LEGO SPEAKER 第67報

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LEGOスピーカーの製作 第67報

写真1 バリアブル・バスレフ研究第2弾 78号機
写真1
バリアブル・バスレフ研究第2弾 78号機

1.新しいスピーカーユニット

 写真2は、2021年の8月に入手していた、stereo誌MOOK付属のスピーカーユニット オンキョー製10㎝フルレンジ「OM-OF101」である。
価格的にも、品質的にも雑誌の付録というよりは、解説書付きスピーカーユニットを販売しているように感じる。そのくらい高品質なのだ。
この「OM-OF101」の特徴はなんと言ってもその外観にあり、生物的というか、とても変わったコーンデザインをしている。
センターの黒いフェイズプラグ(砲弾状のアルミ部品)も高級感がある。
これはエンクロージャのデザインにも気を使いたくなる。
さて、今回の78号機はバリアブル・バスレフ研究の2号機を計画したい。

<OM-OF101 規格>
  ・ 形式:10㎝コーン型フルレンジ
  ・ インピーダンス:6Ω
  ・ 最低共振周波数:92Hz
  ・ 再生周波数帯域:fo~30kHz
  ・ 出力音圧レベル:86dB/W/m
  ・ 最大入力:20W
  ・ Q0:0.67
  ・ 実効振動板半径:4cm
  ・ 質量:765g

写真2 OM-OF101
写真2
OM-OF101

2.設計

 75号機で初めて採用したバリアブル・バスレフ方式は、バスレフダクトの中に移動できるスチロールボールを仕込むことで、音圧でダイナミックにバスレフ動作を変化させようというオリジナル技術である。
だが、75号機ではバスレフ効率を意図的に低下させて低音の大音量時に、バスレフのクセを低減するという狙いであったため、小型のスピーカーシステムでは、そもそも低音の再生効率が低いのでこの技術が活かされない。
そこで、本機、バリアブル・バスレフ研究第2弾では、異なるアプローチをしてみたいと思う。
 図1は78号機の構造図であるが、構造的にはシンプルなバスレフ型エンクロージャである。
ポイントはリアパネルに構成されたバスレフダクト内部のスチロールボールだ。
写真3は実際に製作したリアパネルで、このリアパネルには垂直にバスレフダクトが造り込んである。
ダクト長は16㎝で、約5リットルの内容積とダクト断面積から、バスレフ共振周波数はおおよそ58Hzと計算した。
下端には写真のゲートブロックが付いており、中のボールが落ちないようになっている。
このダクトに写真のスチロールボールを適量挿入する。
スチロールボールは形状が均一なので、ランダムな動作を狙って、8mm径と10mm径を混在した。
このボールによりダクトは塞がれ、内部音圧の低い小音量時には密閉型のような動作となる。そして、大音量時には内圧により、ボールが踊ってダクトが共振を始めるので、バスレフ動作となる・・・ということを期待している。
つまり、小音量時には密閉型特有のスピーカーユニットにエンクロージャ内の空気バネ効果が働いた、レンジの伸びた締まった低音が再生され、大音量時には内圧を利用して、ダクト共振による放射効率の良い低音再生と、内圧低減による歪の改善効果という好いとこ取りをするのだ。
まあ、所謂ダンプドバスレフなのだが、音圧でダイナミックに特性が変化する点がミソなハイブリッドシステムである。

図1 78号機構造図
図1
78号機構造図
写真3 リアパネルとボール
写真3
リアパネルとボール

<78号機 基本仕様>
  ・ 方式:バリアブル・バスレフ方式フルレンジスピーカーシステム
  ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
  ・ エンクロージャ方式:バスレフ型
  ・ 使用ユニット:オンキョー OM-OF101 10㎝コーンフルレンジ
  ・ 外形寸法:W160mm H256mm D220.8mm
  ・ 実効内容積:約5リットル
  ・ バスレフ共振周波数:58Hz
  ・ システムインピーダンス:6Ω

3.製作

 写真4に示す部品を準備した。
構造的には3パーツからなるシンプルなハコである。
吸音材はテニスボールを3個挿入するが、密閉型としての動作もあるので多めにしている。
今回の特徴的部品はスチロールボールである。

