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LEGO SPEAKER 第59報 ≪第58報 第60報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第59報
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1.LEGOスピーカーの限界突破 |
強化骨格構造は67号機の製作(第56報)で経験したLEGOスピーカーのエンクロージャ強度に対する限界を突破する技術であると確信している。
これにより、これまでとても困難であると考えていた大型スピーカーシステムの製作が可能になるのである。
70号機となる本作品は記念号機として大型モデルの製作に挑戦したい。そこで、倉庫で眠っていた25号機(第17報)を引っ張り出してきた。
これはヤマハの名機「NS-10M」をベンチマークにした内容積約10リットルのLEGOスピーカーとしては大型のモデルである。
今では貴重なヤマハのオリジナルスピーカーユニットを使用して造られた25号機は、高音質モデルとして企画されたものであったが、2010年当時の私の製作技術はとても未熟で、密閉型のはずがLEGOブロックの隙間は開き放題で、エンクロージャの補強構造は支柱と細いステーに頼っていた。
吸音材には活性炭を詰め込んでいて、その音質はスピーカーユニットの良さに助けられてはいたが、大型のエンクロージャはまったくの非力で、18cmウーハーの強大な背圧に耐えられるわけもなく、今となっては楽しめるレベルのものではない。
当時の音質評価記述・・・
「・・・だが、同時に限界も感じる。これ以上の強度確保は困難であるし、あくまで筐体放射を許したエンクロージャしか造れないだろう。オリジナルの「10M」のようなタイトな低音、モニタースピーカーとしての資質は持てない。今後はLEGOのこうした素材としての特徴を活かす利用法が必要だと思う。
オリジナルと比較すると外観はそっくりだが音調は全く異なる。エンクロージャがスピーカーシステムに与える影響は当たり前ではあるが甚大である。」
こうして過去の作品を改めて聴きなおしてみると、技術不足を反省するが、なにより製作技術の目覚しい向上に自分でも驚くのだ。
9年間の技術開発と失敗の経験は極めて大きな成果なのである。
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2.設計 |
密閉型の製作にあたっては、LEGOブロックの隙間はマスキングテープで処理できる。
バッフルパネルやリアパネルの隙間もプレートブロックの組み合わせ方で対応可能だ。
問題となるのはウーハーの強大な背圧に耐えるエンクロージャ強度である。
特に大面積のリアパネルと天地や左右側面の変形、振動は問題で、筐体からの音圧放射になり、異音の原因、音像定位の不明確といった問題になる。もちろん音質そのものも劣化するだろう。さらにバッフルパネルが筐体振動の影響を受けると支点がブレてしまい、歪が増加するのだ。
そこで、本70号機はここに新技術「 強化骨格構造 : Rigid-Frame Technology 」を適用して徹底した強化を試みるのである。
写真2は内部強化フレームの検討状態であるがLEGOならではの、最適化された複雑な構造体となっている。ラーメン構造がリアパネルとバッフルパネルを強固に接合し、バッフルパネルがスピーカーユニットの周囲で支持されている様子がわかる。また、天地や左右の側面も随所で内面から固定される。
今回は密閉型なのでさすがに吸音材レスにはできない。特に低音域の圧力を吸収する必要があるのだ。このため、内部強化フレームに立方体の空間を設けてあり、ここに吸音材のスポンジボールを挿入する。
スポンジボールはその弾性変形により低音域の吸音に効果があると考えている。むろん、スポンジなので高音域も吸音する。
写真を良く見るとウーハー後部リアパネル近くに黒いプレートブロックによる部品が見えるが、これはデバイディングネットワーク実装パネルである。
構造図を描いてみた(図1)。
外観、寸法はオリジナルの25号機を踏襲し、大きな内部に強化フレームを構築する。この内部強化フレームは中心部上下を貫く構造に、左右4箇所に支柱構造を設けている。
また、図には示されないが、奥行きの中央位置で支柱間を渡すステーを上下に入れてさらに強化する。
4本の支柱の設置位置はスピーカーユニットを支えるために、トゥイーター背面中央、ウーハー背面中央と上下位置の計4箇所である。このうちウーハー背面の中央支柱はマグネットがあるのでバッフルパネルまでは存在しない。
また、今回は18cmの大型ウーハーを使用するので、バッフルパネルはトゥイーター用とウーハー用で分割して製作する。このため、固定構造が2枚のバッフルパネル間に必要なので、内部強化フレームにステーを設けてこの位置に支柱を造り込む。
