LEGO SPEAKER 第61報

≪第60報 第62報≫

LEGOスピーカーの製作 第61報

写真1 超小型フルレンジ・ミニスピーカー 72号機
写真1
超小型フルレンジ・ミニスピーカー 72号機

1.はじめに

 71号機の製作でスコーカーユニットとして使用した超小型フルレンジユニットであるSB AcousticsのSB65WBAC25-4(写真2)だけを使ってミニスピーカーシステムを造ってみたいと考えていた。
このスピーカーユニットはメタルコーンを採用した6.5cmフルレンジユニットで、アルミニウムコーンは放射状に補強リブの入った振動板。
センターキャップはポリプロピレン製で、高音域の自然な音色を可能にしている。
強力なネオジウムマグネットや柔軟性のあるサスペンションで5.3mmの大きな振幅量X-maxを有した優秀なスピーカーユニットである。
このフルレンジユニットを使用すれば超小型のスピーカーシステムが造れる。
ポイントは低音再生をどうするか?
である。

写真2 SB65WBAC25-4
写真2
SB65WBAC25-4

<SB65WBAC25-4 主な仕様>
  ・ 形式:6.5cmフルレンジ
  ・ 振動板材質:アルミニウムコーン
  ・ マグネット:ネオジウム
  ・ インピーダンス:4Ω
  ・ 出力音圧レベル:83.5dB
  ・ 再生周波数帯域:115~20,000Hz
  ・ 定格入力:20W
  ・ 最低共振周波数:115Hz
  ・ Qts:0.68
  ・ X-max:5.3mm
  ・ 重量:140g

2.真のエアサス・バスレフ

 超ミニスピーカーシステムで低音の再生を狙う場合、低域での放射効率が最優先となる。
最も効率の良い方式はバスレフ方式であると考えている。
したがって、本機はバスレフ方式として設計する。
しかし、ただのバスレフでは面白くないので、吸音材に一工夫してみたい。

 これまで、私の作品の吸音材にはスポンジボール(テニス用の練習球 写真3)を使用してきたが、これははっきり言ってただのスポンジである。本当はゴムボールを使用したいのだ。
なぜ、吸音材にボールを使用したいか? というとミニスピーカーの場合、スピーカーユニットの背面内圧の影響でアタック時にひずみが増え、低音の再現性が低下すると考えているからだ。
この内圧上昇をボールの弾性変形によってやわらかく吸収してやれば、これを改善でき、筐体からの不要輻射も抑えられる。
さらにボールの弾性変形は共振作用もなく、エネルギー損失も少ないので連続低音振動によるバスレフ効率への影響も少ないと考えている。
つまり、低音の吸音には一般的に大きなマスが必要であるが、ボール吸音体はこれを遥かにコンパクトにできると考えたのである。
 しかし、以前ゴムボールとして軟式テニスボール(写真4)を使ってみたが、空気圧が一晩で低下してしまうという致命的欠点があり、採用を断念したという経緯がある。
また、硬式テニスボール(写真5)は空気圧が1.8気圧もあり、ほとんど剛体なので使用できなかった。
スポンジボールしか解が無かったのだ。

写真3 スポンジボール
写真3
スポンジボール
写真4 軟式テニスボール
写真4
軟式テニスボール
写真5 硬式テニスボール
写真5
硬式テニスボール

 ところが・・・
1年ほど放置しておいた硬式テニスボールの空気が抜けて、ちょうどよい塩梅になっていることを発見した。
 硬式テニスボールに入っている気体は空気ではない。完全に密閉したゴムボール内部で化学的に窒素ガスを発生して1.8気圧を得ているのだ。
しかし、長い時間でこの窒素ガスがゴムの僅かな隙間から抜け、ほぼ3か月で1気圧になってしまうという。・・・これは使える。
1気圧でも完全密閉のゴムボールは私の理想とする弾力を保持しているのだ。
この放置した硬式テニスボールを以後「熟成ボール」と呼称したい。
 私はこのボール吸音材によるバスレフ方式を「エアサス・バスレフ」と命名したが、これまでのスポンジボールではその真価を発揮していなかったと考えている。
「真のエアサス・バスレフ」方式の実現である。

