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LEGO SPEAKER 第60報 ≪第59報 第61報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第60報
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1.不可能への挑戦 |
LEGOスピーカーでは絶対に実現できないものがある・・・
そう考えていた。
超大型の3ウェイスピーカーシステムである。巨大なエンクロージャをLEGOブロックで造ったら、きっとフニャフニャのタイコ状態になるだろう。自重で崩壊してしまうかも知れない。
接着するという方法もあるが、それでは接合体による高い内部損失というLEGOスピーカーの要素を殺してしまい、ただのプラスチックのハコになってしまう。
だから諦めていたのだ。
しかしだ、「Rigid-Frame Technology」で、この課題をクリアできるかもしれない。
総使用ブロック数7,000個超。71号機は巨大な3ウェイシステムをLEGOで造るというLEGOスピーカー史上最大のプロジェクトとなる。身震いがしてきた。
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2.設計 |
LEGOスピーカーの大型モデルと言えば58号機がある。(写真2:LEGOスピーカーの製作 第48報参照)
この58号機は2ウェイだが高さ約90cmの大型モデルで、LEGOブロックも5,000個以上使っている。スポンジボールを詰め込んだ密閉型で、大きなエンクロージャの強度はモジュール方式の分割構造で得ていた。大きさの異なるハコの集合体なのだ。
この構造のために内容積は10リットル程度と意外と少ない。また、強度も残念ながら十分とは言えなかった。
今回の71号機はこのモデルを解体して製作するのだ。LEGOスピーカーの大型作品における最大の問題である大量のLEGOブロックの調達もこれで目処がついた。
なにより58号機の頭でっかちな外観が気に入らなかったのである。
58号機の解体にはもう一つ目的があった。スピーカーユニットの再利用である。
使用していたウーハーはSB Acoustics の SB15NAC30-8 15cmメタルコーンウーハー(写真3)で、振動板の補強リブが特徴のマグネットも強力で優れたモデルである。
トゥイーターユニットは同じSB Acoustics の25mmソフトドームトゥイーター SB26STCN-C000-4 (写真4)を使っていた。
同一メーカーにしたのは音調のマッチングのためであるが、この2つのスピーカーユニットを今回もリサイクル使用する。
しかし、15cmウーハーは小型でレスポンスも良く、スリムなエンクロージャにできる利点はあるものの、大型モデルとしてはもっと振動板面積が欲しいところだ。
そこで、同じウーハーをさらにもう1本追加してダブルウーハーにする。これで20cmウーハー以上の低音パワーが期待できる。
某有名高級スピーカーシステムに習って3ウェイ4スピーカー・トールデザインシステムとするのである。
<SB15NAC30-8 主な仕様>
・ 形式:15cmウーハー
・ 振動板材質:アルミニウムコーン
・ マグネット:フェライト
・ インピーダンス:8Ω
・ 出力音圧レベル:85.5dB
・ 再生周波数帯域:35.5~2,500Hz
・ 定格入力:50W
・ 最低共振周波数:35.5Hz
・ Qts:0.37
・ X-max:10mm
・ 重量:1460g
<SB26STCN-C000-4 主な仕様>
・ 形式:25mmソフトドーム
・ 振動板材質:ファブリックソフトドーム
・ マグネット:ネオジウム(防磁型)
・ インピーダンス:4Ω
・ 出力音圧レベル:92.5dB
・ 再生周波数帯域:960~34,000Hz
・ 最低共振周波数:960Hz
・ 定格入力:120W
・ 重量:95g
次にスコーカーユニットの選定であるが、ここで困ってしまった。自作用の単体市販スコーカーがほとんど無いのである。自作派に3ウェイ製作例は少ないようだ。
そこで、小口径のフルレンジユニットを利用することにした。
スコーカーユニットは中音域を担当するが、レンジは狭くて良いので低音も高音もほどほどで問題ない。もちろん、システムの音のクオリティを決定する最重要な帯域ではあるが、小口径のフルレンジユニットを利用可能と判断したのだ。
ウーハー、トゥイーターと同じメーカー SB Acousticsの小口径フルレンジユニットである SB65WBAC25-4(写真5)を選定した。
このスピーカーユニットはメタルコーンを採用した6.5cmフルレンジで、ウーハーと同じアルミニウムコーンは放射状にリブの入った形状で、音調の統一が図れる。
センターキャップは大きめのポリプロピレン製で、高音域の自然な音色を可能にしている。
強力なネオジウムマグネットや柔軟性のあるサスペンションで5.3mmの大きな振幅性能X-maxを有した優秀なユニットである。
<SB65WBAC25-4 主な仕様>
・ 形式:6.5cmフルレンジ
・ 振動板材質:アルミニウムコーン
・ マグネット:ネオジウム
・ インピーダンス:4Ω
・ 出力音圧レベル:83.5dB
・ 再生周波数帯域:115~20,000Hz
・ 定格入力 20W
・ 最低共振周波数:115Hz
・ Qts:0.68
・ X-max:5.3mm
・ 重量:140g
今回の71号機は3ウェイシステムを造ろう! という企画で始まったのであるが、そもそも3ウェイの魅力とはなにか?
