LEGO SPEAKER 第63報

≪第62報 第64報≫

LEGOスピーカーの製作 第63報

写真1 原点回帰ミニマムウッドコーンスピーカー 74号機
写真1
原点回帰ミニマムウッドコーンスピーカー 74号機

1.はじめに

 私はミニスピーカーにとても魅力を感じている。特にフルレンジユニット1発のシステムが好きなのだ。
マルチウェイシステムには無い、点音源の良さ、デバイディングネットワークがないから実現される音の鮮度、理想的セッティングができるコンパクトな扱いやすさ・・・。
 実はぜひ、使ってみたいフルレンジスピーカーユニットがある。
ビクターのウッドコーンフルレンジである。
しかし、残念ながらスピーカーユニット単体では市販されていない。以前は自作キットもあったのだが・・・。
そこで、中古でSP-EXAR3(写真2)という製品を入手した。9㎝のウッドコーンフルレンジユニットが装着されている。
リアルウッドの手のかかったハコが、ちょっともったいないが、これを分解してスピーカーユニットを手に入れた。
 

写真2 SP-EXAR3
写真2
SP-EXAR3
写真3 ウッドコーンユニット
写真3
ウッドコーンユニット

 苦労して入手した憧れのウッドコーンユニット(写真3)。なんか裏に木が貼ってある。
9㎝フルレンジの振動板は薄い木のシートを日本酒で柔らかくしてプレスしたそうで、ロマンがある。フレームはぶ厚いアルミダイキャストで高級感十分。音にも期待が膨らむ。
 

<SP-EXAR3の主な仕様>
  ・ 9cmウッドコーンフルレンジスピーカーユニット
  ・ 定格入力:10W
  ・ 最大入力:40W
  ・ インピーダンス:4Ω
  ・ 再生周波数帯域:55Hz~20,000Hz(製品筐体)
  ・ 出力音圧レベル:82dB/W-m(製品筐体)

2.設計

 SP-EXAR3の仕様で最低共振周波数foがわからなかったので、製品のインピーダンス特性を調べてみた。
図1の測定結果からfoを推定すると、エンクロージャの影響もあるが、おおよそ100Hzくらいに読み取れる。(2つのピークのバランスから中心を想定する)
バスレフ共振周波数(谷の周波数)は70Hzと低めに設計されていることがわかる。
この製品の筐体は楽器のようなとても凝った作りで、内容積は少ないが、細長いバスレフダクトで低い周波数にチューニングされていた。
 

図1 SP-EXAR3インピーダンス特性
図1
SP-EXAR3インピーダンス特性

 スピーカーユニットの特性がわかったのでエンクロージャの設計を行う。
図2に本機の構造図を示す。
構造はシンプルなバスレフ方式だが、ダクトを背面に設けて、ダクトからの高音域漏洩音の影響を避ける。バスレフダクトは天板面を利用した大きなスリットダクトとして、効率の良い低音放射を期待する。
背面ダクトは長さ調整を後ろから継ぎ足し調整できるというメリットもある。このため、マイナス調整もできるようにブロック3段をあらかじめ背面に突き出したデザインになっている。
内部のダクト用の仕切りは本体フレームに造り込まずに、板状の部品を側板の圧力で固定する方式とする。これはハコの補強も兼ねているのだ。
ダクト開口を1.6㎝×9.6㎝と大きく設定したので、共振周波数を下げるためにダクトの長さはかなり長くする必要があり、奥行きを23㎝として内容積も大きめに確保する。
 このように奥行きで内容積を確保することはバッフル面積を小さくでき、音質的に利点が多いのだ。バッフル面の縁をスロープブロックで仕上げることも重要。
 吸音材のテニスボールは2個を挿入するが、固定はしないで中で自由にころがしておく。
奥行き23㎝、幅13㎝、高さ19㎝の外形寸法で、内部構造物を除いた実効的な内容積は約2.5リットルと計算した。
この容積でバスレフ周波数をスピーカーユニットのfoより少し下げた92Hzに設計すると、ダクト長は17㎝と求まった。
せっかくのウッドコーンなので、本体フレームはブラウンのブロックで製作し、バッフル面とリアパネルはブラックとする。
 