3.設計

 72号機はボール吸音材を使用したミニバスレフシステムとして設計する。(図1)
6.5㎝フルレンジユニットを収められる限界の幅でエンクロージャを造り、内部に熟成ボールを2個挿入する。
バスレフダクトは筐体の中央に左右側面を接続する構造で配置し、エンクロージャの強化構造となる。内容積は奥行きを長めにして、おおよそ2リットルとし、ダクト長9㎝でバスレフ周波数は115Hzと計算した。この辺りは試聴により再度調整する。
 バッフル面のデザインは立体的な造形として、これは音響的にも回折によるひずみの低減効果がある。超小型フルレンジユニットの音像定位を重視したデザインなのだ。
もちろん、アイデンティティのホワイトサイドラインは欠かせない。
2ボックススタイルの上下シンメトリーデザインである。

図1 内部構造図
図1
内部構造図

<72号機 基本仕様>
  ・ 方式:バスレフ方式ミニスピーカーシステム
  ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
  ・ エンクロージャ方式:エアサス・バスレフ方式
  ・ 使用ユニット:SB ACOUSTICS SB65WBAC25-4 6.5cmフルレンジメタルコーン
  ・ 外形寸法:W104mm H244mm D182.4mm
  ・ 実効内容積:約2リットル
  ・ バスレフダクト長:9cm(設計値)
  ・ バスレフ周波数:115Hz(設計値)
  ・ システムインピーダンス:4Ω

4.製作

 組み立てパーツがすべてそろった。(写真6)
シンプルなバスレフ方式のミニシステムなので部品はこれだけである。
いつも思うことだが、こうして並べてみると組み立てキットのようでとてもワクワクする。
硬式テニスボールが今回の特異パーツである。

写真6 72号機全部品
写真6
72号機全部品

 写真7と写真8はバッフルパネルとフロントパネルである。
バッフルパネルは枠だが、スピーカーユニットのフランジに合わせて、干渉部分のLEGOブロックを若干加工してある。
 フロントパネルは相似形のコーナーカットデザインで、サイドにはホワイトラインが入っている。

写真7 バッフルパネル
写真7
バッフルパネル
写真8 フロントパネル
写真8
フロントパネル

 写真9と写真10はフレームとリアパネル。
フレームは目の字型で中央のバスレフダクトが筐体を強化する構造。
内面は丁寧にマスキング処理され、内容積を稼ぐために奥行きが深い。
 リアパネルはただの板だが密閉性確保のため、光が透けないようにパネルブロックの組み合わせに注意して造っている。

写真9 フレーム
写真9
フレーム
写真10 リアパネル
写真10
リアパネル

 写真11はその他の部品であり、熟成ボール4個、ターミナル、配線ワイヤー、ボルト類、ゴム足である。

写真11 その他の部品
写真11
その他の部品

 組み立て作業は、まずはバッフルパネルを組み立てる。(写真12,13)
このスピーカーユニットは端子の部分の強度が弱く、ファストン端子を挿入する際に注意が必要である。そこで、この段階で配線ワイヤーを取り付けてしまう。
また、取り付け穴の寸法もM4ボルトには少し小さいのだが、M3ボルトは固定強度的に使いたくないので、むりやりM4を使っている。
いつものように、ダブルナットで強固に固定した。

写真12 バッフルパネル組み立て
写真12
バッフルパネル組み立て
写真13 バッフルパネル組み立て
写真13
バッフルパネル組み立て

 リアパネルを組み立てる。(写真14,15)
と言っても、ターミナルを固定するだけである。

写真14 リアパネル組み立て
写真14
リアパネル組み立て
写真15 リアパネル組み立て
写真15
リアパネル組み立て

 フレームにバッフルパネルとフロントパネルを取り付ける。(写真16~19)
このくらいのサイズだと、LEGOブロック構造体の強度はとても大きい。
本機のフレームは目の字構造なので、さらに高い強度が得られるのだ。

写真16 バッフルパネル取り付け
写真16
バッフルパネル取り付け
写真17 バッフルパネル取り付け
写真17
バッフルパネル取り付け
写真18 フロントパネル取り付け
写真18
フロントパネル取り付け
写真19 バッフルパネル取り付け
写真19
バッフルパネル取り付け

 内部に熟成ボールを2個挿入して、リアパネルでフタして底面にゴム足を貼り付ければ、組み立て作業は完了である。(写真20,21)
簡単な構造なので作業は容易だ。

写真20 リアパネル取り付け
写真20
リアパネル取り付け
写真21 リアパネル取り付け
写真21
リアパネル取り付け

 組み立ての完了した72号機。(写真22,23)
意図したとおりのコンパクトで凝縮したミニスピーカーシステムとしてデザインできた。
バッフルパネルとフロントパネルの上下シンメトリーな立体的造形が特徴である。
中央にダクトを大きく開けた、新たなボール吸音材によるバスレフ効果がどうなるか?
楽しみである。

