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LEGO SPEAKER 第57報 ≪第56報 第58報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第57報
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1. LEGOでなければ造れないスピーカーシステム |
私がLEGOブロックを使用してスピーカーシステムを造るのは、当初は製作・研究を繰り返すための手段であり、木材の代用品であった。
組み立てが簡単で、何度でも再利用でき、デザインの自由度が高く、見た目も面白いということで発案したのであるが、そのうちLEGOブロックでスピーカーを造ること自体が目的になってしまった。
これこそが私のオリジナリティであり、こだわりのポイントなのである。
そのため、多くの問題となる点を製作上のノウハウで克服してきたのだ。
しかし、あくまで代用品。
…では、LEGOブロックだからこそ造れた、というスピーカーシステムはできないだろうか? と、常々思案していたのだが、そこでアイデアが閃いた。
LEGOブロックによるラーメン構造(骨組構造:写真2)である。
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2.設計 |
今年もStereo誌から付属スピーカーユニット付き書籍が発売された。
今回はマークオーディオ製の8cmメタルコーンフルレンジユニットOM-MF5(写真3)である。8cmユニットにしては大型のプレスフレームだが、ちょっと困ったのは変則的な5穴固定デザインであることだ。これは取り付け穴位置調整に苦労しそうだ。
マグネットもとても大きく、伝統のアルミ合金コーンで性能にも期待が持てる。
特筆すべきは3.5mmの大きな振幅性能(Xmax)で、低音の駆動力が楽しみなスピーカーユニットである。
<OM-MF5 主な仕様>
・fo:124Hz
・Qts:0.60
・SPLo:85.4dB
・Power:8W(Nom)
・Xmax:3.5mm
・インピーダンス:4Ω
さて、新作68号機はこのスピーカーユニットを用いて新たな技術研究を行う。
「 強化骨格構造 : Rigid-Frame Technology 」の開発開始である。
一般的なスピーカーシステムの内部は空洞で、吸音材が充填されている。しかし、空洞の構造体は強度が不足し、特に大型になるほど全体が振動して不要な輻射「箱鳴り」が生じる。また、内部の定在波を吸収するために吸音材を用いるが、これは必要悪であり、再生音のダイナミズムを低下させ、音の鮮度にも影響すると考えられる。
そこで本機はエンクロージャの内部にLEGOブロックによるラーメン構造フレームを充填し、バッフルパネルとリアパネルを強固に接続する方式を発想した。
バッフルパネルが補強されることでスピーカーユニットの支点が明確になり、トランジェント特性の向上、ひずみの低減、音像感の明確化といった改善が期待される。
また、エンクロージャで最も弱くなる部分であるリアパネルもしっかりと固定され、耐振性能が大幅に向上する。もちろん内部補強構造は天地左右の側面も補強し、箱鳴りを減少させる。
充填された内部補強構造はエンクロージャ内の定在波を抑制し、高音域では乱反射による減衰が期待できるので吸音材が不要となる。(そもそも吸音材を入れる余地が無い)
このような充填構造を考えた場合、そのデメリットとして内容積の減少が挙げられるが、写真2に示すLEGOブロックによるラーメン構造では、ブロックの背面が空洞であることから内容積の減少は最小限に抑えられ、トータル実効内容積の減少率はおおよそ25%程度と見積もった。また、このためラーメン構造フレームはブロックの背面空洞を有効に活かすように工夫して組み立てる。検討した構造図を図1に示す。
本機の設計は使用するスピーカーユニットがハイストロークで高性能な8cmフルレンジユニットであることから、コンパクトなバスレフシステムを採用した。
エンクロージャ方式はシンプルなバスレフ方式だが、バスレフダクトはリアパネル背面外部に設置し、上方開口ダクトとすることで容易にダクト長を調整できるようにした。
内蔵する内部強化フレームによる減少を考慮した実効内容積は約1.35リットル、バスレフダクト長8.5cm、ダクトサイズ3.2×1.6cmから、バスレフ共振周波数は約100Hzと計算した。また、長さ3.2cmのエクステンションダクトを装着すると、バスレフ周波数を約90Hzに変更できる。
バッフルパネルはスピーカーユニットの取り付け穴に合わせて5箇所のネジ位置を調整し、スピーカーユニットをセンターに配置した。これは内部強化フレームとの干渉を避け、効果的に強化フレームが機能するようにしたためである。
構造図からもわかるように、エンクロージャ内部は強化フレームで充填され、この強化フレームがリアパネルとバッフルパネルを強固に接合し、側面、天地面も内部から随所で補強される剛体エンクロージャとなっている。