図2 74号機構造図
図2
74号機構造図

<74号機 基本仕様>
  ・ 方式:バスレフ方式コンパクトスピーカーシステム
  ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
  ・ エンクロージャ方式:リアスリットダクトバスレフ型
  ・ 使用ユニット:ビクター 9cmウッドコーンフルレンジ
  ・ 外形寸法:W128mm H192mm D236.8mm
  ・ 実効内容積:約2.5リットル
  ・ バスレフダクト長:173mm
  ・ バスレフ共振周波数92Hz
  ・ システムインピーダンス:4Ω

3.製作

 用意したすべての部品を写真4に示す。

写真4 74号機全部品
写真4
74号機全部品

 いつも述べることだが、こうして並べてみるとスピーカー組み立てキットのようで、とてもうれしくなる。LEGOスピーカーは組み立て作業も楽しみの一つなのである。
 写真5はバッフルパネルである。今回の使用スピーカーユニットが9㎝と大きめで、固定穴も外周からはみ出した独特のフレームデザインなので、取り付け穴を広く開けている。
このため表面のタイルブロックに若干加工が必要になった。
 4辺はスロープブロックで角を落としている。これはこの部分で高音が反射する回折現象を抑える目的があり、理想的な点音源を阻害する音質劣化の原因となるからである。
 デザイン的にサイド面はウッド調に見立てたブラウン色のブロックを使用している。
プレートブロックを4枚に、タイルブロックを重ねた厚さ16㎜の丈夫なパネルパーツだ。
 写真6は本体フレームである。ウッド調のブラウンのブロックで製作した。
LEGOブロックの色はロットで少し違いがあり、不均一な場合がある。これがかえって、リアルウッドのような良い感じの風合いを醸し出している。
内面はしっかりとマスキングテープで隙間処理をした。
 

写真5 バッフルパネル
写真5
バッフルパネル
写真6 本体フレーム
写真6
本体フレーム

 写真7はリアパネル、写真8はバスレフダクトの部品である。
バスレフダクト開口部の背面に突き出すパーツは、継ぎ足ししてバスレフ周波数の調整を容易にできる。しかし、あまり突き出しサイズを大きくすると見た目が良くないので3㎝程度にしたいと思う。
 吸音材のテニスボールなどのその他の部品を写真9に示す。
この硬式テニスボールは、もちろん気圧の下がった熟成ボールである。
 

写真7 リアパネル
写真7
リアパネル
写真8 バスレフダクトパーツ
写真8
バスレフダクトパーツ
写真9 その他パーツ
写真9
その他パーツ

 組み立てはバッフルパネルにスピーカーユニットを取り付ける作業から行う。
4mmの六角穴付ボルトにナットを2個使用して、しっかりと固定する。(写真10、11)
 ダブルナットはゆるみ防止のための手法なのだが、このような工夫がLEGOスピーカーの実用品としての信頼性を向上している。
写真9に示した配線ワイヤーの端子も圧着した上でハンダ付けして、絶縁の熱収縮チューブを被せるといった作業をしている。製作作業は、いつまでもトラブルなく使えるようなプロの仕事をしたいと心掛けているのだ。
 

写真10 バッフルパネル組み立て1
写真10
バッフルパネル組み立て1
写真11 バッフルパネル組み立て2
写真11
バッフルパネル組み立て2

 リアパネルを組み立てる。(写真12、13)
ターミナルを取り付けて配線を行う。
 本体フレームにこのリアパネルを取り付ける。(写真14、15)
背面上部のスリットがバスレフダクトになる。
 

写真12 リアパネル組み立て1
写真12
リアパネル組み立て1
写真13 リアパネル組み立て2
写真13
リアパネル組み立て2
写真14 本体フレーム組み立て1
写真14
本体フレーム組み立て1
写真15 本体フレーム組み立て2
写真15
本体フレーム組み立て2

 次にバスレフダクトを構成するパネルを内部に挿入する。これはリアパネルには接合するが、側面は圧力で固定され、内部補強パネルとしても機能する。(写真16、17)
本体フレームにバスレフダクトを造り込まなかったのはスロット状のダクト内面にマスキングテープを貼ることができないためだ。
 

