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LEGO SPEAKER 第64報 ≪第63報 第65報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第64報
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1.バスレフ方式再考 |
スピーカーエンクロージャの方式は種々存在するが、決定的なものは未だ開発されてはいない。それぞれ一長一短であると言える。
しかし、その中で最も優れた方式はバスレフ方式ではないかと考えている。
これは世の中のスピーカーシステムで最も多く採用されている方式であることからも理解できる。
バスレフ方式とはスピーカーユニットの背面から放出される音圧を有効に再利用して、ハコに設けた筒状のダクト内の空気の質量と、ハコ内の空気のバネ性との共振現象による低音増強方法である。
共振現象では位相が反転するという特性を利用して、本来、背面に放出される音圧は位相が逆であり、打ち消しあってしまうという問題を巧みに解決した見事な手法なのだ。
ハコにダクトを付けるだけで実現できる容易さも、コスト的に大きなメリットである。
しかしながら、共振現象を利用した方法であるため、効率を重視すれば共振音が聞こえてくるという問題があり、この共振周波数の設定も重要となる。
つまり、常にダクトがボーボーと鳴っているわけだから原音再生には程遠いとも言えるのだ。
まあ、それでも低音が出ないよりは良いので、小型のスピーカーシステムにおいては不動の地位を確立している。
前置きが長くなったが、今回はこのバスレフ方式に新たな提案をしてみたい。
研究にはバスレフ方式の代表機63号機(第52報参照 写真2)を用いる。
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2.技術検討 |
前述のバスレフ方式の問題点をまとめると
・効率を高めて低音増強効果を重視すると、共振音が強調され、低音にクセを感じる。
・ダクトに詰め物をするなどしてダンプドバスレフとして効率を抑えれば、クセは低減できるが、低音の増強効果も低下する。
といったことになる。
複数の長さのバスレフダクトを設けて、単一周波数の共振ではなく、複数の共振周波数を持つバスレフ方式を設計できれば、このクセが分散して、広い周波数帯域の低音で増強ができて良いのでは?・・・と考えるが、これはダメなのだ。
実際は複数のダクトが一体化した1本のダクトとして作用してしまい、結局、共振周波数は単一となるのである。
そこで一考。
音楽が小音量時は低音が聴こえにくくなるので、バスレフの効率は高い方が良い。しかし、大音量時は共振音が耳につくので共振を抑えたい。
つまり、音量レベルに応じてバスレフ効率を制御できれば理想的なバスレフ方式に近づけられると考えた。
63号機はバスレフダクト長の調整を容易にするため、写真3のダクトを簡単に前面から取り外しができる構造となっている。この研究には打って付けなのである。
では、どのようにしてバスレフ効率を音量でアクティブに変化させるか?
そこで、図1のような機構を考えた。
バスレフダクトを2本にしておき、片方はそのままで、もう片方に抵抗体となるスチロールボールを挿入する。
このスチロールボールが飛び出さないようにダクトの前後をメッシュLEGOで塞いでおく。
音量の小さな場合は、ダクトの共振も小さいのでスチロールボールは静止しており、設定された共振周波数で通常のバスレフダクトとして作用する。
音量が大きな場合は、ダクトの共振が大きくなり、この共振音圧でスチロールボールが移動し、ダクトの抵抗体として作用して共振効率を低下させる。
スチロールボールの移動力が共振音圧なのでダクトを塞ぐまでの大きな移動は見込めないが、内部のスチロールボールが躍ることで、間違いなく片方のダクトの共振効率は低下する。この結果、大音量時にはバスレフダクトからの共振音圧が相対的に低下して、バスレフ方式の共振音のクセを低減するとともに、ダクトの断面積が少なくなったようにふるまうことで共振周波数が、より低い周波数に移動する。
・・・という仕組みなのだが、本当にボールが移動するほどの空気流量が得られるのか?
メッシュLEGOの気流抵抗で、そもそものバスレフ効率が低下してしまわないか?
不自然なバスレフ音にならないか?
