LEGO SPEAKER 第58報

≪第57報 第59報≫

LEGOスピーカーの製作 第58報

写真1 強化骨格構造研究2号機 69号機
写真1
強化骨格構造研究2号機 69号機

1.はじめに

 前回紹介した強化骨格構造は大変効果の高い方式であると確信している。今回はその研究2号機として大型化を試みる。
ベースにはフロントホーン&バスレフ方式スピーカーの53号機(第43報参照)を使用する。このエンクロージャをそのままに、内部に強化フレームを挿入するのだ。
 53号機は赤いフロントホーンがデザインの特徴であるが、方式は内容積約4リットルのシンプルなバスレフ方式で、吸音材にはスポンジボールを用いていた。ダクト長は7cmとしてバスレフ周波数を85Hzに設定していた。
 スピーカーユニットには巨大マグネットのPARC Audio DCU-F122W 10cmウッドコーンフルレンジを使っていたが、このスピーカーユニットには内容積が小さすぎて問題であることがわかっているので、ここは変更する。
 このモデルを強化骨格構造方式に改造することで、エンクロージャを強化し、音質の改善を評価するのである。ところで、この赤いホーンのスピーカーシステムは20号機(第12報)が最初の製作で、素材のLEGOブロックは3回目のリサイクルになる。こうやって製作コストを抑えられることもLEGOスピーカーのメリットなのだ。
 

2.設計

 新たに採用するスピーカーユニットはスキャンスピークの10F/8414G10 10cmフルレンジファイバーコーンユニットである。(写真2)
10cmフルレンジであるが比較的コンパクトで、マグネットがネオジウムであるため強力なのにとても小さく、内部強化フレームとの干渉を避けられるメリットがあるのだ。
1本で1万円以上する10cmフルレンジユニットとしては高価なものだが、アルミダイキャストフレームの高精度な作りで、これは後でわかることだが、歪みも少なく大変良質なスピーカーユニットである。

写真2 10F/8414G10
写真2
10F/8414G10

<10F/8414G10 主な仕様>
 ・ Impedance:8Ω
 ・ fo:100Hz
 ・ Qts:0.51
 ・ Sensitivity:86dB
 ・ Max Power:20W
 ・ Xmax:4.6mm
 ・ Weight:0.16kg

 

 本機の設計は、外観デザインは53号機を踏襲し変更はしない。このレトロ調なデザインが気に入っているのだ。ただし、スピーカーユニットの変更に合わせてバッフルパネルは新調する。また、リアパネルも構造変更に伴い修正した。それ以外のパーツは流用で製作を行う。もちろん、最大の新規部品は内部強化フレームである。
 図1の構造図に示すように、本機はこの強化フレームが内部に充填され、強い構造体を実現するのだ。
 方式はフロントホーンタイプのバスレフ方式であり、バスレフ周波数はダクト長を8cmに設定して、強化フレームとスピーカーユニットのマグネットによる内容積減少率をおおよそ20%と見積もり、実効内容積は約4リットルとして81Hzと計算している。
 吸音材を用いないことも本機の特徴である。吸音材の悪影響を逃れた音に期待したい。
 

 

<69号機 基本仕様>
 ・ 方式:強化フレーム構造リジッドシステム
 ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
 ・ エンクロージャ方式:フロントホーン・バスレフ方式
 ・ 使用ユニット:SCANSPEAK 10F/8414G10(10cmファイバーコーンフルレンジ)
 ・ 外形寸法:W224mm H304mm D224mm
 ・ 内容積:実効約4リットル
 ・ バスレフダクト長:8cm
 ・ バスレフ周波数:81Hz
 ・ システムインピーダンス:8Ω

図1 69号機構造図
図1
69号機構造図
図1 69号機構造図
図1
69号機構造図

3.製作

 全部品を準備した。(写真3)
本機は改造作品なので新規パーツが少なく製作が楽である。LEGOスピーカーの利点として改造が簡単であり、パーツの完全なリサイクルが可能な点があるが、これを最大限に活用した。