写真4 全部品
写真4
全部品
写真5 バッフルパネル
写真5
バッフルパネル

 写真5がバッフルパネルである。
プレートブロック6段分で約2㎝と十分な厚みがあり、強度は申し分ない。
サイドのコーナーはラウンドバッフルになっており、回折音を抑える効果がある。
スピーカーユニットのボルト固定穴は穴あきプレートブロックで構成されており、多くの10㎝径ユニットは穴位置寸法がほぼ同一なので、この構造で取り付けが可能なのだ。
つまり、将来的に異なるスピーカーユニットへの交換も可能ということだ。

写真6 フレーム
写真6
フレーム
写真7 リアパネル
写真7
リアパネル

 写真6のフレームは単なる枠だが、本機ではリア側の垂直バスレフダクト用のキリカキが特徴である。
このような構造を隙間なく、正確に、容易に実現できることが、LEGOスピーカーのメリットなのだ。
内面にはいつものように、養生テープで十分に目張りを行う。
 先にも示したが、リアパネル(写真7)には垂直にバスレフダクトを設ける。
この写真ではよく見えないが、ダクトの入口にはLEGOのゲートブロックが付けてあり、中のスチロールボールが落ちないようになっている。
このゲートによる気流抵抗が生じ、バスレフの効率は若干低下すると考えている。
出口のゲートは一旦外してあり、ボールの最適化実験に備え、実験の後完成時に閉じる予定である。
このダクト構造は、強度不足が問題となるリアパネルを強化する効果もあるのだ。
 写真8はスチロールボール、吸音材のテニスボールなどのその他の部品である。

写真8 その他の部品
写真8
その他の部品

 組み立て作業はバッフルパネルから行う。(写真9、10)
本機は10㎝フルレンジユニットなので、取り付け穴に余裕があり、穴あきプレートブロックを使用してしっかりと固定することができる。
8㎝ユニットなどでは、窓穴のヘリにワッシャを引掛けて固定するという荒業が必要になるのだ。
4本のM4ボルトで、重いスピーカーユニットを強固に固定することができた。

写真9 バッフルパネル組み立て1
写真9
バッフルパネル組み立て1
写真10 バッフルパネル組み立て2
写真10
バッフルパネル組み立て2

 リアパネルの組み立ては、すでにバスレフダクトを組み込んであるので、ターミナルを固定するだけだ。(写真11、12)
1枚板で最も強度の不足するリアパネルも、今回は補強十分で頼もしい。
ダクト出口のゲートブロックは開けてあり、中のボール量調整などの最適化実験の後に蓋をする。
このような柔軟な対応もLEGOだから容易なのだ。

写真11 リアパネル組み立て1
写真11
リアパネル組み立て1
写真12 リアパネル組み立て2
写真12
リアパネル組み立て2

 バッフルパネルをフレームに取り付ける。(写真13、14)
本機は10cmフルレンジシステムとしては比較的大型で、内容積を5リットルと十分に確保している。
スピーカーユニットに配線ワイヤーも接続しておく。

写真13 バッフルパネル取り付け1
写真13
バッフルパネル取り付け1
写真14 バッフルパネル取り付け2
写真14
バッフルパネル取り付け2

 吸音材のテニスボールを3個入れて、リアパネルでフタをして、底面にインシュレーターを貼り付ければ組み立て作業は完了である。(写真15)
シンプルな構造なので、組み立て作業は容易である。

写真15 リアパネル取り付け
写真15
リアパネル取り付け

 組み立ての完了した78号機の外観を写真16、17に示す。
その意匠はおとなしい風貌だが、生物的デザインの振動板を持つ、このスピーカーユニットに合わせて左右のコーナーをラウンドバッフルにしている点が特徴となる。
だが、まだ完成はしていない。肝心のバスレフダクトの調整が残っているのだ。

写真16 78号機外観1
写真16
78号機外観1
写真17 78号機外観2
写真17
78号機外観2

4.調整と試聴

 まずはいつものようにインピーダンス特性測定から行う。
図2はスチロールボールを入れないノーマルダクトにおける特性である。
ノーマルダクトの特性を見ると、バスレフ共振周波数はシステムの最低共振周波数foの少し下で、70Hzくらいにあることがわかる。
これは設計値58Hzよりも高めであるが、吸音材のテニスボールによる影響と考えられる。
バスレフ共振周波数の設定としては問題ないと判断する。
若干、バスレフ特性の谷が明瞭でなく、共振効率が悪いように感じられるが、リアパネルの縦構造ダクトで、下側に付けたゲートの気流抵抗のロスが大きいのだと考える。
実際にこの状態で音を聴くと、正しくバスレフダクトが動作していることが確認できた。
 次にスチロールボールを少なく挿入した場合と、多く挿入した場合のインピーダンス特性を図3、4に示す。
また、参考に手でダクトを完全に閉鎖した状態の特性、つまり密閉型の特性を図5に示す。
バスレフ状態のインピーダンス特性図2と比較して、スチロールボールが少ない状態でも、インピーダンス特性には明らかな変化があり、バスレフ共振点のディップが減り、低域の共振周波数が若干低下し、共振のQ値が増加する様子が確認できる。
ボールを多くすると、さらに変化が増し、完全閉鎖の密閉状態の特性に近づいて行くことが観察される。
これは狙い通りの特性変化である。