それは、ひずみの少ないワイドレンジ再生にあると思う。特に低音域の伸張である。
本来、スピーカーユニットは1つの方が素性は良い。デバイディングネットワークの影響は無いし、点音源で位相ずれの問題も無い。
しかし、低音を出そうとすると振動板は大きな方が良いし、高音では小さく、軽くしたい。
そこで、2ウェイシステムとなる。低音用と高音用に分割すれば、専用のスピーカーユニットが使えて、ひずみが減り、再生帯域を伸ばせる。
この延長線上に3ウェイシステムがあるのだが、単にスピーカーユニットの数を増やせば良いのではない。
では、何がメリットかと言うと、クロスオーバー周波数をヒトの最も感度の高い中音域の周波数帯からずらせられる事ではないかと思う。
つまり、2ウェイでは最重要な音域にクロス周波数が設定される問題があるのだ。これをフルレンジユニット的にスコーカーで負担することで、中音域の充実が図れると考える。
したがって、3ウェイシステムではデバイディングネットワークの設計思想が重要になる。
前置きが長くなったが、検討したデバイディングネットワークを図1に示す。
クロス周波数は800Hzと4kHzに設定した。ウーハーの800Hzは高めだが、ウーハーユニットが15cmダブルと小型であることと、400Hz付近の音楽の基音部分でクロスしたくなかったのだ。また、挿入するインダクタンス値も抑えたい。
12dB/octの遮断特性の方が干渉帯域は少なくて良いのだが、位相が急激に変化することと、部品素子が倍増するので本機は6dB/octにした。スピーカーユニット間の干渉は増えるが、一体感には有利だろう。
スコーカーには低音と高音の遮断用にコイルとコンデンサーがシリーズに入る。この挿入損失と、小口径フルレンジユニットなので、もともと能率が低い。このための整合にトゥイーターには-6dBのアッテネータを入れている。このあたりは実際に音を聴いて調整する予定だ。
8Ωのウーハーがパラレルでシステムインピーダンスは4Ωとなる。
構造設計に入る。
3ウェイシステムの構造設計で最も注意すべきポイントはなにか?
