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LEGO SPEAKER 第62報 ≪第61報 第63報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第62報
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1.はじめに |
もう昨年のことであるが、STEREO誌のムック本にスピーカーユニット「OM-MF519」が付属してきた。(写真2)
2018年版と同様に2019年版もマークオーディオ製の8㎝フルレンジユニットである。
メタルプレスのスピーカーフレームは取付穴が独特な5箇所で穴位置合わせに苦労するが、68号機の製作で経験済みなので問題はない。(第57報参照)
2018年版からの強化ポイントはマグネットが2段積みになって駆動力が向上し、振動板の色もダークグレーになりデザインの精悍さが増している。
また、ダンパーを改良して、よりハイコンプライアンスになったようだ。
さて、このスピーカーユニットをどう料理するか悩んだが、タイトルにあるようにスピーカーユニットを2本使って私のオリジナル技術であるアクティブラジエーター方式を採用したモデルにしたいと、設計を開始した。
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2.設計 |
本機の構造図を図1に示す。
8㎝フルレンジユニット「OM-MF519」2本を上下に配したトールデザインの小型スピーカーシステムで、内容積は2.2リットル程度の密閉型エンクロージャ。
バッフルパネルは最小幅でコーナーをカットした回折ひずみ音対策のサーフェイスデザイン。サイドのホワイトラインがワンポイントである。
内部には中央部分に側板を固定するラーメン補強構造を配した「セミリジットフレーム」を設けて、バッフルパネルを強化している。
下部の内部空間は空気圧の低下した硬式テニスボール「熟成ボール」を挿入するスペースであり、アクティブラジエーター方式では吸音材は不要であると思うが、ボール吸音材の効果を確認してみたいのである。
ここで、アクティブラジエーター方式に関して復習しておく。
図2の回路図に示すように、メインユニットとサブユニットの2本のスピーカーユニットにおいて、サブユニットにメインと同じスピーカーユニット、または駆動系を有する通常のスピーカーユニットを使用して、サブユニット側にもアッテネーターを通して信号入力を行うというものである。
これにより、サブユニットはメインユニットからの背圧による従属駆動であるパッシブラジエーター動作と、信号入力により直接駆動されるダブルスピーカーとしての動作を同時に行うことになる。
アッテネーター抵抗値を変えることで、大きくすればパッシブラジエーター寄りに、小さくすればダブルスピーカー寄りに調整することができる。
サブユニットにコンデンサーを付けて、高音域をシャントすることで有害な干渉を抑え、ダブルウーハーとしての動作と、パッシブラジエーターの高音域漏洩を抑制している。
このアッテネーター抵抗はサブユニットを適度にダンピングし、パッシブラジエーター動作時の過振幅を抑える働きもある。
本方式の効果としては、ダブルウーハーの直接放射による低音域増強、パッシブラジエーターをダンプすることで、通常のスピーカーユニットを使用した際に生じる低音の緩さの改善、メインのハイコンプライアンスユニットにサブユニットが適度な背圧を付加し、最適な動作状態として低音域のひずみを低減する効果、そして、パッシブラジエーターが逆相で駆動される状態の抑制といった様々な改善効果が期待できる。
しかし、本機にこの方式を適用する場合、問題があった。スピーカーユニットのインピーダンスが4Ωと低いので、アンプの過負荷となるためアッテネーター抵抗値を小さくできないのだ。
本来は最適バランスに調整したい抵抗値であるが、今回は大きめの47Ωに設定し、パッシブラジエーター寄りの動作バランスである。このくらいの値ならば適値の範囲であることは、これまでの製作経験で得ているのである。
アンプ側から見た負荷も3.7Ωで許容範囲である。
<OM-MF519 主な仕様>
・ 形式:8cmフルレンジ
・ 振動板材質:アルミニウムコーン
・ マグネット:フェライト(ダブル)
・ インピーダンス:4Ω
・ 出力音圧レベル:85.6dB
・ 定格入力:7W
・ 最低共振周波数:106Hz
・ Qts:0.53
・ X-max:3.5mm
<73号機 基本仕様>
・ 方式:アクティブラジエーター方式コンパクトスピーカーシステム
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:セミリジットフレーム強化密閉型
・ 使用ユニット:マークオーディオ OM-MF519 8cmフルレンジメタルコーン ×2
