LEGO SPEAKER 第65報

≪第64報 第66報≫

LEGOスピーカーの製作 第65報

写真1 ピュア・パッシブラジエーター 76号機
写真1
ピュア・パッシブラジエーター 76号機

1.Stereo誌付属のスピーカーユニット

 もう1年近くも前のことにはなるのだが、Stereo誌のmook本にスピーカーユニットが付属してきた(写真2)。3年連続でMarkaudio製である。
今回は6㎝フルレンジの超コンパクト「OM-MF4」。
いつものアルミ/マグネシウムのメタルコーンで、マグネットは8㎝ユニットと同等サイズでとても大きく、駆動力が期待できる。
特徴としては、振動板の振幅量(X max)が±4㎜と大きなことで、これは振幅で低音を出さなければならない小径ユニットでは重要なポイントである。
ちょっとうれしいのはインピーダンスが4Ωから8Ωに上がったこと。これで2ユニットの並列接続システムも造れるようになった。
 さあ、この素材をどう料理しようか? 

<OM-MF4 主な仕様>
  ・ 形式:6cmフルレンジ
  ・ 振動板材質:メタルコーン
         (アルミ/マグネシウム合金)
  ・ マグネット:フェライト
  ・ インピーダンス:8Ω
  ・ 出力音圧レベル:83.41dB
  ・ 最大入力:14W
  ・ 最低共振周波数:97.5Hz
  ・ Qts:0.64
  ・ X max:±4.0mm

写真2 OM-MF4
写真2
OM-MF4

2.検討

 LEGOスピーカーの製作で、一番最初に考えなければならないのは、使用するスピーカーユニットの固定方法の検討である。
つまり、バッフルパネルの固定穴をどう造るかということである。
基本的に角穴しか造形できないLEGOブロックで、円形のスピーカーユニットに適合した取り付け穴を造形することは結構難しいのだ。固定ネジやターミナルの逃げなどもあり、複雑である。使い慣れた8㎝や10cmのスピーカーユニットであれば経験値も多いが、今回のような特殊サイズのユニットでは苦労することが多い、特に小径になるほど自由度が減るので厄介だ。
幸いにもこのスピーカーユニットは64㎜のシンプルな角穴で行けそうだ(写真3)。
64㎜はLEGOの1ピッチ8mmの8ピッチ分であり、これは簡単に製作できる。
ひとつ問題をクリアできた。

写真3 固定方法検討
写真3
固定方法検討
写真4 オモリ付加
写真4
オモリ付加

 さて、本機の設計であるが、今回はシンプルなパッシブラジエーター方式にしてみたいと思う。
私はこれまで、パッシブラジエーター方式のシステムも本当に数多く製作してきた。初めての作品は32号機(2013年)であったと記憶している。この時は、専用のパッシブラジエーターユニットを使用して普通に造り、その効果を確認した。
そして、次の33号機では、駆動系を有する通常のスピーカーユニットでもパッシブラジエーターユニットとして代用できるのではないかと考え、製作してみた。
専用のパッシブラジエーターユニットは極めて市販製品が少ないのである。
この結果、様々な問題に遭遇し、改善の研究を進めることになるのだが・・・
要するに通常のスピーカーユニットをこの方式に使用すると振動系が弱すぎてスカスカの音になってしまうのだ。そこで、パッシブラジエーターユニット側に抵抗器を接続して電磁ブレーキをかけたり、コンデンサーを接続して高音域の漏洩を防止したり、色々な工夫を行い、この結果、アクティブラジエーター方式という発想に至った。
これは、サブユニット側にも減衰した信号を接続することで強制駆動して、この減衰量を調整してパッシブラジエーター動作とのバランスをとる方式である。
しかし、ここに来てサブユニットの振動板にオモリを付加するというまったく別の手法を獲得した。(諸先輩方には既知だが)
ならば、基本に戻ってシンプルなパッシブラジエーター方式を試してみたいということなのである。
 オモリの付加により、共振周波数を下げ、高音域の漏洩を防ぎ、メインユニットの適度な背圧負荷となるというすべての課題をクリアできると思うのである。
早速、スピーカーユニットの単体特性を測定してみよう。1.8gのステンレスリングを振動板に瞬間接着剤で固定してインピーダンスを測定する(写真4)。
 スピーカーユニット「OM-MF4」の単体オリジナルのインピーダンス特性を図1に示す。
仕様のfo:97.5Hzに対して105Hz程度に若干高く測定されたが、これは測定方法や環境の影響かもしれない。今回の測定ではオモリ付加による相対変化を見たいので問題は無い。
 ステンレスリング1個、1.8gのウエイト付加状態(図2)ではfo:73Hz程度に低下し、約30Hzも移動することがわかる。どのくらいのウエイトを付加して周波数をシフトするかが重要な設計ポイントであるが、あまりオモリを重くすると能率も低下し、効果が下がると考えられるので、この30Hzシフトぐらいが適当ではないかと判断した。
したがって、パッシブラジエータユニットのオモリは1.8gステンレスリング1個の付加とする。
 