それはスピーカーユニット間の位相合わせではないかと考えている。
前作の70号機でも経験したことだが、スピーカーユニットの搭載位置に応じて、位相差は調整すべきものでセオリーどおりには行かない。
3ウェイではこの調整がウーハーとスコーカー、スコーカーとトゥイーターの2箇所に存在するのだから厄介である。
ただし、ウーハーとスコーカー間では搭載距離はあるが、クロス周波数が低いのであまりシビアではないだろう。
そこで、本機ではウーハー2本を搭載したローレンジユニットとスコーカーを搭載したミッドレンジユニット、トゥイーターを搭載したハイレンジユニットの3つにエンクロージャを分離した構造を考えた。デバイディングネットワークも含めた完全分離型ユニット構造である。
これでユニット間の位相の調整は筐体を前後に移動することで容易に行える。以前の経験から前後方向の調整が最も効果的なのである。
ウーハー2本を搭載するローレンジユニットであるが、図2のウーハーモジュールを2種製作する。構造はLEGOを上下に積み上げた枠の内部に強化骨格構造を組み込み、前面にスピーカーユニットを取り付ける。
1つのウーハーモジュールで18段あり、これ2つと他の2モジュールでローレンジユニットとしての内容積は強化フレームの減少を換算して19.2リットルの計算である。
ウーハーモジュールの上側にはターミナルとコイルをリアパネルに取り付ける。
ローレンジユニットは2つのウーハーモジュールの他に図3のダクトモジュールとメインモジュールで構成される。
ダクトモジュールはバスレフダクト部分であり、左右に縦のスリットダクトを有する。このモジュールの高さは11段である。
バスレフダクトは最大の10段で内容積19.2リットルからバスレフ周波数が52.4Hzと計算され、ダクトに調整パーツを挿入することで、7段、5段に調整することができ、バスレフ周波数はそれぞれ、45.2Hz、39.1Hzに共振周波数を低くすることができる。
メインモジュールはただのシンプルな枠構造であるが、高さは31段ある。
こんなに大きな枠構造をLEGOブロックで造ったら、本来フニャフニャになるのだが、図に「Spinal bone」と表現した強化骨格構造(写真6)が高層構造を貫通して内部からしっかりと支えるため、十分な強度が確保される。
ローレンジユニットは縦にブロックを積み上げる組み立て構造だが、高さのある作品の場合はこの方が有利なのだ。
全モジュールの高さを合わせ、ボトムパネルとトップパネルを合計すると80段、768mmの高さになる巨大な構造体だ。
トゥイーターを配するハイレンジユニットとスコーカーを配するミッドレンジユニットの構造図を図4に示す。
この2つはLEGOブロックを水平に重ねて、前面に化粧パネルを使用した組み立て方法である。
小口径ユニットのメリットを活かす最小バッフルと4隅のコーナーカットデザインで不要な回折音を低減している。それぞれがデバイディングネットワーク素子を内蔵した完全独立型のユニット構造となっている。これで自由に設置や調整を行うことができるのだ。
トゥイーターにはバックチャンバーは不要であるが、コンデンサーと抵抗器の収納と、しっかりとした設置のための重さが必要なので小型のエンクロージャを有している。
ここは贅沢にもすべてプレートブロックで製作して重さと強度、鳴き止めに配慮する。
スコーカーはフルレンジスピーカーユニットなのでバックチャンバーが必要である。
約0.7リットルの密閉型で、吸音材にはスポンジボールを用いる。
内蔵する素子はコンデンサーとコイルだが、ここにはぜひともフィルムコンデンサーを奢りたかった。スコーカーのクロス周波数ではコンデンサー容量が47uFと大きくなるので、電解コンデンサーを使う例が多い。だが、音質的にはサイズが大きくはなるが、フィルムコンデンサーである。
この大きなコンデンサーを内蔵するためにミッドレンジユニットは奥行きが長いのだ。
<71号機 基本仕様>
・ 形式:フロアタイプ3ウェイ4スピーカーシステム
・ 方式:3ユニット独立型 強化骨格構造バスレフ方式
・ 組み立て方法:バーティカルタイプ、ホリゾンタルタイプ混在
・ 使用ユニット:
ウーハー SB Acoustics SB15NAC30-8 15cmメタルコーン
スコーカー SB Acoustics SB65WBAC25-4 6.5cmメタルコーン
トゥイーター SB Acoustics SB26STCN-C000-4 25mmソフトドーム
・ 外形寸法:W192mm H985.2mm D232mm(ターミナル部除く)