補強構造により形成された計16箇所の立方体空間に吸音材のスポンジボールを挿入するが、後側の一箇所の空間にはデバイディングネットワークが入るため、吸音材ボールは15個を挿入する。
内部強化フレームは強度を確保しつつ、LEGOブロック個々の背面空間容積を利用できるように、注意してフレーム構造に組み上げる必要があり、本機の重要な製作ポイントである。
この強化フレームによる内容積減少を計算し、実効内容積はおおよそ7.8リットルと見積もった。
デバイディングネットワークを設計する(図2)。
25号機ではオリジナルの「10M」を尊重してクロスオーバー周波数2kHzで、12dB/octの回路を採用していた。また、トゥイーターのアッテネーターは無しであった。
25号機の製作リポートにも記述したが、もともと「NS-10M」はスタジオモニターとしての用途を想定してか、デッドな空間で音をチェックするために高音域が強調されているように感じる。あるいは大音量でバランスが取れるのかもしれないが、どうもオリジナルモデルにおいても高音がキツイのだ。これはプロでも良く指摘することで、「トゥイーター前面にティッシュペーパーを付けた」などという話も聞く。
そこで、今回はデバイディングネットワークを変更して高音域を調整したいと思う。
設計思想としてはクロスオーバー周波数を4kHzに高めてトゥイーターの負担を減らす。ウーハーの分割振動の影響があるが、4kHzくらいなら18cmウーハーでもいけるだろう。トゥイーターには-2dBのアッテネーターを軽く入れ、高音域を抑える。このトゥイーターはドーム型なので-6dB/octの遮断特性でも問題はないだろう。ウーハーとのクロス帯域が増えるが、位相が急激に変化しないメリットもある。(実はパーツを減らしたいのが一番)
「NS-10M」のスピーカーユニットは保守パーツとして入手したが、スピーカーユニットの単体特性は公開されていないので良くわからない。ウーハーのインピーダンスは4kHzでは12Ω程度と実測し、図の回路を設計した。
トゥイーターの位相は6dB/oct回路設計のセオリーどおりに逆相である。
<70号機 基本仕様>
・ 方式:強化フレーム構造リジッドシステム2ウェイ 左右対称デザイン
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:密閉型
・ 使用ユニット:トゥイーター YAMAHA JA0518A(3.5cmソフトドーム)
ウーハー YAMAHA JA1801A(18cmペーパーコーン)
・ 外形寸法:W216 H384 D195mm
・ 内容積:約7.8リットル
・ デバイディングネットワーク:クロスオーバー 4kHz 6dB/oct
・システムインピーダンス:8Ω
・ 質量:6.1kg
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3.製作 |
リサイクル作品の場合、まず、行うことはベースモデルの分解作業であるが、実はこれが結構大変だったりする。しっかりと組み立てられたLEGOブロックは極めて強固に接合しているのでなかなか外れない。手をケガすることもある、LEGOスピーカーの製作で唯一危険な作業なのである。(絆創膏程度だが)
過去の作品を分解していると、あの頃はこんなの造っていたのか?・・・ という感慨に耽ることもできる楽しい作業でもある。
バラバラになったパーツを修正、改造して新たに組み直して新作品のパーツを造る過程もまた、実に楽しいのだ。
本機は密閉型であり、言ってみればただのハコなのでパーツはごくシンプルである(写真3)。ただし、新規の内部強化フレームが異彩を放っている。
写真4~6は内部強化フレームである。
エンクロージャ補強と搭載スピーカーユニットとの干渉を避けるための高度に最適化された左右対称デザインである。
本機はウーハーユニットが大型なので、マグネットの確保空間が大きいが、ウーハーユニット固定位置のボルト近傍4点で、しっかりとバッフルパネルを支える構造になっている。
また、設計で述べたように本機のバッフルパネルはウーハーパネルとトゥイーターパネルの2枚に分かれるため、この合わせ位置が特に強化されている。
吸音材ボールを挿入するための空間の確保や、黒いプレートブロックによるデバイディングネットワーク実装パネルの固定方法などにも工夫している。
写真7はウーハーパネルである。バッフルパネルというより枠だが、最大厚さは22mm(プレートブロック7枚)もあり、ひねりに対しても強力である。
トゥイーターパネル(写真8)も同様に強靭そのもの。トゥイーターユニット取り付け部分に6mm(プレートブロック2枚分)のザグリがあり、70号機のエンブレムはテプラシールを貼っている。
本体フレーム(写真9)は内面にマスキングテープを貼っているが、ただの大きなハコである。
