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LEGO SPEAKER 第66報 ≪第65報 第67報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第66報
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1.77号機構想 |
前回、76号機で使用したスピーカーユニット「OM-MF4」(写真2)のインピーダンス特性を見ると、パッシブラジエーターユニットとして1.8gのウエイトを追加すると、振動板質量が重くなって、foが低下し、まるで超コンパクトウーハーの特性のように感じられた。
これを使用して2ウェイシステムはできないだろうか?
と考えたのだ。
この「OM-MF4」は8Ωなので並列接続が可能である点も好都合である。
せっかく小径6㎝ユニットなので、できるだけコンパクトにまとめてみたいと思う。
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2.設計 |
77号機の構造図を図1に描いた。
76号機が使用スピーカーユニットの割には大型になってしまったので、本機はミニマムな設計である。
特徴は6cmフルレンジユニットOM-MF4を3本使用して、1つはメインユニット、2つ目は振動板にオモリを付加したウーハー動作(以降これを疑似ウーハーと呼称する)、3つ目はこの2本のスピーカーユニットによって駆動されるパッシブラジエーターとなる。
これは、とても小さなエンクロージャ内の背圧を逃がす効果も狙う。
スピーカーユニットを3つも搭載しているので、手のひらに乗るが、ズシリと重いシステムになるだろう。
設計段階で検討事項がある。3本のスピーカーユニットをどのように配置するかだ。
フロントの上部にはメインユニットを配するとして、この下部にオモリを付加した疑似ウーハーを置くか? パッシブラジエーターを置くか? である。
ウーハーと言っても、オモリを付けてfoを低下させた同じフルレンジユニットで、今回は簡易的にデバイディングネットワークは使用しないで、単純なパラレル接続にする予定なので、中高音もかなり出てくると予想される。しかも、オモリの影響でこの帯域はひずみの多い音だろう。
そこで、この疑似ウーハーは背面に配して、フロント下部にはオモリを2個付加した、パッシブラジエーターをもってくることにした。
パッシブラジエーターユニットにはオモリを2個付けるが、これは前回の経験からである。
また、背面の疑似ウーハーユニットから放射される中高音域は音場型システムとしての効果も得られるだろう。さらに、前後で駆動される2本のスピーカーユニットは低音の振動成分を相殺する働きも狙えるのである。
ここで、確認のために、オモリを付加した各スピーカーユニットのインピーダンス特性を改めて測定してみた。
オリジナルの特性(図2)では最低共振周波数foが105Hz程度であることがわかる。
「OM-MF4」公証値の97.5Hzと若干異なるが、これは測定方法の違いだろう。
ここに1.8gのウエイトを1個付けると、foが73Hzくらいに低下することがわかる。(図3)
さらに1個追加して付けると59Hzくらいに下がる。(図4)
ウエイトを付加しても、中高音域のインピーダンス特性に影響が見られないので、振動系が異常動作を起こすといったトラブルは生じていないと考えられる。
実験として、この2個のウエイトを付けたスピーカーユニットに、付属していた樹脂製の保護カバーを装着して測定してみると、foは73Hzくらいに上昇した。(図5)
先の76号機の製作経験から、アンプに接続されて電磁ブレーキのかかるメインユニットにより、自由度の制限されるパッシブラジエーターユニットはfoの上昇が考えられるとしたが、この実験で実証できた。
実機ではここまでの上昇は無いと思うが、このオモリを2個付加したパッシブラジエーターは70Hzくらいで機能すると想定される。
なお、この実験特性で、150Hz付近に特性の異常が見られるが、これはカバー装着の影響で振動系に異常動作が生じたためと考えられる。
<77号機 基本仕様>
・ 方式:パッシブラジエーター方式疑似2ウェイスピーカーシステム
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:密閉型
・ 使用ユニット:Markaudio OM-MF4 6cmメタルコーンフルレンジ ×3
・ 外形寸法:W96mm H192mm D118.4mm
・ 実効内容積:約0.8リットル
・ 疑似ウーハーユニットウエイト:1.8g
・ パッシブラジエーターウエイト:3.6g
・ システムインピーダンス:4Ω
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3.製作 |
製作したパーツを写真3に示す。
スピーカーユニットが6本もあるのが壮観だが、6cmユニットなので、全部品でもコンパクトである。
エンクロージャは基本的には密閉型なので、シンプルな構造。
リアパネルに疑似ウーハーユニット取り付け用の窓が開いていることが本機の特徴である。
写真4がバッフルパネルである。
76号機と同様に、このスピーカーユニットは角窓穴で取り付けができるのでありがたい。
裏面はナット止めのためのザグリをいれてある。
厚さはプレートブロック6枚分で約2cmあり、日の字形状の枠型パーツだが、十分な強度がある。
前面のデザインはサイドホワイトリボンのLEGOスピーカーアイデンティティデザインで、77号機のロゴが光る。
写真5のフレームは8段、約8cmのただの枠構造であり、内面にマスキングテープを貼って密閉性を確保している。また、スピーカーユニットに付属していた薄い円形のスポンジシールを内面の一部に貼って内部反射を抑えている。