・ 実効内容積:約19.2リットル(ローレンジユニット)
・ デバイディングネットワーク:800Hz、4kHz 6dB/oct -3dBクロスネットワーク
・ バスレフ共振周波数:45Hz(可変式)
・ システムインピーダンス:4Ω
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3.製作 |
組み立て作業は、簡単なハイレンジユニットから行う。写真7がハイレンジユニットの全部品である。
写真8はトゥイーターベゼルである。4隅がカットされており、解析音に対処する。
特にトゥイーターの高音帯域は空間に独立配置されることが望ましく、このデザインの効果も大きいだろう。
写真9はハイレンジユニットフレームである。このハコはプレートブロックで構成されているので極めて強度が高く、振動に強い。重さもあるので安定性も向上する。
トゥイーターには背圧が無いので、密閉処理の必要はない。
写真10はハイレンジユニットリアパネル。ターミナル穴付きの板である。
写真11にその他の部品を示す。デバイディングネットワークの抵抗器、コンデンサー、ネジ類などである。
トゥイーターユニットをベゼルにM4ボルトで固定する。(写真12,13)
このベゼルは面積もほとんど無く、理想的なマウントとなっている。不要な輻射が少なく、音像がしっかりと定位することが期待できるのだ。
ベゼルをハイレンジユニットのフレームに配線して取り付ける。(写真14,15)
ターミナルとデバイディングネットワーク素子をリアパネルに実装する。(写真16,17)
リアパネルを取り付ける。(写真18,19)
中に入れるスポンジは吸音材ではなく、部品が振動で異音を発生しないための緩衝材である。
このように小型の筐体の場合、4点支持であると微妙な精度誤差から、ぐらつく場合があるので3点支持としてインシュレーターは3個を用意した。
組み立ての完了したハイレンジユニットを写真20,21に示す。
限界までコンパクトなキューブデザインで、バッフルパネルの悪影響を排除し、筐体も強度を高めて不要な振動を防止している。
音像定位の明確化と音場の広がり、ひずみの低減を期待できるエンクロージャデザインである。コンパクトだが重さもあり、設置の安定性も高い。
なにより単体でトゥイーターユニットとして完結しているので、設置の自由度やチューニングがやり易いことがポイントである。
写真ではインシュレーターを用いているが、最終的には安定性から、このインシュレーターは外して薄いゴム足に変更している。3本足では転倒しやすいのだ。
次にミッドレンジユニットを組み立てる。(写真22)
巨大な47uFのフィルムコンデンサーが目を引くが、筐体の構造的には単なる密閉箱で、細長いフレームにベゼルとリアパネルを付けるだけだ。
スコーカーでは低域のクロス周波数が800Hzと高く、デバイディングネットワークのコイルに必要なインダクタンス値が0.18mHと小さくなるので、コアの無い空芯コイルを用いてみた。この取り付け方法も工夫が必要だ。
写真23はスコーカーベゼルである。トゥイーターベゼルと同様に4隅をスロープ処理してある。サイドのコーナーにはLEGOスピーカーのアイデンティティデザインであるホワイトリボンをあしらっている。
写真24はミッドレンジユニットフレーム。こちらは密閉型なので内面にはマスキングテープ処理が施されている。
写真25はミッドレンジユニットリアパネル、写真26はミッドレンジユニットのその他の部品である。
ベゼルにスコーカーユニットを取り付ける。(写真27,28)
このベゼルもトゥイーターと同様に理想的なフロントフェイスとなっている。最小面積で密閉型の内容積は奥行きで稼ぐ設計である。
スコーカーユニットに配線してベゼルをミッドレンジユニットフレームに取り付ける。(写真29,30)
実はこのスピーカーユニットは端子部分がとても弱く、配線作業には苦労した。
本機では、はじめてデバイディングネットワークに空芯コイル(FOSTEX製)を使用するが、この固定方法を考えた。
いつも使用しているコアコイルはケースに固定穴があるので便利なのだが、小型の空芯コイルでは固定方法に工夫が必要なのだ。
ここは、小さなタイルブロックを接着剤で貼り付けて固定することにした。(写真31)
コイルと巨大なフィルムコンデンサーとターミナルをリアパネルに実装する。(写真32,33)
コンパクトな筐体内に挿入できるぎりぎりのサイズである。
フレームに吸音材のスポンジボールを入れてリアパネルでフタをすればミッドレンジユニットの組み立てが完了する。(写真34)