写真3 全部品
写真3
全部品
写真4 内部強化フレーム
写真4
内部強化フレーム

 本機の特徴的パーツが写真4の内部強化フレームである。
エンクロージャの形状に合わせた複雑な構造で、まさにLEGOブロックの真骨頂だ。
これだけ緻密な構造体が内蔵されるのだから、エンクロージャがどれほど強化されるか期待が膨らむ。バッフルパネルはスピーカーユニットの上下位置で強化フレームと接合され、リアパネル、本体フレームの天地左右も随所で内面から支持されるのだ。
 写真5はバッフルパネルである。スピーカーユニットのサイズに合わせて開口部を調整している。「Rigid-Frame Technology」のエンブレムはここに付ける。
 写真6は本体フレーム。前面ホーン搭載のために特殊な2BOX形状になっている。前面中央の凹部がバスレフダクトになる。内面はしっかりとマスキングテープで気密処理してある。

写真5 バッフルパネル
写真5
バッフルパネル
写真6 本体フレーム
写真6
本体フレーム

 写真7はリアパネル。ただの大きな板であるが、強度は内部強化フレームで確保されるので問題無い。LEGOスピーカーとしては、ここの強度が一番の問題であったのだ。下部にターミナル用の穴が2箇所開いている。
 フロントホーン部品を写真8に示す。赤いホーンが本機のデザインポイントであるが、このLEGOブロックは本来、屋根の造形に用いるものである。45度の角度のスロープブロックで表面に粒状性があり、高音域のディフューズに利用できる具合の良いものだ。
 写真ではわかりにくいが、このホーン部品は赤いスロープブロック以外はすべてプレートブロックでできており、密度が高く、重く強度も大きい。ホーン方式で問題となる「鳴き」をブロック構造の高い内部損失で抑えているのである。

写真7 リアパネル
写真7
リアパネル
写真8 フロントホーン
写真8
フロントホーン

 写真9はフロントパネルである。ベースの53号機からのデザインだが、本機はフロントホーンの横幅に合わせて、本体フレームの幅よりも大きなこのフロントパネルで正面のデザインを仕上げている。レトロ調のグレーのサランネットデザインが特徴だが、もちろんここに通気性は無い。フェイクである。
 その他の部品を写真10に示す。接続ワイヤー、ターミナル、ゴム足、ネジ類である。

写真9 フロントパネル
写真9
フロントパネル
写真10 その他の部品
写真10
その他の部品

 組み立て作業はバッフルパネルから行う(写真11、12)。スピーカーユニットをM4ボルト&ダブルナットで強固に締め付ける。
 今回は穴位置の関係でバッフルパネルに若干加工が必要であった。このスピーカーユニットは10cmフルレンジとしては小ぶりでいつもとサイズが異なるのだ。

写真11 バッフルパネル組み立て
写真11
バッフルパネル組み立て
写真12 バッフルパネル組み立て
写真12
バッフルパネル組み立て

 次にリアパネルを組み立てる(写真13、14)。ターミナルと配線ワイヤーを取り付けるだけである。

写真13 リアパネル組み立て
写真13
バッフルパネル組み立て
写真14 リアパネル組み立て
写真14
バッフルパネル組み立て

 2BOX構造の本体フレームにリアパネルを取り付ける(写真15、16)。

写真15 本体フレーム組み立て
写真15
本体フレーム組み立て
写真16 本体フレーム組み立て
写真16
本体フレーム組み立て

 この内部に強化フレーム構造を挿入するのだが、前回同様このままでは構造的に入らない。また、本体フレーム内面には密閉性確保のためのマスキングテープが貼ってあるので、この厚さで寸法的にも挿入が困難なのだ(写真17)。

写真17 内部強化フレーム挿入
写真17
内部強化フレーム挿入

 そのため、エンクロージャ内部での強化フレームの再組み立て作業になる(写真18~21)。この製作方法を行えることがLEGOブロックで造る本機の最大の利点であると言えるのだ。
 今回の強化フレームはとても複雑な形状をしているので内部で再現することに苦労したが、しっかりと収まりエンクロージャは内部強化フレームによりバッチリ補強された。

写真18 内部強化フレーム再組み立て工程1
写真18
内部強化フレーム再組み立て工程1
写真19 内部強化フレーム再組み立て工程2
写真19
内部強化フレーム再組み立て工程2
写真20 内部強化フレーム再組み立て工程3
写真20
内部強化フレーム再組み立て工程3
写真21 内部強化フレーム再組み立て工程4
写真21
内部強化フレーム再組み立て工程4

 本体フレームにバッフルパネルを取り付ける(写真22、23)。
バッフルパネルの内面からスピーカーユニット上下の位置で内部強化フレームが強固に支持している構造がわかるだろう。