などなど、疑念は尽きない。
とにかく造って確かめよう。それこそがLEGOスピーカーの真骨頂なのである。
なお、この新方式を「バリアブル・バスレフ方式」と呼称したい。
本方式で重要なポイントは、ダクト中に入れるスチロールボールの選定である。
軽く、ある程度の大きさが必要であり、気流で十分に躍らなければ効果が出ないし、小さすぎるとメッシュから飛び出てしまう。かといってメッシュを細かくしすぎると、これが気流抵抗になる。
ということで、メッシュには開口6㎜格子のパネルLEGOブロックを使用し、8~10㎜直径のボールを選定することにした。
スチロールボールの他に、綿球、フェルトボールも試してみたのだが、これらの繊維製ボールは意外に質量があり、繊維が絡むので不適と判断された。(写真4)
スチロールボールは8㎜径と10㎜径を用意したが、8㎜径では0.01g以下と写真4の測定器の測定限界以下となり、十分に軽く、静電気の問題はあるが使用可能と判断した。
直径は8mmと10㎜を混在してランダムな作用を期待したい。
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3.設計 |
今回の63号機改造にあたり、スピーカーユニットも交換することにした。
もともと63号機はドッカブルユニット方式と称してバッフルパネルの交換を容易にして、スピーカーユニットの置換がしやすいシステムなのだ。
本機で使用するスピーカーユニットはFOSTEXの新作FE103NVである。(写真5)
新たな自作の定番となる10cmフルレンジユニットであるが、評判が良いので使ってみたかったのだ。黒いフレームと真っ白なコーンがなかなかカッコ良く、チープなイメージが無い。(もっとも価格も高いが)
<FE103NV 主な仕様>
・ 形式:10cmフルレンジ
・ 振動板材質:ペーパーコーン(非木材パルプ)
・ マグネット:フェライト
・ インピーダンス:8Ω
・ 出力音圧レベル:88.5dB
・ 最大入力:15W
・ 最低共振周波数:91.8Hz
・ Qts:0.46
・ 質量:566g
設計した75号機の構造図を図2に示す。
バリアブル・バスレフダクトを装着した内容積約6リットルのエンクロージャである。
2本のダクト長は10cmで、2本合わせてバスレフ共振周波数は約73Hzと計算した。
内部には吸音材の硬式テニスボール「熟成ボール」を2個挿入する。
デザイン的にはオリジナルの63号機を踏襲して、バッフルのサイバーグリーンエッジがポイントな3BOXスタイルの特徴的なハコである。
この3BOXはデザイン面だけでなく、ハコの強度を向上する目的もある。
<75号機 基本仕様>
・ 方式:バリアブル・バスレフ方式スピーカーシステム
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:アクティブ可変バスレフ型
・ 使用ユニット:FOSTEX FE103NV 10cmペーパーコーンフルレンジ
・ 外形寸法:W176mm H400mm D214.4mm
・ 実効内容積:約6リットル
・ バスレフダクト長:100mm
・ バスレフ共振周波数:73Hz以下(音圧可変)
・ システムインピーダンス:8Ω
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4.制作 |
本機は改造作品なので製作作業は簡単である。
まず、ドッカブルユニット方式の交換用バッフルパネルに新しいスピーカーユニットを装着する。(写真6、7)
もともとFOSTEXのFF105WKが付いていた交換用パネルがあったので、穴位置も同様で簡単に取り付けできた。
本機のキーパーツであるバリアブル・バスレフダクトを製作する。(写真8)
写真では上下のダクトにスチロールボールを挿入しているが、これは実験のためで、実際は上側のダクトにのみボールを挿入する。
強固な構造とするためにプレートブロックを使用しており、これだけで左右で500個以上のLEGOブロックを使っている。
写真9、10に示すようにオリジナルのノーマルダクトと交換できるサイズのメッシュ付き2ダクト構造である。
なお、オリジナルのダクト長も同様に10cmである。
63号機のバッフルパネルを交換する。(写真11)
吸音材のテニスボール2個は固定はしないで内部にころがす。
新作のバスレフダクトを装着して製作完了である。(写真12)
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5.評価と試聴 |