組み立ての完了したミッドレンジユニットの外観を写真35,36に示す。
密閉型なのでエンクロージャに調整箇所も無い。内容積確保とデバイディングネットワーク素子を収めるために奥行きが長いが、バッフルパネル面積を最小にする設計である。
こちらもハイレンジユニットと同様に後でインシュレーターはゴム足に変更した。
ローレンジユニットの組み立てに入る。
まずは最下部のダクトモジュールである。
写真37はベースとなるボトムパネルである。プレートブロック4層で構成された強靭な板部品である。赤いタイルブロック部分がバスレフダクトになる。デザインアクセントとしてバスレフポートを赤色にしたのだ。
写真38はダクトモジュールフレームAであり、背面側の筐体となる。後ろの突き出し部分は転倒対策のウエイト(ダンベル用 2個2.5Kg)を取り付けるためのフックである。
ダクト部分以外にマスキング処理がしてある。
写真39はダクトモジュールフレームB。前面に位置し、写真のフタ部品でバスレフダクトを構成する。
写真40はダクトモジュール強化フレームである。
ローレンジユニット本体を貫く脊椎構造の一部で、前面、背面、側面を内側から支持する強化骨格構造である。
写真41はバスレフダクト調整パーツである。ダクトに挿入することでダクト高を可変できる。
プレートブロックで重く高密度に製作してあり、鳴きの問題が生じないようにしている。
こんなところにもこだわりのパーツである。
ボトムパネルに2ピースのダクトモジュールフレームAとBを取り付ける。(写真42)
これにより左右2箇所のスロット状バスレフダクトが構成される。
この内部に強化フレームを挿入するが、いつものように内部での再組み立て作業になる。
マスキングテープの厚みでテンションのある状態が重要なのである。(写真43)
バスレフダクトのフタを取り付けてダクトモジュールの組み立て作業は終了である。
(写真44,45)
赤いダクトサイズ調整パーツは高さが2段と3段の2種類がある。
調整パーツ追加無しで、ダクト高さ10段でバスレフ共振周波数は52Hz。3段の追加でダクト高さ7段となり、45Hz。さらに2段追加でダクト高さ5段の39Hzに調整できる。
LEGOブロック1段のブロックの高さは9.6mmなのでダクトの高さはこの倍数であるが、上面に化粧のタイルブロックを追加しているので、実際のダクト開口高は93mm、61mm、42mmである。
このダクトモジュールはダクト部分がトップパネル込みの11段で、ボトムパネルの厚さが12.8mmあるので、トータル118.4mmの高さとなる。
次にメインモジュールの製作。
メインモジュールフレーム(写真46)は高さ31段、約300mmの巨大な筒である。
これだけで1台で744個のLEGOブロックが使用されているのだ。
71号機のエンブレムは90度方向にポッチがある特殊ブロック(側面スタッドブロックという)を使用して固定している。
内面は当然、マスキングテープにより気密処理してある。
これだけ巨大な部品だと、ブロックの積層構造だけではフニャフニャでなんとも頼りない。そこで強化骨格構造(写真47)の登場となる。
これだけしっかりとした構造体が内部から支持するので強度はバッチリである。(踏み台にも使える?)
内部で強化フレームを組み立てて挿入する。(写真48,49)
最上段前面は逆スロープブロックで、この上に乗るバッフルパネルと同じ厚さの24mmに増加してある。
ローレンジユニットのウーハーモジュールは2種類あり、上段のウーハーモジュールAにはターミナルとデバイディングネットワークのコイルが実装されるが、サイズは共通である。LEGOブロックの18段が2つで345.6mmの高さになる。
写真50,51にウーハーモジュールフレームAとBを示す。
バッフルパネル部は幅をポッチ3列の24mmに強化しており、さらにこの部分を3.2mm厚さのプレートブロックで製作することで、3倍の密度として強度と制振性を高めている。
側面方向のスピーカーユニット取り付け構造となるこの部品では、バッフル面の強度が特に重要なのだ。内面は丁寧にマスキング処理を行っている。
写真52はローレンジユニットトップパネル。写真53はデバイディングネットワークのコイルや配線材、ネジ類である。
こちらには常用のコアコイルを用いる。(このPARC Audioコアコイルは製造終了で入手できなくなりとても残念である)
組み立て作業は下側のウーハーモジュールBから行う。
ウーハーユニットをフレームBに取り付ける。(写真54)