図2 インピーダンス特性(ノーマル)
図2
インピーダンス特性(ノーマル)
図3 インピーダンス特性(ボール少)
図3
インピーダンス特性(ボール少)
図4 インピーダンス特性(ボール多)
図4
インピーダンス特性(ボール多)
図5 インピーダンス特性(ダクト閉鎖)
図5
インピーダンス特性(ダクト閉鎖)

 挿入したスチロールボール量が「少」「多」というのは定量的でないが、実際に「少」でダクトに挿入したボールの量は写真18に示す1皿分である。「多」ではこの2皿を挿入した。

写真18 ボール挿入
写真18
ボール挿入
写真19 試聴
写真19
試聴

 本来は周波数特性もボール量の違いで測定したいところであるが、測定する音量では小さすぎてボールが踊ることがなく、変化が出ないと予想される。
ボールが踊るほどの大音量での測定は、スピーカーユニットを破損する恐れがあるので、やりたくないのだ。
そこで、この効果は音楽の試聴で確認することにした。(写真19)

・・・試聴の結果
明らかな違いがある!
まず、ボールを入れずに普通のバスレフダクトとして聴いてみる。
その音はいかにもバスレフ方式の音で、低音域の充実感はあるものの、常に低音感というか、共振音がまとわり付く感じの音だ。
次にボールを入れて聴いてみた。
なんとも明るい、すっきりとした音がする。
まとわりついていた共振音が低減されているのだ。
それでいて、必要な時にはバスレフが効いてダクトから共振音が出てくる。
低音の不足感もあまり感じられない。
これは大成功!! 

と思いきや・・・
低音の大音量部分で異音、振動音が出てくるのだ。
スチロールボールがダクト内面に当たって「ビーン」という異音を発生してしまった。
これでは不良品である。
まさかスチロールボールがこんなに大きな異音を生じるとは思わなかった。
早速、別の素材、フェルトボールを用意した。(写真20右)

写真20 スチロールボールとフェルトボール
写真20
スチロールボールとフェルトボール

 まずはフェルトボールでもちゃんと機能するか、インピーダンス特性を測定して確認する。(図6、7)
挿入量を少、多と2状態で測定してみたが、明らかにスチロールボールと比較して、バスレフ共振特性に対する変化が少ない。ダンピングは効いているようなのだが・・・
音を聴いてみると、単にバスレフ効果が減衰したような感じで、これはダンプドバスレフの音である。
どうも、フェルトボールでは繊維が絡まって一体となり、単純なフェルトの塊になってしまい、意図した音圧による動きが生じないようなのだ。
スチロールボールと同様な音質改善は得られなかった。
異音は全く無いのではあるが・・・。

図6 フェルトボール少
図6
フェルトボール少
図7 フェルトボール多
図7
フェルトボール多

 やはりスチロールボールを使用したい。すると振動による異音はどうするか?
次は写真21の樹脂ネットを試してみた。
スピーカーグリルに貼るサランネットも検討したが、自立しないので扱いが難しく、繊維が絡んでフェルトボールのような状態になることを嫌った。
写真の樹脂ネットはバックなどを製作する素材である。
これを適当なサイズに切って、バスレフダクトの下部内面(底と四方の壁)に貼ってみた。
 インピーダンス特性の確認を行う。(図8)
ネットを貼っても、インピーダンス特性変化は確認され、スチロールボール少量挿入の効果は確かに出ている。
しかし、ダイナミックな特性変化は、この静特性測定では解らない。
異音対策にも効果があると良いのだが。

写真21 樹脂ネット
写真21
樹脂ネット
図8 ネット+スチロールボール少

図8
ネット+スチロールボール少

 試聴を行う。
異音は抑えられている。
スチロールボールによるバリアブル・バスレフ効果の明るい音調も出ている。
これはうまくいったと考えられる。
大音量時には、スチロールボール間の接触でまだ異音が残ってしまうが、常識的な音量ではあまり気にならない。
本機は、まずはこれで完成としたい。