・ 外形寸法:W128mm H288mm D124.8mm
・ 実効内容積:約2.2リットル
・ サブユニット減衰抵抗値:47Ω
・ システムインピーダンス:3.7Ω
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3.製作 |
準備した73号機の全パーツ類を写真3に示す。
本機はエンクロージャとしては単なる密閉型なので部品点数は少ないが、その中でタン色のセミリジッットフレームが特徴部品である。
また、今回はアクティブラジエーター方式のアッテネータ抵抗値の調整を行わないので、配線ワイヤーにあらかじめ回路を組み込んでいる。
バッフルパネルを写真4に示す。
5穴取り付けの独特デザインのスピーカーユニットに適応した複雑な取付穴形状に仕上げてある。このため、LEGOブロックに多少の加工作業を必要とした。
デザインはいつものホワイトサイドラインである。
バッフルパネルの厚さは、プレートブロック6枚分の19.2mmもあり、強度確保に留意している。
本体フレームとリアパネルを示す。(写真5,6)
本体フレームは内面にマスキングテープを貼り、気密性確保、強度の向上、ダンプ性改善を図っている。
リアパネルには補強フレームが乗るベースを付けていることが見える。
補強フレームであるセミリジットフレーム(写真7)はエンクロージャ内部の中央に収まり、リアパネルとバッフルパネルをつなぎ、側板を制振する効果がある。
この部品はエンクロージャの全体の補強ではないので「セミ」なのである。
その他の部品として、今回は接続ワイヤーにアクティブラジエーター方式の回路素子を直接組み付けている点が特徴である。
組み立て作業を行う。
まずはバッフルパネルにメイン、サブの2本のスピーカーユニットを取り付ける。(写真9~12)
5本のM4ボルト&ダブルナットでしっかりと固定する。
このスピーカーユニットはダブルマグネットで質量もあるので固定が重要である。
バッフルパネルは厚みを十分にとっているので、重いスピーカーユニットが2本も装着されても強度に不安は無い。
リアパネルにターミナルを固定し(写真13,14)、アクティブラジエーター回路素子の付いた配線ワイヤーを接続して、本体フレームに取り付ける。(写真15)
セミリジットフレームを本体フレームに挿入するが、いつものようにこのままでは入らないので、内部で組み立て作業を行い補強する。(写真16,17)
吸音材の熟成ボールを1個入れてバッフルパネルでフタをして組み立て作業は完了する。
基本的に密閉型のエンクロージャなので作業は容易だ。(写真18,19)
組み立ての完了した73号機。(写真20,21)
ガンメタリック色のダブルスピーカーユニットとシンプルなトールスタイル造形がサイバーな雰囲気である。
5箇所の取り付けボルトもこの容姿のポイントとなっている。
さあ、音はどうだろうか?
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4.評価と試聴 |
早速試聴を行ってみたところ、どうも低音のエネルギー感が足りない。(写真22)
これは吸音材の熟成ボールがアクティブラジエーターの駆動力を無くしてしまっているようである。
そこで、吸音ボールの有無で特性測定を行った。
インピーダンス特性にはあまり大きな変化は見られない。(図3,4)
エンクロージャ内部の容積と空気バネ特性が変わるはずだが、アクティブラジエーター方式ではサブユニットにも直接の電気的接続があるので、パッシブラジエーター動作の変化が見えにくいのかもしれない。
周波数特性では吸音ボール無しの方が、わずかに90Hz付近のレスポンスが良いようだ。
これはパッシブラジエーター動作が効いているのだと思う。(図5,6)
1kHz付近に注目すると、ボール吸音材の有る方がレスポンスが抑えられている。このあたりがボール吸音材の効果で、柔らかな音調になる理由と考えている。
この73号機ではダイナミックな音を狙っているので、ボール吸音材は無い方が適していると判断した。
吸音材無しで改めて試聴。低音の表現も改善し、このスピーカーユニットの良さが出てきた。だが、もうちょっと低音域が欲しいのも正直なところ。
本来はここで73号機の製作は完了の予定であったが、やってみたいことがあるのだ。
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5.研究 |
パッシブラジエーター方式を通常のスピーカーユニットで実施する場合、サブユニットの最低共振周波数が高すぎるという問題がある。
パッシブラジエーター専用に設計されたスピーカーユニットではウエイトを振動板に付加してfoを下げているが、通常のスピーカーユニットでは密閉型のエンクロージャに収められたことでfoが上昇し、低音域の増強効果が低下してしまうのである。