ウーハーモジュールを上下の2つに分けたのは、ウーハーユニットのバッフルパネル固定を前面に行うこの作業のためなのである。
ウーハーモジュールフレームBの内部に強化フレームBを挿入する。(写真55)
ウーハーの巨大なマグネットを避けて、4箇所でバッフルパネルは強化フレームに支持されている。(写真56)
内部で組み立てたこの強化フレームは固定されてはいないが、圧力でしっかりと収まっている。
同様に上側のウーハーモジュールフレームAにウーハーユニットを取り付ける。(写真57)
さらに内部にコイルを取り付け、配線作業を行う。(写真58)
この段階ではまだ強化フレームAは挿入しない。
上下A、Bのウーハーモジュールを組み合わせて、ウーハーモジュールを完成するが、上側の内部強化フレームAを入れなかったのはターミナルに結線する作業を行うためである。
作業順序を考えておくことも大切なのだ。(写真59,60)
内部で強化フレームAを組み立てて、強化骨格構造の挿入が完了したウーハーモジュールを写真61,62に示す。
2本のウーハーユニットを搭載した大きな構造体だが、内部から強化フレームにより、しっかりと補強されている様子がわかる。
このくらいの補強をしなければ、強力な15cmウーハー2発の内圧に耐えられないだろう。
これでローレンジユニットを構成する3つのモジュール、ウーハーモジュール、ダクトモジュール、メインモジュールが組み上がった。
本機は超大型のフロアタイプスピーカーシステムなのでテーブル上で組み合わせるわけには行かない。実際の設置スペースで組み上げて行くことになる。
まずは下部のダクトモジュールをシステムベースとなる厚さ30mmの黒御影石の板(200×250mm、重さ4.6kg)に設置する。(写真63,64)
ずれないようにダクトモジュールの裏面には薄いウレタンシールを貼り、石板と背面で粘着テープにより、しっかりと固定してある。
このベース石板は重さによる転倒対策の働きの他に、音響的なインシュレーターとしての効果を得るものである。
ダクトモジュール上にメインモジュールとウーハーモジュールをスピーカー設置位置で組み合わせ作業を行う。写真の背景が雑多なのは許していただきたい。
最下部のダクトモジュール(写真65)にメインモジュールを乗せ(写真66)、次にウーハーモジュールを乗せて行く。(写真67)
筐体の接合と共に、内部の強化フレームもしっかりと接合する。
最後にトップパネルを乗せてローレンジユニットの組み立て完了である。(写真68)
その内容積約20リットル、高さ80cmにおよぶ巨大な全貌がやっと明らかになった。
組み立ての完了したローレンジユニットの外観を写真69~71に示す。
シンプルなトールデザインの低音域ユニットであるが、ダブルウーハーのメタルコーンと下部の赤いバスレフポートが意匠のアクセントになっている。
ローレンジユニットのトップパネル上にミッドレンジユニットとハイレンジユニットを乗せて配線すれば長かった71号機の組み立て作業は完了である。(写真72)
これら3つのユニット構造が機械的にも電気的にも完全に独立していることが、本機のポイントなのである。
それは先にも述べたように3ウェイ方式で重要と考える各スピーカーユニット間の位相を調整するためである。ウーハー、スコーカー、トゥイーターの前後設置位置をずらすことで、この位相調整を容易に行えるのである。(写真73~75)
また、デバイディングネットワークの調整のために素子交換を行う際も、完全独立型であれば容易に作業を行える。
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4.測定と調整 |
調整はローレンジユニット部のバスレフ共振周波数から行う。
図5~7のインピーダンス特性から、ローレンジユニットのウーハーのfo(最低共振周波数)はおおよそ50Hzと読み取れる。
スピーカーユニット単体のfoは35.5Hzなので内部の空気バネの影響が見える。実効内容積19リットルはこのウーハー2本には少なめなのだろう。
バスレフダクトサイズを変えた場合のバスレフ共振周波数は図のインピーダンス特性からディップの位置を読み取り、
・図5 ダクト高93mm:55Hz(52Hz)
・図6 ダクト高61mm:50Hz(45Hz)
・図7 ダクト高42mm:45Hz(39Hz)
であり、( )で示した設計時のバスレフ周波数から少し上昇した。この理由は実効内容積が想定よりも少なかったためと推定する。
バスレフ共振特性のディップが小さいことはダンプされているということであり、内部強化フレームの気流抵抗の働きである。