 最後に周波数特性を測定したいのだが、今回はちょっと実験をしてみた。
いつも周波数特性の測定では苦労している。
メーカーのように無響室があれば良いのだが、一般の部屋では壁や床と天井による反射で、低音域が大きく影響を受け、まともに測定ができないのだ。
 図9はスピーカーシステム正面の50㎝のところに測定マイクをセッティングして測定したものだが、中高音域はほぼフラットに出ており、正しく測定できていると考えられる。
しかし、こんな近くで聴くわけではないので、リスニング時の特性とはかけ離れている。
低音域は部屋の影響で95Hz付近に大きなディップがあり、このため明らかな低音不足に測定されている。
測定ポイントが近いために、中高音域の音圧が相対的に強まっており、これも低音不足に測定されている理由である。
 図10、11は100cmと150cmにマイクを移動して周波数特性を測定したものである。
50cmの特性と比較して見ると、1kHzを中心とした中音域はマイク距離が大きくなるにしたがって、室内反射の影響による凸凹が増加するとともに、音圧レベルが低下していく様子がわかる。
高音域の音圧は測定距離が大きくなるほど顕著に低下している。
高音域は主に直線的に進行し、吸音されやすく、拡散して行くので音圧が距離に反比例するのだ。
低音域に着目して見ると、室内反射によるディップが3点存在し、これがマイク設置距離で移動して行く様子が観察できる。
  ・55Hz → 60Hz → 67Hz
  ・90Hz → 105Hz → 115Hz
  ・170Hz → 190Hz → 205Hz
この測定結果からわかることは、リスニングポジションで全く異なる音を聴いているということである。

図9 周波数特性(マイク位置50cm)
図9
周波数特性(マイク位置50cm)
図10 周波数特性(マイク位置100cm)
図10
周波数特性(マイク位置100cm)
図11 周波数特性(マイク位置150cm)
図11
周波数特性(マイク位置150cm)
図12 周波数特性(正規化合成)
図12
周波数特性(正規化合成)

 見易いように3つのグラフを1kHzで正規化して描いてみた。(図12)
1kHzでの77dBという音圧は、この測定系での値であって、スピーカーシステムの能率を示しているのではない。
高音域は測定距離に応じて、きれいに減衰していく様子がわかる。
注目は低音域だが、壁面反射による3点のディップが動いていく様子が良くわかる。
本来のスピーカーシステムの低音域特性は、この3本のグラフを包括した特性であると考えられる。
そのようにして眺めてみると、1kHzの-10dB、即ち67dBとなる低音再生帯域はおおよそ90Hz程度であると見ることができる。
部屋の反射の影響で、直接測定できない低音域の周波数特性を観察する方法として、これは有効なのではないかと考えている。
しかしながら、本システムの最大の特徴であるバリアブル・バスレフ方式の動的な特性を測定することは困難である。
測定音圧を変えながら測定すればわかるかもしれないが、あまり大きな音圧での測定はシステムの破損につながる。
このような比較的小さな音圧では、ダクトが塞がり、低音域特性はバスレフ共振特性が抑えられて、なだらかに減衰していく密閉型システムの特性に近づくと考えている。
やはり、重要なのは試聴による評価であると思う。

5.おわりに

 新たに考案したオリジナル技術であるバリアブル・バスレフ方式は、初めての実験機である75号機では、大音量時にバスレフダクトの効率を抑えることで、ダクトの共振音を低減するといったシステムであった。
しかし、これは低音域の再生帯域を拡張したいという本来の小型スピーカーシステムの要求からは外れていた。
そこで、本78号機ではバリアブル・バスレフシステムの動作を変更して、バスレフ方式と密閉型方式のハイブリットシステムとしての動作を狙ってみた。
この結果として、小音量時には低音域の共振音が抑えられてクリアな音質となり、大音量時にはバスレフが効いて低音域の再生効率を向上するという効果が得られた。
スチロールボールからの異音という課題は完全には解決できていないが、十分な成果は得られたと考えている。
今後も、この方式を研究して完成形に近づけて行きたいと思う。

(2022.08.20)

写真22 バスレフ・密閉型ハイブリッドシステム
写真22
バスレフ・密閉型ハイブリッドシステム

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