LEGO SPEAKER 第55報

≪第54報 第56報≫

LEGOスピーカーの製作 第55報

写真1 LEGOスピーカー10周年記念モデル 66号機
写真1
LEGOスピーカー10周年記念モデル 66号機

1. LEGOスピーカー製作10年!

 LEGOスピーカーの1号機(写真2)は2007年の製作であり、今年で満10周年を迎える。これを記念して特別モデルを製作しようと考えた。
 思えばこの1号機製作の時代には、私の技量が足らずこんなに細長い構造でバックロードホーンができると考えていた。ヘッドユニットはブロック間の隙間だらけでホーンロードがかからず大失敗。すぐに1号機は解体された。
 LEGOスピーカーの当初の目的は私のスピーカー技術の研究にあり、様々な方式を試して来たが、失敗作も本当に多かった。だが、この失敗経験こそ貴重な財産なのだ。 これによりスピーカー方式の勉強はもちろん、制作上のノウハウも習得してLEGOスピーカーの持つ問題点も克服してきたのである。なによりLEGOスピーカーは失敗が怖くない。 使用したLEGOは完全に素材として再利用できるのだ。もちろん、改造、修正も容易なのでなにが問題点なのか検討することができた。
 これまでに65台もLEGOスピーカーを製作してきたが、1年に6台以上、2ヶ月に1台の製作ペースである。この製作効率の高さもLEGOスピーカーのメリットの一つだ。
 再利用のため、この65台のすべてが現存するわけではない。実際にリスニングに使用している常用機が5台、待機中システムが5台、倉庫に20台程度置いてあるので、おおよそ30台が残っている。 他の35台は解体されてリサイクルしているのである。
 ところで、簡単に私の保有LEGOブロック数を計算してみると、使用ブロック数は小型モデルで1,000個程度、大型モデルでは6,000個を超える。 平均して1台に2,000個くらい使用しているので、トータルで6万個!以上のLEGOブロックを使っていることになる。

写真2 1号機(2007.8)
写真2
1号機(2007.8)

 振り返ってみると、5年前、5周年記念モデルとして造った28号機(写真3)から私のスピーカー製作技術も本当に変遷、向上してきた。
 この28号機は当時の私の流行技術であったタンデムドライブ方式を採用している。高級なリボントゥイーターと15cmウーハーを採用し、内蔵したサブユニットには10cmフルレンジFE103Enを使ったという大型本格モデルであった。
ところが、倉庫に眠っていた本機を久しぶりに聴いてみるとぜんぜん音が良くない。
LEGOブロックの隙間は開いたままだし、吸音材には当時は活性炭を詰め込んでいた。なによりタンデムドライブ方式は低音域に独特の圧迫感があり、今では不自然に聴こえるのだ。 当時よりも私の評価基準も上がっているのだが、これではせっかくの高級スピーカーユニットがもったいない。
 ここのところアクティブラジエーター方式の研究が続き、本当に音の良い本格スピーカーシステムを製作したくなっていた。
 10周年記念モデルはこの28号機を現在の最新技術でよみがえらせよう!
そう考えたのである・・・決して新型の製作費用をケチったのではない。

写真3 LEGOスピーカー5周年記念モデル 28号機
写真3
LEGOスピーカー5周年記念モデル 28号機

2.設計

 本機の狙いは何か? というとズバリ音の良さである。本格的な大型モデルで奇をてらうことなくオーソドックスに正攻法で造りたい。メインシステムとして実用的に音楽を楽しむために造るのである。
したがって方式はごく普通のバスレフ方式に決めた。また、デザインはベースの28号機を踏襲する。前面のレイアウトがシンプルで結構気に入っているのだ。
早速図面を描いてみた。

 図1に構造図を示す。バッフルパネルは十分に補強して振動対策を行う。強力な15cmウーハーのパワーに負けない分厚いパネルにしよう。
28号機はサイドのコーナーカット部分にコンクリート色のスロープブロックを用いていたが、あまり良い色ではないので、最近のLEGOスピーカーのアイデンティティーデザインであるホワイトエッジに仕上げてスリムな意匠にしたい。
大型になるフレームにはしっかりとマスキングテープによる密閉対策を行う。これは制振効果と補強にもなる。
 最大の問題点は大面積のリアパネルである。
通常、LEGOスピーカーのリアパネルはプレートブロックを3枚重ねにして強度を得ているが、柔軟性があるためにこのような大面積ではタイコのようにフラフラになってしまうのである。 そこで補強桟を入れたり内部に柱を立てたりと工夫をするが、十分とは言えない。今回はこの部分に新たな構造的試みを行うのだ。