図1 OM-MF4インピーダンス特性
図1
OM-MF4インピーダンス特性
図2 インピーダンス特性(オモリ1.8g)
図2
インピーダンス特性(オモリ1.8g)

3.設計

 パッシブラジエーター方式とオモリの量が決まったので設計を行う。
エンクロージャとしてはシンプルなダブルユニットの密閉箱で良いのだが、今回は新たな試みを行ってみたい。これは以前から構想があったのだが、LEGOスピーカーではハコがブロックの集合体であるから、内部損失が大きいという利点はあるのだが、どうしても剛性が足りない。柔軟なハコになってしまうのだ。
これは音質的には問題であろうと認識している。そこで、剛性を稼ぐためにインナーフレームを内蔵した2重箱とする構想である。これで高い剛性と強度を得ることができる。
しかし、この構想では内容積が著しく減少してしまうという問題がある。使用するLEGOブロックも増大するので大型機では採用できない。
パッシブラジエーター方式ならば、内容積は小さくてもあまり問題にはならないので、本機はこの構想の実現に打って付けなのである。

 76号機の構造図を図3に示す。
「デュアルフレーム」方式によるエンクロージャは、筐体の厚さは32㎜に達し、コンパクトスピーカーシステムとしては異例である。
バッフルパネルは20㎜、リアパネルも通常の9.6㎜厚から16mm厚に強化しており、極めて強度が大きい。だが、4リットル近い外形に対して、内容積は1リットル程度だ。
バッフルパネルは上下にスピーカーユニットを配し、上側がメインユニットとなる。
デザインの特徴は初のホワイトバッフルとしてみた。  

図3 76号機構造図
図3
76号機構造図

<76号機 基本仕様>
  ・ 方式:パッシブラジエーター方式スピーカーシステム
  ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
  ・ エンクロージャ方式:デュアルフレーム強化構造
  ・ 使用ユニット:Markaudio OM-MF4 6cmメタルコーンフルレンジ ×2
  ・ 外形寸法:W128mm H224mm D134.4mm
  ・ 実効内容積:約0.9リットル
  ・ サブユニットウエイト:1.8g(初期値)
  ・ システムインピーダンス:8Ω

4.製作

 本機の全部品を写真5に示す。
構造的にはただの密閉箱なので部品点数は少ない。特徴はデュアルフレームのために本体フレーム部品が2個あることだ。
 バッフルパネル(写真6)は全面ホワイトカラーで、サイドとトップのエッジは落としてある。スピーカーユニットの取り付け窓穴は先述の検討のとおり単純な角穴だが、裏面に取り付けナット用のニゲを造ってある。
バッフルパネルは特に強度が必要なので、厚さはプレートブロック6枚分で20㎜あり、十分に確保している。

写真5 全部品
写真5
全部品
写真6 バッフルパネル
写真6
バッフルパネル

 本機の特徴構造であるアウターフレームとインナーフレームを写真7、8に示す。
完全独立のこの2つのフレームが極めて高い筐体強度を実現する。
フレーム間の隙間で筐体振動によるビビリ音が出ないように、よく見るとアウターフレームの内面にダンプ材としての小さなテープ片が貼ってある。
斜めに貼ってあるのはインナーフレーム挿入の際に剥がれない配慮である。
 