本機の強化骨格構造方式はエンクロージャ内部が強化フレームで満たされるため、吸音材が不要となるが、これはバスレフ方式においてバスレフ共振音のクセの低減とともに吸音材による悪影響の排除に有効であると思う。
吸音材の悪影響とは、一般的な綿やグラスウールの充填では音のエネルギー感が失われることであり、できれば吸音材は使用したくない。エンクロージャ内部反射による定在波の抑制や、不要な中高音域のバスレフダクトからの漏洩を抑えることが吸音材の目的であるが、内部強化フレームはこれらを抑制するという効果も期待できるのである。
バスレフ周波数の選択は、セオリーではスピーカーユニットのfoに合わせた50Hz(図6)がウーハーの振幅制限効果から最適となるが、本機ではバスレフ方式による効果は低音域のレンジ拡大に期待したいので、低めの45Hz(図7:ダクト高42mm)を採用することに決めた。
図8に周波数特性の測定結果を示す。
これはミッドレンジユニットとハイレンジユニットを最前面に設置した状態である。
最前面といっても天板部のテーパーがあるので、実際はツライチではない。
ミッドレンジユニットのバッフル面がウーハーバッフル面の-10mm、ハイレンジユニットのバッフル面がさらに-3mmの-13mmの位置である。(写真73参照)
この測定はリスニングルームのスピーカーシステム設置位置からミッドレンジユニットの正面軸上1mのポイントで行っている。このため低音域において部屋の特性の影響が出ているが、150~300Hz付近の凸凹はこのためであり無視していただきたい。
低音域では45Hz付近にバスレフ共振の増強が見える。
この測定条件では、1kHzの中心周波数音圧レベルはおおよそ75dBであり、-10dB再生範囲は40Hz程度である。
高音域は4kHz付近から明らかな低下が見られ、これはトゥイーターのアッテネータ量が適切でないことを示している。
ユニット設置状態を変更し、ミッドレンジユニットを16mm後退し、ハイレンジユニットをさらに20mm下げた配置(図9)では、3kHz付近にディップが生じ、これはスコーカーとトゥイーターの位相整合が取れていないことを示している。
ここで、インパルス応答特性の本領発揮である。いつもはオマケ図程度に記載している本測定結果であるが、このような位相整合特性がわかりやすいのだ。
なお、改めて言うと、この図は測定した位相と周波数特性から算出された時間応答特性で、横軸が時間、縦軸が周波数で、色合がレスポンスを表している。
時刻0を中心にして、山型に均一な色彩できれいな分布が望ましい。位相に不整合があると色が寒色に変化し、位置が時刻0からずれる。
まずはハイレンジユニットのみを10mmずつ後退させてみた。(図10~13)
注目はスコーカーとトゥイーターのクロスオーバー周波数である4kHz付近だ。
・初期の-13mmではきれいにつながっており、時刻も一致している。(図10)
・-23mmでは明らかに不整合が生じており、時間ずれと合成レスポンスが低下した。
たったの10mmでこの変化には驚いた。(図11)
・-33mmでは逆方向に位相が不整合となってきている。(図12)
・-43mmで、また位相が整合に向かっていることがわかる。(図13)
つまり、結論は-13mmの最前面位置でOKということになる。
同様にミッドレンジユニットを後退させてインパルス応答を測定する。
この場合は上に乗っているハイレンジユニットも当然同じように後退する。トップパネルのタイルブロック1枚分の16mmずつ後退してみた。
ウーハーとスコーカーのクロスオーバー周波数が800Hzと低いので設置位置の影響はトゥイーターほどには顕著ではない。
・-26mmではあまり変化は見られない。(図14)
・-42mmでは1.5kHz付近に遅れが見えてくる。(図15)
・-58mmでは明らかな位相不整合が生じている。(図16)
この試行結果から、ミッドレンジ位置も最前面が最適とわかった。
まあ、10mmのオフセットがあるので、ボイスコイル位置を考えても妥当なポジションであろう。
各ユニット間の位相調整ができたので、この状態で音を聴いてみる。
やはり低音の量感は十分であるが、高音が物足りなく迫力の無い音である。
そう、トゥイーターのアッテネータ調整がまだなのだ。初期の-6dB(50%)は落としすぎであった。そこで、図17の回路とし、アッテネータを-2.7dBに修正し、さらにカットオフ周波数も3.5kHzに調整してみた。カットオフといっても、-3dB(-30%)に低下する周波数である。
