユニットからの放射によるものと思われる。
サブユニットが背面搭載されているため2kHz以上には影響が無いが、1kHz付近に若干のレスポンス低下が見られる。これはメインユニットとサブユニットの位相干渉ではないかと考える(1kHzでは17cmで逆位相)。
しかし、100Hz付近のパッシブラジエーター動作は無くなっており、中低音域の増強した2ユニット密閉型に近い特性になった。これでは特に音量の大きな場合は低音域が不足するものと考えられる。
33Ω(赤線)はOpenと8.2Ωの中間的な特性であり、パッシブラジエーター動作と2ユニット動作がバランスしている状態であると思われる。
メインユニットに適切な背圧が加わり、サブユニットからの中音域の放射が抑えられ、パッシブラジエーター放射も観察される。低音の増強という観点からは、やはりこの33Ω接続が最適であると考えられるのだ。
このR1:33Ω状態でコンデンサーC1に10uFを接続してみた(図19)。サブユニットが背面にあるため特性に変化は見られなかった。周波数特性を測定する程度の音量レベルではサブユニットのLPFの効果はあまり無いようだ。
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6.試聴 |
最適な抵抗値が定まったので素子接続BOXを外し、狭い筐体内部に抵抗器とコンデンサーを収納した。(このR1は電力抵抗器なのでサイズが大きく苦労した)
完成した65号機はこのサイズにしてはしっかりとした音が出ている。少なくとも他のバスレス方式や密閉型よりは良いのではないかと思う。
背面配置のサブユニットは予測のとおり、メインユニットに対する高音域の干渉も少なく、良好に動作している。メインユニットに選択したアルミコーンのフルレンジユニットが活かされる感じだ。
65号機はアクティブラジエーター方式の採用により、10cmキューブという小さなスピーカーシステムなのに、結構な大音量でも音楽を楽しめるということはとても痛快である。
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7.おわりに |
コンパクトスピーカーシステムをオリジナル技術で改良することはLEGOスピーカーの永遠のテーマであり、とても面白い。コスト的にも実用的にもメリットが大きいのだ。
だが、やはり本物の音は大型モデルにはかなわない。
次は本格モデルを造りたくなってきた・・・。
(2018.5.6)