写真7 アウターフレーム
写真7
アウターフレーム
写真8 インナーフレーム
写真8
インナーフレーム

 写真9にリアパネルを示す。リアパネルは大きな平面構造のため、筐体振動の問題源となるので、今回はプレートブロック5枚の16㎜として十分な厚さを確保している。
 写真10はその他の部品、ターミナル、ゴム足、配線材、ネジ類である。
 

写真9 リアパネル
写真9
リアパネル
写真10 その他部品
写真10
その他部品

 組み立て作業はバッフルパネルから行う。まず上側のメインスピーカーユニットを取り付ける。四角い窓穴にきれいに固定できた(写真11、12)。
このスピーカーユニットはLEGOスピーカーに使いやすいもので、とても好感が持てる。
4本のM4ボルト&ダブルナットで固定するが、バッフルパネルの20㎜の厚さは、さすがに厚すぎてボルトの長さが足りない。そこで、バッフルパネルの裏面を10㎜にザグッているのである。
このザグリはぶ厚いバッフルパネルで、スピーカーユニットの固定窓が筒状になり、音質的な悪影響を低減するという狙いもあるのだ。
 

写真11 メインユニット取り付け1
写真11
メインユニット取り付け1
写真12 メインユニット取り付け2
写真12
メインユニット取り付け2
 

 次に下側のパッシブラジエーターユニットを取り付けてバッフルパネルの完成(写真13、14)。
白いサーフェイスデザインのパネルとダークメタルカラーのスピーカーユニットが独特のコンビネーションとなった。
パッシブラジエーターのステンレスリングの輝きもワンポイントのアクセントになっている。
 

写真13 サブユニット取り付け1
写真13
サブユニット取り付け1
写真14 サブユニット取り付け2
写真14
サブユニット取り付け2
 

 リアパネルを組み立てる(写真15、16)。
ターミナルを固定する作業である。

写真15 リアパネル組み立て1
写真15
リアパネル組み立て1
写真16 リアパネル組み立て2
写真16
リアパネル組み立て2
 

 本機の特徴となるデュアルフレームである(写真17、18)。
尋常じゃないぶ厚さ(32mm)の2重フレーム。ちょっとやりすぎたか?・・・内容積がいかにも少ない。まあ、これがやってみたかったのだ。
その強度たるやハンパない。

写真17 デュアルフレーム組み立て1
写真17
デュアルフレーム組み立て1
写真18 デュアルフレーム組み立て2
写真18
デュアルフレーム組み立て2
 

 バッフルパネルをデュアルフレームに取り付ける(写真19、20)。
スピーカーユニットのマグネットがギリギリのサイズとなる内部空間は、いかにも窮屈そうだ。
本機は吸音材は使用しない。パッシブラジエーターの駆動エネルギーを殺さないためであるが、LEGOブロックの表面はツルツルなので、内部での高音の乱反射も気になる。そこで、スピーカーユニットに付属していたパッキン用の薄い円形スポンジシール(本来は不要な部分)を2枚、エンクロージャ内面の上部と側面に貼ってある。写真ではわかりにくいが、これで内部も静かになるだろう。まあ、メタルコーンなので透過して出てくる高音域も少ないとは思うのだが。

写真19 バッフルパネル取り付け1
写真19
バッフルパネル取り付け1
写真20 バッフルパネル取り付け2
写真20
バッフルパネル取り付け2
 

 リアパネルを配線して取り付け、ゴム足を貼れば組み立て作業は完了である(写真21)。

写真21 リアパネル取り付け
写真21
リアパネル取り付け
 

 完成した76号機の外観を写真22、23に示す。本機の意匠の特徴はホワイトのバッフルパネルにダブルユニットであるが、シンメトリーなデザインのため、とてもシンプルな印象を受ける。その中でもパッシブラジエーターユニットの輝くステンレスリングが良いアクセントになっている。