写真6のリアパネルは背面ユニット取り付け用の窓穴が開いていることが特徴だ。
強度を確保するために、枠付き形状としたプレートブロック6段にてできている。
ターミナル用の穴と、バッフルと同様に内面にボルト固定用のザグリがある。
写真7がその他のターミナル類である。
組み立てはいつものように、バッフルパネルから行う。(写真8,9)
メインユニットを上部に、パッシブラジエーターユニットを下部にしっかりと固定する。
6㎝ユニットとはいえ、さすがに2個も取り付けると重さが頼もしい。(写真10,11)
十分な厚みをとっているので、バッフルパネルにゆがみは出ない。
リアパネルにターミナルを取り付ける。(写真12,13)
リアパネルに疑似ウーハーユニットを取り付ける。(写真14,15)
このスピーカーユニットは角穴で固定ができるので本当に楽である。
バッフルパネルをフレームに取り付ける。(写真16,17)
フレーム内部はマグネットでいっぱいだが、ボルト固定用のザグリがあるので、気流抵抗は抑えられるだろう。メインユニットに配線ワイヤーも接続しておく。
リアパネルの疑似ウーハーに配線してフレームに取り付ければ完成である。
配線はメインユニットと疑似ウーハーユニットをパラレルにターミナルで接続する。
最後にゴム足も貼り付ける。(写真18)
本機はパッシブラジエーター方式なので、吸音材は使用しない。
組み立ての完了した77号機の外観を写真19、写真20に示す。
超コンパクトに凝縮されたサイズなのに3ユニット搭載で、ずっしりと重い。
この背面の疑似ウーハーユニットが最大の特徴である。
よく見ると、フロント下側のパッシブラジエーターユニットにはステンレスリングのオモリが2個、背面の疑似ウーハーユニットには1個、装着されていることが見える。
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4.測定と試聴 |
まずはインピーダンス特性から測定した。(図6)
本機はパッシブラジエーターシステムなので、この影響でいびつな特性となっているが、システムとしてのfoは70Hzくらい。これは先に示したウエイト1個付加の疑似ウーハーのfoに近い。最低インピーダンスは3.7Ωくらいである。
高音域のインピーダンス特性は、スピーカーユニット単体の特性を半減したパラレル接続のそれとなっている。
次に周波数特性を測定した。(図7)
リスニングルームで、試聴位置にスピーカーシステムをセッティングし、マイクを軸上1mに置いた測定であるので、低音域に部屋の影響を強く受けている。
だが、実際のリスニングに近い特性が得られている。
高音域は、このスピーカーユニットの特性と考えられ、6㎝と小径なので、20kHzまで良く伸びていることがわかる。
1kHzの音圧(70dB:測定音量での音圧なのでこのシステムの能率ではない)に対して低音域での-10dBレスポンス周波数はおおよそ90Hzと測定されている。
この超コンパクトなサイズからは、まあ伸びていると考えられる。
比較のため、先の76号機も同じ測定方法で周波数特性を測定してみた。(図8)
図体は76号機の方がずっと大きいが、内容積はほぼ同等で、同じスピーカーユニットを使用した、同じパッシブラジエーター方式ということになる。
低音域に着目すると、77号機の方が、100Hzで+2dBほどレスポンスが上昇している。これが疑似ウーハーの効果ということだろう。
たしかに、低音はより充実しているように聴こえる。同じメインユニットということで、5kHz以上の高音域はほぼ同様な特性となっている。
ところが、1kHz付近の中高音域において、明らかな違いが観測された。
これはなんだろうか・・・?
試聴してみると、77号機は明らかな異音が聴こえる。金属音が混じっているのだ。
どうも、疑似ウーハーに取り付けた、ステンレスリングから振動音が出てしまっているようである。(写真21)
これまで、何度もこのステンレスリングを付けたパッシブラジエーターは製作している。
しかし、今回のような、通常のメインユニットのように大きな駆動入力を入れたことは無かった。中高音域の信号が入力されて、ステンレスリングが共振を起こしてしまったのである。
考えてみれば、これは当たり前のことで、ステンレスリングは2重のリングで、ほんの一部が瞬間接着剤で固定されているだけである。振動がダンプされていないのだ。
振動板へのオモリとしてのステンレスリングの付加は、パッシブラジエーターの利用には問題はないが、ウーハーとしての使用には十分にダンプする必要があることが理解できた。
早速、見た目は悪くなるが背面なので良しとして、ステンレスリングを木工用ボンドで固めた。(写真22)
ボンド固定の効果はあり、金属音は収まった。
しかし・・・いろいろなソースで試聴を続けると、このスピーカーシステムは音楽を選んでしまう。大音量時に背面の疑似ウーハーから、別の異音が聴こえてきた。
振動系がバタつき出すのだ。
オモリのせいで振動系の負担が大きくなり、大きな駆動力に耐えられないのであろう。
これは参った。
だが、小音量でのリスニングは、このサイズにしては低音感も充実していて素晴らしい。小口径ユニットとコンパクトな外観で、音場感も良い。
ユニット3本を使用した本機は重さもあり、高級感が感じられる。
私はこういったミニチュアモデルの様な、凝縮感のある小さなスピーカーシステムがとても好きなのだ。
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5.まとめ |
完成した77号機は聴き方に制限はあるが、BGM用途では問題はない。
この作品は、一般的には失敗作であろう。
だが、疑似ウーハーの実験機としては、多くの知見を得ることができた。
オモリを追加した疑似ウーハーという発想は、振動系に大きな負担をかけ破綻してしまったが、また一つ勉強になった。
何よりも私はオリジナル技術を形にすることが、楽しくて仕方がないのである。
(2022.01.10)