リアパネル(写真10)もただの大きな板。これまでなら、こんなに大きなLEGO部品は強度不足とハコ鳴りの元凶で音質劣化の最大要因となっていたが、今回は強化フレームの適用でこの心配は無いだろう。
写真11にウーハーユニットを示す。
ヤマハの純正保守スピーカーユニットで、本物である。
前作品用に購入してから10年近くになるが、劣化はまったく見られない。
この18cmウーハーはプレスフレームでちょっと古臭いデザインだが(40年も前の設計なのだ)とてもしっかりとした作りで、貼り合わせの軽いペーパーコーンに大きなマグネットで、高能率(90dB/W/m)を誇る。
貼り合わせコーンは今では珍しいが、振動板の均一性が高いメリットがあり、この白いコーンが大変魅力的なのである。
写真12の35mmトゥイーターユニットはタンジェンシャルエッジのソフトドームで、これまた強力なマグネット(ウーハーより大きい!)を採用し、高能率とハイトランジェントを達成している。
これは「NS-10M PRO」に採用された後期型なので、アコースティックアブソーバーと呼ぶ吸音素材が振動板の周囲に設置されている。これでバッフル板エッジの回折音を低減する工夫だろう。マグネットが大きすぎて接続端子の引き出し方に苦心が伺える。
写真13にその他の部品を示す。配線ワイヤー、ターミナル、インシュレーター、デバイディングネットワークパーツのコアコイル、フィルムコンデンサー、薄膜抵抗器とネジ類、それに吸音材のスポンジボール(左右で30個も使う)である。
組み立て作業はいつものようにバッフルパネルから行う。
ウーハーパネルにウーハーユニットをM4ボルト&ダブルナットで強固に締め付ける(写真14、15)。大型ウーハーの場合、取り付け穴位置に余裕があるので位置合わせは比較的容易である。
トゥイーターパネルにトゥイーターユニットを取り付ける(写真16、17)。
四角いマド穴の4隅にワッシャで引っ掛けて取り付けるという、いつもの方法であるが、取り付け強度に全く問題は無い。
リアパネルを組み立てる(写真18、19)。
リアパネルにターミナルとワイヤーを取り付けるが、デバイディングネットワークに配線するためにワイヤーを造り込んである。
エンクロージャは本体フレームに配線したリアパネルを取り付けただけの大きなハコである(写真20、21)。これはブロックによる接合構造体なので、このままでは強度が低くタイコのように鳴ってしまい、スピーカーシステムとして明らかに問題となることが想像できる。まさに、強化骨格構造の効果が期待されるところである。
デバイディングネットワーク素子のコイル、コンデンサー、抵抗器を実装パネルにコンパクトに実装する(写真22、23)。
内部強化フレームの小さな隙間に納まるように工夫している。
本体フレームに内部強化フレームを挿入する(写真24)。
毎回のとおり、これは内部で再度組み立て作業を行うことにより実現される。
まずはリアパネルに内部強化フレームのベースを取り付ける(写真25)。これだけでもリアパネルの補強は十分である。
ここにデバイディングネットワーク実装パネルを取り付ける(写真26)。
内部強化フレームを組み上げて行く(写真27)。下段のフレームができたところで吸音材のスポンジボールを設定空間に7個挿入する(写真28)。
強化フレームの上段を組み立てて行く(写真29)。
上段も組み上がり、残りのスポンジボールを挿入する(写真30)。
写真からわかるように2枚のバッフルパネルの間にステーがあり、接合位置を強固に支持する。ウーハーパネルの4隅にも強化フレームが伸びており、強力にリアパネルと連結する構造である。
本体フレームにトゥイーターパネルを取り付ける(写真31、32)。
2枚のバッフルパネル間の隙間を内面から塞ぐことで、密閉性の低下を防止することにもこの強化ステーは機能するのである。
最後にウーハーパネルを取り付ければ、組み立て作業は完了である(写真33)。
本機は密閉型なのでエンクロージャに調整項目は無い。大型のシステムでバッフルパネルも大きいが、内部強化フレームによりしっかりと固定されている。
組み立ての完了した70号機の外観を写真34、35に示す。
外観はベースの25号機とソックリだが、秘めた技術はまったく異なる。
どこを叩いてみても、その音からしっかりとしたエンクロージャであることが判断できる。
黒いツヤの有る外観は「NS-10M」のピアノフィニッシュヴァージョンの様で「10M」ファンとしてはワクワクしてしまう。
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4.測定と評価 |
さて、特性測定であるが、動作チェックのためにまずは試しに聴いてみる(写真36)。
ところが・・・あまりの音の違いに困惑した。
まったくベースの25号機の音調とは異なっている。オリジナルの「10M」のパワフルな音ともかけ離れた音なのだ。
良く言えばジェントルな音。だが、聴いていると暗い元気の無い音に聴こえてきた。
これはどうしたことだろう?