図1 66号機構造図
図1
66号機構造図

 その新たな構造とは、バスレフダクトの利用である。
 バスレフ方式ではダクト構造を内部に造り込む必要があるが、低音放射の効率からは前面バッフルパネルの一部に円形または正方形のバスレフポートを開口することが望ましい。
 しかし、これは同時にバスレフのクセ、つまり共鳴音や風切り音が強調される危険があり、また、中音域の漏洩も問題となる。さらに、内部のダクト構造は内容積を犠牲にしてしまう。 そこで、エンクロージャ床面などを利用したスリットダクトは共振効率の点では劣るが、内容積の圧迫が少なくなり、ダクトも丈夫にできるという利点がある。
ダクトをリアパネルに配置すると効率は低下するがクセは少なくなる。この場合、スピーカーセッティングの影響を受けるという問題も生じる。
 このようにバスレフダクトの配置で利点欠点があるのだが、本機はこのバスレフ構造を構造図に示すようにリアパネルに造りこみ、上面開口のスリットダクトとすることで、リアパネルの補強構造とするのである。 さらに、LEGOスピーカーの製作で問題となるデバイディングネットワーク素子の固定をこのバスレフダクト面で行うのだ。 これは素子固定用の穴あけがリアパネルの強度と密閉性を低下させる大きな要因であるためで、まさにLEGOスピーカーに特化した最適構造と考えられるのである。
 実効内容積7リットルのエンクロージャで、高さ320mmのリアパネルの半分である160mmまでダクト構造を配置して補強構造とし、ダクト共振周波数をウーハーのfo:56Hzからこのあたりに設定すると、計算式によりダクトの開口面積が算出される。 そして、実装素子の寸法からダクトパネルの大きさを決定すると、スリットダクトの形状がきれいに定まるのである。このような理詰めの構造設計は考えていて実に楽しい。

 ここで今回使用するスピーカーユニットを紹介する。
28号機からの継続使用であるトゥイーターは、お気に入りのリボン型FOSTEXのFT7RPである(写真4)。リボントゥイーターというものはアルミ箔などの単純なリボンを振動板として用いるトゥイーター方式で、 このリボンに音声信号を流して強力な磁界中で振動させるのである。リボンは空気程度に極めて軽く、大変高いトランジェント特性が得られる。 また、高音域の再生限界も40kHz以上と高く、通常のコーン型やドーム型の振動板と異なり、全面が平行に駆動される点も指向特性改善のポイントである。
 リボンは1ターンのコイルとして動作するが、インダクタンスは大変小さい。そこで入力端子にインピーダンスマッチングトランスを挿入する。したがってこのトランスの性能も音質に大きく影響する。だから一般的にリボントゥイーターは高価だ。
 このリボントゥイーターの使いにくさを改良したものがプリントコイル方式である。薄膜にコイルパターンをプリントすることで軽い振動板と実用的なインダクタンスを得ている。 アルミ箔のリボンと比較すれば振動板に質量があるのでトランジェント特性は低下するが、ドーム型よりはるかに優れている。FOSTEXはリボントゥイーターと呼ばずにRP(Regulated Phase)方式と呼んでいる。(このモデルはすでに生産終了で残念)

写真4 FOSTEX RP Tweeter FT7RP
写真4
FOSTEX RP Tweeter FT7RP

<主な仕様>
 ・ インピーダンス:8Ω
 ・ 再生周波数帯域:3kHz~45kHz
 ・ 出力音圧レベル:93dB/W(1m)
 ・ 入力:80W(Mus.)
 ・ 推奨クロスオーバー周波数:3.5kHz以上
 ・ マグネット質量:27g(希土類磁石)
 ・ 質量:155g
 
 優れているリボントゥイーターを採用した市販スピーカーシステムがあまり多くないのは、その価格以外にハイトランジェントのトゥイーターにマッチしたレスポンスの良いウーハーが少ないからだと認識している。
ウーハーの振動板は大きく重いほうが低音の再生帯域は伸びる。だが重い振動板がリボンのレスポンスに追従するはずがなく、高音と低音のスピードが合わないのだ。そこでベースの28号機では振動板の軽いペーパーコーンのウーハーユニットを選定した。
 一般的にウーハーのコーンに採用される素材としては紙の他にポリプロピレンなどの樹脂とアルミなどの金属がある。振動板に要求される性能として強度と内部損失があり、強度は当然金属が一番だが内部損失が低く金属音が出てくる。
樹脂は中間的だが紙よりは重い。軽い振動板でレスポンスを優先するとペーパーコーンなのだ。ペーパーコーンウーハーとしてWavecorのWF152BD04という15cmウーハーを使用する(写真5)。 このモデルはWavecorが開発したBalanced Driveと呼ぶ、磁気回路のギャップ形状に工夫をして歪を低減する技術を搭載した高性能ウーハーユニットである。