この状態で周波数特性を測定すると(図18)、高音域が改善し、1kHzの音圧(75dB)に対する-10dB再生周波数帯域は40Hz~20kHz以上のワイドレンジとなった。
もちろん、この調整は位相整合にも影響するのでインパルス応答も改めて確認する必要がある。(図19)
これで調整作業も完了である。
それにしても図19のインパルス応答を見ると200Hz付近の減衰が気になる。これはリスニングルームの壁面距離3.6mの影響なのでやむを得ないのだが・・・。
この71号機は3ウェイの各帯域のユニットが完全に独立しているので、それぞれ単体で動かして確認することが可能である。
デバイディングネットワークのチェックをしてみよう。
ウーハーのみの単体特性(図20)を見ると、このスピーカーシステムの測定条件における平均レスポンスは75dBなので、クロスオーバー設定周波数の800Hzで確かに-3dBとなりレスポンス低下が開始されていることがわかる。
しかし、ウーハーユニットの分割振動共振点が2kHzに存在するようで、オクターブ上の1.6kHzで-9dBとなるところが-6dBに減衰がとどまっている。だが、50%なので影響は抑えられていると考えられる。
さらにオクターブ上の3.2kHzでは-18dBと十分に低下している。
トゥイーター単体特性(図21)ではクロスオーバーの3.5kHzでほぼ-3dBで減衰開始、オクターブ下の1.75kHzで-6dBなのは1kHz付近にトゥイーターのfo共振点があるからだ。さらに下の875Hzで-15dBとなっており、減衰特性はおおむね良好である。
ウーハーとトゥイーターだけを動作した2ウェイ特性(図22)ではクロスオーバー間の中心周波数である2kHz付近で-6dB程度に落ち込んでおり、-6dB/octの本機のデバイディングネットワーク減衰特性では減衰量はこのようなものだろう。
この状態で音を聴いてみると、2kHz付近はヒトの聴覚感度が最も高く重要な帯域なので、この部分が落ち込んでいると実につまらない音に聴こえるのである。
スコーカーの単体特性(図23)は、この-6dBを補うように設計されている。2kHzでレスポンスは-5dB程度、先の2ウェイに合成されて75dBレスポンスとなるのだ。
スコーカーユニットのfoは250Hz程度で密閉型なので高めだが、高音域の分割振動点は20kHz以上で、ともに十分に抑えられている。
このようにしてみると、本機は2ウェイシステムにスコーカーを軽く乗せたという設計思想であることがわかる。デバイディングネットワークを-12dB/octに強化して干渉帯域を減らせば、よりスコーカーを活かせるが、その場合はダブルウーハーの強力な低域と、もともとレスポンスの高いトゥイーターに負けない高能率のスコーカーが必要になってくる。
実際、市販の大型スピーカーシステムではスコーカーに大口径ユニットを採用している例も少なくない。
本機は3ウェイシステムのワイドレンジに一体感のつながりを重視するという設計なのである。
また、先に述べたように2kHz付近はスピーカーシステムの音質を決定する最も大切な帯域なので、ひずみの少ないスコーカーの搭載意味は大きいのである。
なにしろフルレンジで使用できるスピーカーユニットをたったの800Hz~4kHzという狭い範囲で使用するという贅沢な使い方なのだ。
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5.試聴 |
・・・次元の異なる音である。
まさか、こんな音のするスピーカーシステムをLEGOブロックで造ることができるとは、自分でも驚いている。
本物の低音とワイドレンジがそこにある。
大ホールの空気感を再現するほどの圧倒的な重低音、コントラバスの余韻が違う。
同じ音楽が、これまでとはまったく違って聴こえてくる。
本当はこんな音だったのか? という発見がある。
もちろん低音だけでなく、ボーカルの定位も素晴らしい。
この音はBGMには使えない。スピーカーシステムに、音楽に、リスニングルームが支配されている感覚なのだ。
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6.おわりに |
71号機は3ウェイシステムの製作経験も与えてくれたが、なによりLEGOスピーカー製作12年の集大成として、私の製作技術の粋を集めた作品なのである。
このレベルに達し得たことが感慨無量である。
しかし、今後、私はこれを超えるものを造れるのだろうか? 心配になってきた・・・。
(2019.08.18)