エンクロージャの強化がこのような変化をもたらすとは考えられない。すると、デバイディングネットワークの変更、すなわちクロスオーバー周波数を2kHzから4kHzに移動、-2dBアッテネーターの挿入、遮断特性の-12dB/octから-6dB/octに変更、の影響であろうか?
インピーダンス特性の測定結果(図3)では典型的な密閉型の1ピークを呈しており、システムのfoは94Hz程度であることがわかる。エンクロージャの密閉性は問題ないだろう。2ウェイシステムの特性として不具合は見られない。
周波数特性を測定したところ(図4)、クロスオーバーの4kHz付近に大きく落ち込みが見える。この周波数特性の時間変化から計算したインパルス応答(図5)では明らかにクロス周波数でウーハーとトゥイーターの接続不良を示している。(4kHz付近のブルー領域)
この現象を考察してみる。
ウーハーとトゥイーターの位相整合は前後方向の固定位置でシビアになる事を経験している。特に本機は大型の18cmウーハーを搭載しているため、ボイスコイル位置にウーハーとトゥイーター間で差が大きい。
オリジナルモデルではクロス周波数が2kHzであったが、クロスを4kHzに高めたため、逆位相となる前後の固定位置差はたったの4cmとなった。これはウーハーとトゥイーターのボイスコイル位置差に近い。さらに遮断特性を-12dB/octから-6dB/octに変更したため、ウーハーとトゥイーターの干渉する周波数範囲が広がった。
以上のことから逆相接続では問題となることが推測された。そこで、同相接続に改めてみた。
変更後の周波数特性(図6)はクロス周波数でのディップが無くなり(図4と周波数スケールの違いに注意)、インパルス応答(図7)も良好に改善された。
マルチウェイシステムの位相合わせの重要さを改めて認識した。勉強は尽きないのである。
私の新生「10M」、70号機の音はオリジナルのパワフルな味は残しつつ、高音域のやわらかさが感じられ、とてもバランスが良くなったと思う。
特にボーカル曲が良い。18cmウーハー搭載の大型機らしく、余裕の低音で量感もあり、それでいてバスレフ方式によく見られる共振による付帯音の無い自然な低音である。
面白いのは本機に密閉型独特の低音の音調があまり感じられないことだ。私はだいたい、バスレフ方式の音と密閉型の音は聴き分けられると思っているのだが、このスピーカーシステムにはそのようなクセが感じられないのである。
やはり強化骨格構造の効果は大きいと言える。内部強化フレームにより、大きなリアパネルや側面からの不要な筐体輻射が抑制されているのだろう。
バッフルパネルの支点も明確になり、ひずみが低減し高音域の再現性も向上していると感じる。
本機は、今後しばらくは私のメインスピーカーシステムの座に君臨しそうである。
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5.おわりに |
正攻法のエンクロージャ強化が可能となる強化骨格構造は、LEGOスピーカー製作のブレイクスルーとなる基幹技術である。
この技術の確立により、これまであきらめていた製作が可能になる。
次回作はLEGOスピーカー史上最大となる壮大なプランを計画している。乞うご期待!
(2019.05.06)