写真5 Wavecor WF152BD04
写真5
Wavecor WF152BD04

<主な仕様>
 ・ インピーダンス:8Ω
 ・ 再生周波数帯域:56.5Hz~3.5kHz
 ・ 出力音圧レベル:88.5dB/W(1m)
 ・ fo:56.5Hz
 ・ Qts:0.42
 ・ 入力:70W
 ・ 推奨クロスオーバー周波数:3.5kHz以下
 ・ マグネット質量:630g
 ・ 質量:1.46kg

   図2に示すデバイディングネットワークは本格的な-12dB/octの回路である。
LEGOスピーカーでは、いつもはコイルとコンデンサー1段の簡易的な-6dB/octの回路を用いているが、LC素子を2段で用いるこの回路は遮断特性が良く、位相も合わせられる。 トゥイーターにデリケートなリボン型を使用しているので、28号機からこの回路なのである。リボントゥイーターはハイトランジェントで歪が少なく、私の最も好きなトゥイータータイプなのだが、低音域を入力すると破損の危険があるのだ。 したがって、クロス周波数は安全をみて高めの4kHzを設定している。
 リボントゥイーターは振動板が軽量であるため能率も93dBと高く、88.5dBのウーハーと4.5dB異なる。この差を調整し、さらに落ち着いた音にするために-6dBのアッテネーターをトゥイーターに挿入するが、 これもいつもの簡易的な抵抗器1本ではなく、本格的な抵抗器2本を組み合わせた定抵抗型減衰回路とする。これはインピーダンスを8Ωに保てるのでクロスオーバー周波数設定にアッテネーターレベルの影響が無い利点がある。
 素子定数の設計は28号機で使用した素性のわかっているスピーカーユニットの組み合わせなので容易に行えた。ポイントとしては、ウーハーのインピーダンスが公証は8Ωなのだが、 クロスの4kHz付近では公開特性から12Ω程度であることがわかるので、この値で計算している。こうしないとずれるのだ。もっとも、実際は利用できる素子定数は市販品で決まっているので丸める必要があり、詳細な計算はあまり意味は無い。
 本機ではLCR6素子を用いるので配線のため、素子固定には8個の固定穴が必要になる。

図2 デバイディングネットワーク
図2
デバイディングネットワーク

<66号機 基本仕様>
 ・ 方式:バスレフ方式2ウェイシステム
 ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
 ・ エンクロージャ方式:トップスリットダクト・バスレフ方式
 ・ 使用ユニット:ウーハー Wavecor WF152BD04(15cmペーパーコーン)
         トゥイーター FOSTEX FT7RP(RP方式)
 ・ 外形寸法:W192mm H320mm D214mm
 ・ 内容積:約7リットル
 ・ バスレフダクト長:16cm
 ・ バスレフ周波数:57Hz
 ・ クロスオーバー周波数:4kHz(-12dB/oct)
 ・ トゥイーターアッテネーター:-6dB
 ・ システムインピーダンス:8Ω
 ・ 質量:5.1kg

3.部品解説

 準備した全部品を写真6に示す。1台分で作業テーブルがいっぱい、さすがに大型モデルである。シンプルなバスレフ方式なので、エンクロージャはフレームとバッフルパネル、リアパネルしかなく簡単な構造である。 しかし、この中に多くの製作ノウハウが詰まっているのである。デバイディングネットワークも本格的なので素子数が多い。

写真6 全部品(1台分)
写真6
全部品(1台分)

 バッフルパネル(写真7)は部分厚さ22mmに達する強固な1枚パネル。
15cmウーハーの強力な振動に耐える補強構造である。左右のエッジには白いスロープブロックで音響的に効果のあるコーナーカットデザインを施し、本機のスリムな意匠の特徴となっている。内面には細かな隙間をマスキングテープで丁寧に処理してある。
エンブレムは66号機と10th Anniversaryのバッチを付けている。
 写真8にフレームを示す。内面はマスキングテープで密閉処理してある。このサイズになるとLEGOブロックの集合体では強度が低下するが、マスキングテープは内部損失を残したまま補強する効果もある。本機の柔軟なフレームの特性は音調にも現れるだろう。