写真22 バッフルパネル取り付け
写真22
バッフルパネル取り付け
写真23 バッフルパネル取り付け
写真23
バッフルパネル取り付け

 フロントホーンとフロントパネル、ゴム足を取り付ければ本機の組み立て作業は完了である(写真24、25)。
 フロントパネルも内部強化フレームにより強固に支持されるので、しっかりと取り付けられる。支点が明確になり、不要な振動を抑えることはスピーカーエンクロージャ製作のセオリーであり、明らかに音質に好適に作用することであろう。
 本機の制振コンセプトからゴム足も3点支持としてガタを排除している。本来は足もリジッドにしたいところであるが、すべり止め効果を優先してゴム足を選んだ。ゴムでも薄ければコンプライアンスは低いのだ。

写真24 フロントホーン、フロントパネル取り付け
写真24
フロントホーン、フロントパネル取り付け
写真25 フロントホーン、フロントパネル取り付け
写真25
フロントホーン、フロントパネル取り付け

 完成した69号機の外観を写真26、27に示す。
レトロなデザインと特徴の赤いフロントホーンが良い味を出している。
ホーン内部に納まったフルレンジユニットはベースモデルのウッドコーンユニットよりはデザインのインパクトに欠けるが、落ち着いた意匠となりこれも良い感じだ。
 内部強化フレームの挿入でとてもしっかりとしたエンクロージャである。リアパネル、側板など、どこを叩いてみてもコチコチで極めて強固。これは音質にも期待できる。

写真26 69号機外観
写真26
69号機外観
写真27 69号機外観
写真27
69号機外観

4.特性測定と音質評価

 まずは特性測定を行う。インピーダンス特性(図2)ではシステムのfoは約110Hzでユニット単体の100Hzから若干の上昇。バスレフ共振周波数はおおよそ80Hzで設計どおりであり、実効内容積は想定値であることがわかる。音も確認してバスレフ周波数の調整は不要と判断した。
 予想通りにバスレフ共振周波数のデップが小さく、ダンプドバスレフの特性になっている。内部強化フレームが強い気流抵抗を生じているのだ。バスレフ効率は低下するが、バスレフ特有の音のクセが抑えられ、内部強化フレームが吸音材の代わりに作用していることがわかる。

図2 インピーダンス特性
図2
インピーダンス特性

 周波数特性(図3)では、注目すべきは高音域のきれいな特性で、振動板の分割振動による高音域のピークも良く抑えられていて、このフルレンジユニットが優秀であることがわかる。1kHzに対する-10dB周波数範囲は100~20kHzといったところである。

図3 周波数特性
図3
周波数特性

 本機の特性で特徴的なのは図4のインパルス応答で、高音域に数ms程度の反射音が非常に多いことだ。これはフロントホーン特有の特性であり、強い一時反射を生じていることがわかる。この付帯音を歪みと見る向きもあろうが、これこそがフロントホーンの音調であり、個性の主張なのだ。

図4 インパルス応答
図4
インパルス応答

 試聴は一聴して違いのわかる音であった(写真28)。
音が明確でスピード感のある音だ。低音も10cmユニットの4リットル程度のハコにしては十分に出ている。やはり大型化は特に内部強化フレームの効果が大きいと言える。
 ダイナミックでメリハリのあるしっかりとしたこの音は、強固なエンクロージャがもたらした効果であると確信した。また、この音の要因には吸音材レスも効いているのだろう。音調はフロントホーンの味が利いて個性的なものだ。私はこの力強いホーン独特の音も好きなのである。
 本機はその意匠と共にジャズリスニングに最適なスピーカーシステムであると言える。
ただ、ヴァイオリンソロでは独特の響きが強すぎてクリアに聴こえなかった。そこで、フロントホーンの並行面である上面内側にフェルトシールを貼って響きを抑えてみた。この調整は大変効果があり、ヴァイオリンも美しく聴けるようになった。
また一台、愛用機が増えたのである。

写真28 試聴の様子
写真28
試聴の様子

5.おわりに

 「Rigid-Frame Technology」はLEGOスピーカーの新たな製作技術として確立した。
次は更なる大型化を計画している。この新技術で甦らせたいモデルがあるのだ。

(2019.05.06)

写真29 「Rigid-Frame Technology」搭載フロントホーンシステム
写真29
「Rigid-Frame Technology」搭載フロントホーンシステム

第57報LEGOスピーカーの製作第59報

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