写真22 72号機外観
写真22
72号機外観
写真23 72号機外観
写真23
72号機外観

5.評価と試聴

 まずはインピーダンス特性を測定する。(図2)
設計値であるバスレフダクト9㎝では、実際のバスレフ周波数が140Hz付近で高すぎることがわかった。ボール吸音材による内容積減少量が想定よりも大きかったようだ。
 バスレフ周波数の設定は、セオリーではスピーカーユニットのfoに一致させることが多い。それはスピーカーユニットがfoで共振してバタつく現象を抑える効果があるからだ。
そこで、ダクト長を11㎝に2㎝延長して、バスレフ周波数を130Hzに調整した。(図3)
インピーダンス特性がきれいな2山になり、最適に調整できたことがわかる。
デップの低下が少ないことから、バスレフ共振が適度にダンプされている様子が見えるが、これはボール吸音材が機能しているためと考えられる。

図2 インピーダンス特性1
図2
インピーダンス特性1
図3 インピーダンス特性2
図3
インピーダンス特性2

 周波数特性の測定結果を図4に示す。
これまで周波数特性の測定は低音域での部屋の影響特性を抑えるために、デッドな室でスピーカーユニット軸上50㎝のポイントにマイクを設置して行っていたが、実際のリスニング音との乖離が大きいため、前作からリスニングルームでの測定に変更している。
図はスピーカーシステムを試聴スペースに設置して、片chのスピーカーシステム単体での特性を軸上1mとなるリスニングポイントにマイクをセッティングして測定したものだ。
 低音域の特性を見ると、90Hz付近に肩としてバスレフダクトの低音増強効果が見える。
200Hz付近の大きな落ち込みは部屋の音響特性である。
小口径スピーカーユニットのため、高音域の特性は大変優秀で20kHz以上に伸びている。
1kHzのレスポンスはこの測定条件では72dBくらいで、低音域のレスポンスは-10dBで80Hz程度である。
 中音域が多少落ちているように見えるが、これまでの経験からこれはボール吸音材の効果と考えている。
 本来ならばボール吸音材の有無で特性を比較すべきであるのだが、内容積の変化で低音域のバスレフ効果が変わってしまい、比較が困難なので今回は行っていない。

図4 72号機周波数特性
図4
72号機周波数特性

 完成した72号機で試聴を行う。(写真24)
ミニスピーカーシステムながら、低音は結構充実している。
さすがに大音量ではスピーカーユニットの振幅が大きくなり破綻も見えるが、適した音量ではひずみも少なく楽しめる音だ。
バスレフポートからは勢いよく風が吹き出し、効率良く機能していることがわかる。
しかし、バスレフ音のクセは少なく、弾むような低音で密閉型に近い音調である。
このあたりがボール吸音材の効果なのだ。
 ミニシステムのメリットで音像定位が良好で、音場も広がる。なにより設置性が良く使いやすい。6.5㎝という小口径なのに優秀なフルレンジスピーカーユニットであることが感じられる。
 フルオーケストラを大迫力で聴くといった使い方は難しいが、ボーカル曲を楽しむには十分な音である。
72号機は小気味よいミニスピーカーとして完成することができた。

写真24 試聴の様子
写真24
試聴の様子

6.追加報告

 実はこの72号機の製作を企画している時に、オーディオサークル「ミューズの方舟」の「自作スピーカーコンテスト2019」の課題スピーカーユニットがSB65WBAC25-4であることがわかった。そこで、私も72号機でコンテストに参加したのである。
 2019年12月8日に行われたコンテストでは10名の参加者があり、残念ながら私のLEGOスピーカー72号機は受賞はできなかったが、大変多くのことを学ぶことができた。
この小さなスピーカーユニットから本当にすごい音を出している強者がいるのだ。
今回で3回目の参加になったが、毎回刺激を受けることができて、とても有意義な1日であった。これからもオリジナル技術で参加を続けたいと思っている。

(2020.05.06)

写真25 真のエアサス・バスレフ方式ミニスピーカー 72号機
写真25
真のエアサス・バスレフ方式ミニスピーカー 72号機

第60報LEGOスピーカーの製作第62報

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