写真7 バッフルパネル
写真7
バッフルパネル
写真8 フレーム
写真8
フレーム

 写真9はリアパネルである。本機の構造上の特徴であるバスレフダクト構造が仕込んである。ダクトの内面となる部分のLEGOポッチは気流抵抗の原因となり、バスレフ効率を低下させる恐れがあるのでタイルブロックでなめらかに処理した。 青いのは手持ちブロックの関係である。固定穴はターミナル用の2箇所のみで、密閉性も高い。
 写真10はダクトパネルである。デバイディングネットワーク素子のマウントパネルも兼ねており、8箇所に固定穴が開いている。

写真9 リアパネル
写真9
リアパネル
写真10 ダクトパネル
写真10
ダクトパネル

 デバイディングネットワーク素子と配線ワイヤーを写真11に示す。本格的な-12dB/octのデバイディングネットワークは部品総数も多く壮観である。
 写真12はその他の使用パーツ、吸音材のスポンジボール(1台に4個)とターミナル、インシュレーター、ネジ類である。  

写真11 ネットワーク素子類
写真11
ネットワーク素子類
写真12 その他のパーツ
写真12
その他のパーツ

4.製作過程

 組み立て作業を行う。まずはトゥイーターユニットのバッフルパネル取り付け作業である(写真13、14)。四角いマド穴にM4ボルト&ダブルナットでしっかりとトゥイーターユニットを固定する。 マド穴のカドにワッシャで引っ掛けて固定するのだが、強度は申し分ない。

写真13 トゥイーターユニット取り付け
写真13
トゥイーターユニット取り付け
写真14 トゥイーターユニット取り付け
写真14
トゥイーターユニット取り付け

 ウーハーユニットを取り付けてバッフルパネルの組み立てが完了(写真15、16)。
 M4ボルトの4箇所固定だが、15cmウーハーはフランジも大きく作業がし易い。ボルト穴の調整に余裕があるのだ。重いウーハーユニットをダブルナットでしっかりと固定する。

写真15 ウーハーユニット取り付け
写真15
ウーハーユニット取り付け
写真16 ウーハーユニット取り付け
写真16
ウーハーユニット取り付け

 バッフルパネルをフレームに固定する(写真17、18)。
各スピーカーユニットに配線を接続して、インシュレーターも貼り付けておく。
 

写真17 バッフルパネル取り付け
写真17
バッフルパネル取り付け
写真18 バッフルパネル取り付け
写真18
バッフルパネル取り付け

   ダクトパネルにデバイディングネットワーク素子、コイル2個、コンデンサー2個、抵抗器2個を実装する(写真19、20)。パーツが多くパネル面はいっぱいである。 これだけの素子を並べるために、広いダクトパネルの面積が得られるスリットダクト形状を採用したのだ。

写真19 ダクトパネル素子実装
写真19
ダクトパネル素子実装
写真20 ダクトパネル素子実装
写真20
ダクトパネル素子実装

 リアパネルにバスレフダクトとなるダクトパネルを取り付けると、強固なロの字補強構造になり、これだけ大きなパネルであるが曲げ強度もとても高い(写真21、22)。
  大面積のリアパネルだが貫通穴はターミナル用の2箇所しかなく最小限で、内面のダクト構造が中央部まであり、さらに下部にはダクトを延長する形で補強桟構造を追加している。

写真21 リアパネル組み立て
写真21
リアパネル組み立て
写真22 リアパネル組み立て
写真22
リアパネル組み立て

 本機はシンプルなバスレフ方式なので、バッフルパネルの付いたフレームに、配線をしたリアパネルでフタをすれば組み立て作業は完了である(写真23,24)。
内部には吸音材のスポンジボールを4個挿入する。

写真23 リアパネル取り付け
写真23
リアパネル取り付け
写真24 リアパネル取り付け
写真24
リアパネル取り付け

 組み立ての完了した66号機の外観を写真25、26に示す。
ベースの28号機からバッフルデザインを変えていないので新鮮さはないが、サイドのコーナーカット部分がホワイトになり、シャープな印象になった。
外観上の大きな変化は天板奥に見えるスリットバスレフポートである。さあ、音はどうだろうか?