写真16 バスレフダクト組み立て1
写真16
バスレフダクト組み立て1
写真17 バスレフダクト組み立て2
写真17
バスレフダクト組み立て2

 内部にテニスボールを2個入れて、バッフルパネルを閉じる。(写真18、19)

写真18 バッフルパネル取り付け1
写真18
バッフルパネル取り付け1
写真19 バッフルパネル取り付け2
写真19
バッフルパネル取り付け2

 最後にバスレフダクトの背面ポートとインシュレーターを貼り付けて組み立て作業は完了である。(写真20)

写真20 仕上げ作業
写真20
仕上げ作業

 完成した74号機の外観を写真21、22に示す。
ウッドコーンのブラウンとハコの色がマッチングして良い感じに仕上がった。
バッフルパネルを黒にしたので精悍さも出ている。
このバッフルデザインのポイントは上下のコーナーも黒色にしたことで、このコーナーをブラウンにしてしまうと野暮ったくなってしまうのだ。
少し奥行きがあるが、コンパクトなミニスピーカーシステムにまとまった。

写真21 74号機外観1
写真21
74号機外観1
写真22 74号機外観2
写真22
74号機外観2

4.評価と試聴

 まずはインピーダンス特性を測定する。(図3)
システムのfoは110Hz程度で、バスレフ共振周波数は、ほぼ設計値どうりの95Hzくらい。
先に示したSP-EXAR3のインピーダンス特性と比較してバスレフ周波数は上昇しているが、インピーダンスの谷が小さく、ダンプされていることがわかる。
これはボール吸音材の効果のひとつと考えられる。

図3 74号機インピーダンス特性
図3
74号機インピーダンス特性

 周波数特性を図4に示す。メーカーオリジナルのSP-EXAR3の周波数特性(図5)と比較して、同じスピーカーユニットを使用しているので、ハコの影響を受けにくい中高音域の特性はよく似ていることがわかる。
 低音域は、バスレフの設計が異なるので74号機の方が100Hz付近に膨らみがある。
注目したいのは1kHz付近の特性の違いで、74号機の方が若干レスポンスが落ちている。
これはボール吸音材に見られる共通の特徴で、内圧の影響が抑えられて、ひずみが減り、中音域の特性に差が出ていると考えている。この変化は筐体の振動が減り、筐体からの不要輻射が抑制されていることにも起因していると思う。わずかな差であるが、この周波数帯域は聴覚の感度が高いので重要なのだ。
 15kHz付近の特性にも差が見られるが、高音域ではスピーカーユニットの個体差の影響も大きくなると考えられる。
 

図4 74号機周波数特性
図4
74号機周波数特性
図5 SP-EXAR3周波数特性
図5
SP-EXAR3周波数特性

 試聴を行う。(写真23)
完成した74号機の音は、ウッドコーンユニットの特徴が現れていて、柔らかく、そして豊かな音である。特にボーカル、バロック曲などに最適だ。
低音もこのサイズにしては良く伸びており、良質な低音であると感じる。ボール吸音材の良好な効果を確認することができた。
 オリジナルのSP-EXAR3と比較すると、ダイナミックな表現はさすがに手の込んだ構造のハコを持つオリジナルが上だが、音質的には74号機の音が気に入った。
(写真24 この比較試聴のためにSP-EXAR3は2セット用意したのだ)
 

写真23 試聴の様子
写真23
試聴の様子
写真24 比較試聴
写真24
比較試聴

 本機はコストもかかったが、ずっと音楽を楽しめる実用的な作品として完成できた。

5.おわりに

 原点回帰というテーマでシンプルなバスレフ方式のミニスピーカーシステムを製作したが、やはりこれが自作の原点であると感じる。シンプルだからこそ得られるメリットがあるのだ。
特に今回は憧れのウッドコーンユニットを奢っているので満足度は一入である。
 ボール吸音材によるバスレフ方式も効果が大きく、本機ではダクト開口を大きく設けているので、低音の充実に寄与している。しかしながら、音楽によってはバスレフ方式特有の共振音が感じられることもあるのは事実である。これをさらに改善できないだろうか? 
・・・実は新たな考えがあるのだ。詳細は次回。

(2020.08.16)

写真25 ボール吸音バスレフ方式ウッドコーンスピーカー
写真25
ボール吸音バスレフ方式ウッドコーンスピーカー

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