バッフルパネル交換後の意匠は白いコーンが鮮やかでモダンでスマートな印象のモデルになった。特徴のバスレフダクトは簡単に交換できる仕様である。
これで、比較試聴、調整実験を容易に行うことができる。さあ、どんな音がするか楽しみである。(写真13)
まずはバスレフダクトを交換しながらインピーダンス特性を測定してみる。
図3に示す、ただの筒であるノーマルダクトではバスレフ周波数は70Hzくらいであることがわかる。
バリアブル・バスレフダクト(図4 VBダクトと表記)では、共振周波数が少し上がって75Hzくらいになっている。これはほぼ設計値である。
バリアブル・バスレフダクトでのメッシュカバーの気流抵抗の影響は無く、正常にダクトの共振状態が得られていることがわかる。
ここで悩んだのがバリアブル・バスレフダクトの評価をどうやって行うかである。
このダクトは中のスチロールボールが動くぐらいの気流が生じないと動作しない。
しかし、それはかなりの音量であり、インピーダンス測定などの計測では大音量は出せないし、スピーカーユニットを痛めてしまう。
そこで、スピーカーシステム全体を上向きに設置して、中のスチロールボールが完全にダクトを塞いだ状態(VBmax)を疑似的に生じさせ、測定する方法を考えた。
図5に示すVBmaxでは図4と比較してインピーダンス特性に変化が生じており、バスレフ共振周波数が5Hz程度低下していることがわかる。
また、共振のQ値も若干抑えられたようで、ダンプドバスレフの特性に近づいている。
このVBmaxは疑似的な最大動作状態であり、実際のリスニング音圧ではここまでの変化は生じない。正直なところ、効果はこんなものか? という感想である。
しかしながら、この測定はパッシブなもので、実際にはバスレフの特性変化がリスニング時の音圧に応じて、ダイナミックに起きるということがポイントなのだ。
これまでにない、アクティブなバスレフダクトであり、その効果は得られるものと期待している。
周波数特性も測定してみた。(図6、7)
ノーマルダクトとバリアブル・バスレフダクトでほとんど違いは見られない。
この測定条件では音圧が小さいのでスチロールボールに動きはなく、バリアブル動作はしていない。しかし、この結果からバリアブル・バスレフダクトにおいても、バスレフ効果が適切にあることを確認できる。
さて、最大の懸念事項は
「本当に音圧でスチロールボールが躍るのか?」
である。
これが動かなければ意味が無い。
実は写真4に示した5種類のボールは実際に試して最適なものを選択したのである。
フェルトボールや綿球は質量があり、繊維が絡むためまったく動かなかった。
スチロールボールでは8mm径のものをバスレフダクト内部に敷き詰めたところ、確かに低音のダクト内気流で振動することが観察された。しかし、動きが不十分で、効果が少ないと判断される。
10㎜径のものは気流抵抗が大きく、動きはあるが質量も大きいのでその動きは緩慢となる。
また、ダクト内に入れるボールの量にも適値が存在するようである。
試行錯誤の結果、8㎜径と10㎜径のボールを3対1程度で混在して、ダクト内底面に8割程度挿入することが良いようである。
この状態では大音量時にスチロールボールの大きな動きが観察され、低音のアタック時にはボールが前面のメッシュに激突する場合もあった。
もちろん、この現象は試聴音量によるわけだが、通常のリスニング音量でもボールの移動現象は十分に観察されたのである。
試聴を行う。
正直に言って、残念ながらバリアブル・バスレフの効果は良くわからない。
音量の大きな時にのみ動作する本方式は比較試聴が極めて困難なのだ。
測定しようにも、音量レベルを変えながらかなりの大レベルで周波数特性やインパルス応答を計測する必要があり、スピーカーユニット破損の危険がある。
まあ、それでも十分に良い音で本機は鳴っている。低音に不自然な違和感も無い。
結果的に良い音で聴ければそれで良いのである。
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6.まとめ |
新たに研究を開始したこの技術は、バスレフ方式の効率を大音量時に意図的に低下させて、音質への影響を改善するものである。
そうしてみると、コンパクトスピーカーの低音増強とは目的が異なり、もっと大型のシステムに向いた技術なのかもしれない。
効果の確認は困難だが、バスレフ方式の効率を音量に応じてアクティブに制御するという本手法のコンセプトは、大変おもしろいものだと考えている。
今後も研究を深めて行きたいと思う。
(2021.01.11)