写真25 66号機外観
写真25
66号機外観
写真26 66号機外観
写真26
66号機外観

5.試聴と評価

 音質評価に先立ち、まずはインピーダンス特性を測定する。図3に示すインピーダンス特性において低音域のきれいな2山特性からバスレフ方式の密閉性が十分に確保できていることがわかる。 システムのfoはピーク位置を推定して、おおよそ60Hzと読み取れる。
ウーハー単体のfo:56.5Hzから若干上昇しているが、この程度であれば内容積的には十分で問題ないだろう。
 デップ位置からバスレフ周波数は57Hzと読み取れる。これはエンクロージャの設計周波数とドンピシャリである。システムのfoとほぼ一致しており、バスレフ周波数の調整は不要と判断した。
 システムの最低インピーダンスは7Ω。高音域側の2.7kHz付近のピークはクロスオーバー周波数を示しているのではないが、このあたりからトゥイーター領域に切り替わることがわかる。

図3 インピーダンス特性
図3
インピーダンス特性

 周波数特性(図4)はさすが、リボントゥイーターといった感じのきれいな高音域特性である。
4kHz付近でのウーハーとのクロスオーバー部分に乱れも無く、きれいにつながっている。
300~600Hz付近にある凸凹は測定環境の影響であり、部屋の壁反射によるものである。
低音域は150Hz程度までフラットに伸びていて、70Hz付近にはバスレフダクトの効果も見ることができる。測定環境の騒音ノイズレベルは-55dB以下であり、50Hz程度にもレスポンスが確認できる。
 1kHzの能率に対する-10dB再生周波数は100Hz~20kHz以上(測定限界以上)であるが、この測定はデッドな部屋で測定マイクをトゥイーター軸上50cmという至近距離にセッティングしたものなのでリスニング条件とは大きく異なる。 この測定方法の方が部屋の影響を抑えられるからなのだが、現実のリスニングポジションでは特に低音域は部屋の音を聴いており、別のモデルで確認した経験からは、おそらく60Hzくらいまでは伸びているものと考えられる。 15cmウーハーを搭載しているので順当な結果であろう。
 図5にインパルス応答を示す。(縦軸:周波数、横軸:時刻)
これは周波数特性測定から計算によって求めたパターンであるが、周波数特性には表現できない時間軸上の特性情報が示される。
ポイントはクロスオーバー部分で時間軸(位相)に乱れがなくきれいにつながっていることであるが、みごとに0時刻にそろっている。このことから、デバイデンングネットワークの設計にも問題が無いと判断される。
 高音域の美しい時間特性はリボントゥイーターならではのもので、主信号にまとわりつく反射ノイズが少ないことからバッフル面の回折音などの影響も良く抑えられている。
6ms付近に生じている強い反射音はマイク背面の窓ガラスからの反射(往復2m)である。

図4 周波数特性
図4
周波数特性
図5 インパルス応答
図5
インパルス応答

 試聴の結果は10周年記念モデルとして満足のゆくものであった。
これまでに培ってきた私のLEGOスピーカー製作技術が遺憾なく発揮されている。
強化リアパネルの効果と柔軟なエンクロージャによる柔らかな音を楽しむことができた。
 リボントゥイーターの美しい高音は本当に魅力的だ。なによりスピーカーシステムの存在が消えるような音場感の再現が素晴らしい。
しばらくはメインシステムとして君臨しうる実力である。

写真27 試聴の様子
写真27
試聴の様子

6.おわりに

 私はスピーカーシステムにはその個体に適した音楽ジャンルがあると考えている。
オールマイティになんでも聴けるスピーカーシステムの方が便利かもしれないが、使い分ける(使いこなす)という趣味としての楽しみにおいては、個性があった方が楽しいのだ。
この66号機は15cmウーハーを搭載した、7リットルのLEGOスピーカーとしては最大級の大型モデルなので、低音域のレスポンスは申し分ない。しかし、このモデルの最大の特徴はリボントゥイーターが再現する美しい高音にある。
だから、KT66シングルの真空管パワーアンプにつないでヴァイオリンソロを聴きたかったのだ。そのために存在するシステムでも良い。
柔らかな本機の音調は補強をガチガチに行っていないことによる柔軟なLEGO製エンクロージャの効果も大きいと感じる。
「再現されたヴァイオリンの音に感動した・・・」ということこそが、本機を製作した最大の成果なのである。


(2018.8.19)

写真28 ニューリファレンスシステム 66号機
写真28
ニューリファレンスシステム 66号機

第54報LEGOスピーカーの製作第56報

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