この問題を解決する手段として、振動板にウエイトを付加するという手法がある。
これまで私はスピーカーユニット自体の改造はやりたくなかったのでこの方法は経験がなかったのだが、今回、このウエイト付加手法を研究してみたいと思う。
まずは基礎実験である。
手元にあった8㎝ウーハーユニットFOSTEXのPW80Kに硬貨をウエイトとして乗せて、上向きでスピーカーユニット単体でのインピーダンス特性を測定してみた。(写真23)
もちろん、硬貨は乗せただけでは踊ってしまうので、両面テープで貼り付けている。
このPW80Kの仕様は fo:130Hz 振動板質量mo:2.3g である。
基礎実験の結果は図7~図12となり、ウエイトの付加により確実にfoが下がることが確認できた。
まあ、最低共振周波数foとはスピーカーユニットの振動系のバネ定数と質量の共振作用であるから、当たり前の結果なのではあるが、たった1gの追加で25Hzもfoが下がるのは大変興味深い。
もちろん、foが下がれば良いというものではなく、共振のQ値に着目して見るとfoを下げるほどにQ値も低下しており、能率が下がってしまうことがわかる。
つまり、より低音域に再生帯域を拡大できるが、振動系が重くなることで振幅が低下して音圧が出なくなるのである。なんにでも最適値が存在するのだ。
私の考えでは振動系質量moと等価のウエイト付加程度が適値ではないかと思う。
また、ウエイトの付加によって1kHz付近に振動板の分割振動の影響が生じており、ひずみが増加してしまうことも無視できない。
さらに、面白いのは5円硬貨の特性が特にQ値が低下していることで、ウエイトの形状や材質の影響を受ける可能性を示唆している。
<実験結果>
・ ウエイト無し :fo 140Hz
・ 1円硬貨(1g) :fo 115Hz
・ 5円硬貨(3.75g) :fo 85Hz
・ 10円硬貨(4.5g) :fo 83Hz
・ 1円×5枚(5g) :fo 78Hz
・ 10円×2枚(9g) :fo 63Hz
さて、73号機のサブユニットにオモリを付けるとして、何を使うか?
悩んでしまった。
一般的にはこのようなテクニックを用いる場合は振動板の裏面に鉛シートを貼るという方法が使われるようだ。しかし、振動板裏面に貼り付ける作業はとても困難で、調整も難しい。また、振動板への影響も大きく、音質劣化の可能性もある。
だから、ぜひとも前面からのオモリ装着を行いたいのだ。その場合、見た目が重要なことはもちろん、その他オモリの素材条件として以下が考えられる。
・比重が大きい素材でコンパクトなこと
・非磁性体であること
・振動に耐えるような固定が行えること
・質量調整(オモリの追加)が可能なこと
10円玉では見た目もアレだし、法的にもまずい。
鉛の比重は鉄の7.87、銅の8.96に対して11.35と大きく、非磁性体なのでおあつらえだが、見た目がチープでなにより鉛害が怖い。(ハンダは気にせず使ってるが)
そこで、ステンレスリングを用いることにした。ステンレスは鉄なのに材質により非磁性のものもあるのだ。
大きさの異なる非磁性ステンレスリングをいくつか入手して、スピーカーユニットOM-MF519の振動系質量1.85gと等価な18mm径のリングを選択した。(写真24)
本機のスピーカーユニットは振動板がアルミコーンなので瞬間接着剤を使用できる。センターキャップの部分に18mm径のステンレスリングを接着剤で固定した。言わなければそうとは気づかない具合で、オモリの装着ができた。(写真25)
さあ、音がどう変わるか楽しみである。
音が大きく変わった! 低音が出てきたのだ。
早速測定してみよう。
インピーダンス特性(図13)において、2山であった特性が1.85gのステンレスリングを付加したことで1山に大きく変化している。
よく見ると140Hz付近に存在した谷が110Hzくらいに移動しているようで、この変化がウエイトの効果のようだ。
周波数特性(図14)を見ると、170Hz付近にあった膨らみがなくなり100Hz付近のへこみが消えて全体的に低音域の特性が改善していることがわかる。
つまり、低音増強の周波数が下がっているのだ。
これは確かに再生音に反映しているのである。
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6.おわりに |
改良した73号機改の音は私の求めていたダイナミックでワイドレンジの再生音に近づいた。
メタルコーンのハイスピードな音質がジャズやボーカル曲を楽しく聴かせてくれる。
これまで、低音の量感を増やす技術はあったが、低音再生帯域そのものを伸ばすことは大変困難で、ハコの内容積を増やしたり、スピーカーユニットを交換しなければできないことであった。それが、オモリを付加するというだけで実現できてしまった。
すごいテクニックである。もっとオモリを増加したらどうなるのか?
これは面白くなってきた・・・
(2020.05.06)