写真22 76号機外観1
写真22
76号機外観1
写真23 76号機外観2
写真23
76号機外観2

5.測定と試聴

 76号機のインピーダンス測定結果を図4に示す。
システムのfoは約95Hzで、パッシブラジエーターの影響で若干特性に変形が生じている。
先に示したスピーカーユニット単体のインピーダンス特性によるfo105Hzと比較してfoが低下して見えるのは、この変形のためであり、メインのスピーカーユニットのfoはおおむね変化していない。
これはつまり、エンクロージャの内圧の影響がメインユニットに大きくは加わっていないということであり、パッシブラジエーターユニットの効果で、とても小さな内容積であるにもかかわらず、内圧が逃げているためと推測される。
システムインピーダンスは7Ω程度である。

図4 インピーダンス特性
図4
インピーダンス特性

 周波数特性(図5)を測定してみると、これはスピーカーユニット軸上50㎝位置にマイクをセッティングして測定したので、低音域が低下して見えるのだが、それにしても300Hz程度から低下が見られ、低音域が弱い。パッシブラジエーターが適切に動作していないようで、試聴による評価でも低音が物足りない。
これはどうしたことだろうか?

図5 周波数特性
図5
周波数特性

 そこで、パッシブラジエーターのオモリ、ステンレスリングを追加してみることにした。
2つ目のリングを瞬間接着剤で重ねて固定する。
見た目にはあまり違和感はない(写真24)。
これで3.6gのウエイトとなるが、このスピーカーユニットの振動系の質量は1.6gくらいなので約3倍に増加されることになる。

 
写真24 オモリ追加
写真24
オモリ追加
 

 オモリを追加した76号機改のインピーダンス測定結果(図6)を見ると、先に示したオリジナルの特性と比較して、foピークの山がきれいな形に変化していることがわかる。
これはつまり、パッシブラジエーター側のfoがオモリの追加で低下し、メインユニットのインピーダンス特性への影響が減ったためと考えられる。
 検討でのスピーカーユニット単体実験ではfoは100Hz程度で、この特性は筐体搭載後も変わっていない。このことから、メインユニットに対してパッシブラジエーターユニットが背圧を低減する作用があり、楽に駆動されているものと考える。
これに対して、パッシブラジエーターユニット側から見ると、アンプに接続されたメインユニットは強力にダンピングされているので、窮屈なハコに押し込まれてfoが単体特性の約70Hzよりも大きく上昇したのではないだろうか?
このためにメインユニットのfoと干渉したと予想した。だから、オモリをさらに追加する必要があるのだと思うのだ。

 
図6 インピーダンス特性(改良型)
図6
インピーダンス特性(改良型)
 

 周波数特性(図7)を比較してみると、改良後は100~200Hzくらいの低音域が+3dB程度上昇しており、効果が窺える。
試聴した結果も明らかに低音域の増強を確認することができた。
それならば、もっとオモリを追加すれば、さらに低音は増強されるのであろうか?
それはムリだろう。効率が低下すると考えられるからである。

 
図7 周波数特性(改良型)
図7
周波数特性(改良型)

 オモリの追加により76号機は満足する音に仕上げることができた。
リスニングの感想は、ボーカル曲ではスピーカーユニットの素性の良さが出て、とてもクリアな美音である。超小型フルレンジユニット最大のメリットである音像定位は抜群。
音場も良く広がる。
なによりエンクロージャの高い剛性から得られる「静けさ」がすばらしい。
中高音域は大変評価できる仕上がりだ。
しかし、さすがに低音域はスピーカーユニットの振幅で補わなければならず、大音量は苦しい表現と言える。大編成オーケストラは苦手だろう。だが、サイズの割には頑張っているとは思える。
本機は聴く音楽は選ぶが、小気味良いミニスピーカーとして完成できた。

6.まとめ

 76号機は基本的なパッシブラジエーター方式という他に、極めて強固なエンクロージャを有するという、もう一つの特徴がある。
小さなサイズに反して予想外にズシリと重いのだ。この基本的な性能もしっかりとした音に反映していると感じる。
以前から温めていた構想であるデュアルフレームのエンクロージャは確かに効果があると実感した。やはり基本が大切なのだ。

(2021.05.09)

写真25 デュアルフレーム・パッシブラジエーターシステム(麻雀パイではない)
写真25
デュアルフレーム・パッシブラジエーターシステム(麻雀パイではない)

第64報LEGOスピーカーの製作第66報

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