<68号機 基本仕様>
・方式:強化フレーム構造リジッドシステム
・組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・エンクロージャ方式:リアアウターダクト・バスレフ方式
・使用ユニット:MarkAudio OM-MF5(8cmアルミコーンフルレンジ)
・外形寸法:W128mm H224mm D150mm
・内容積:実効約1.35リットル
・バスレフダクト長:12cm
・バスレフ周波数:89Hz
・システムインピーダンス:4Ω
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3.製作 |
68号機の2台分、全部品を写真4に示す。
部品点数は少ないが、鉄骨色の内部強化フレームが異彩を放っている。
写真5のバッフルパネルは白いサイドラインが特徴で、コーナーカットデザインになっており高音域の回折音を抑える。「Rigid-Frame Technology」のロゴバッジも付けた。
写真6は本体フレームである。シンプルな枠構造だが、内面に密閉性を確保するためのマスキングテープが貼ってある。
写真7はリアパネルで、センターにバスレフ用の角穴があり、ターミナル取り付け用の穴が2箇所にある。穴間が大きく開いているのは内部強化フレームとの干渉を避けるため。
本機のキーパーツ、内部強化フレームを写真8に示す。ラーメン構造による補強パーツだが、井桁に組むことでブロック背面の空洞部を有効に利用できるようになっている。
スピーカーユニットの入る部分は空間が設けてあり、バッフルパネルのスピーカーユニット取り付け部上下で支持する構造である。
先に本機は「LEGOでなければ造れないスピーカーシステム」と表現したが、それはなぜか? 内蔵する強化フレームの精度も重要であるが、問題はエンクロージャの内面に密閉性確保の目的でマスキングテープを貼ってあるが、このために内寸が少なくなっており、組み立て後に内部強化フレームを挿入することができないのだ。もっとも、簡単に挿入できるようでは補強効果も低いと言える。
そこで一旦、強化フレームをバラして、再度エンクロージャの内部で組み立て作業を行う。
この作業手法により、エンクロージャの内部から強化フレームが圧迫して十分な補強効果が得られるのである。
まさにLEGOブロックでなければ製作できない構造体なのだ。
写真9はバスレフダクトである。2分割されているのは32mmのエクステンションダクトとして調整するためだ。なお、写真ではダクトの深さが9.6mmであるが、製作後の調整で最終的には深さを16mmに拡張している。
その他のパーツとして配線ワイヤー、ターミナル、ゴム足、ネジ類を用意する。(写真10)
組み立てを行う。バッフルパネルにスピーカーユニットを取り付ける。(写真11、12)
5箇所の穴位置を調整するために若干ブロックに加工が必要であったが、うまく収まった。
このスピーカーユニットはフランジが大きく調整はやり易い。
バッフルパネルは小型なのに厚さは19mmもあり、極めて丈夫。光を透かしてみても漏れないように工夫してプレートブロックを組み合わせているので密閉性も高い。
リアパネルにターミナル、接続ワイヤーを取り付ける。(写真13、14)
本機のリアパネルは小型なので強度は大きいが、内部強化フレームでさらに強固になる。
リアパネルと本体フレームと組み合わせる。(写真15、16)
本体フレームの内部に強化フレームを挿入するのだが、先に記述したようにエンクロージャ内面のマスキングテープの厚みで、このままでは困難である。(写真17)
このため、内部強化フレームをバラしておいてエンクロージャ内部で再度組み立てて行く。(写真18~21)
本機はこの作業方法で製作することができた。高い精度と容易な分解、組み立てが可能なLEGOブロックならではの発想である。(写真22)
バッフルパネルを取り付ける(写真23、24)。写真からもわかるようにバッフルパネルはスピーカーユニット近傍の上下裏面から内部強化フレームによりガッチリと固定される。
リアパネルにバスレフダクトとエクステンションダクトを取り付ければ組み立ては完了である。今回は本機のコンセプトから、ゴム足もガタの無い3点固定にしてみた。(写真25)
組み上がった68号機を写真26、27に示す。
バッフルパネルのセンター配置スピーカーユニットが特徴の本機はコンパクトでおしゃれに仕上がった。もちろん、このセンター配置はデザイン面だけでなく、内部強化フレームによるバッフルパネル補強効果を最も有効に引き出すための設計なのだ。
強化エンクロージャは予想通り、リアパネル、側板など、どこを叩いて見てもカチカチで極めて堅牢。音に期待が膨らむ。
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4.評価と試聴 |
本スピーカーシステムの調整項目はバスレフダクト長である。リアパネルのダクトは簡単に延長ができる。エクステンションダクトの付け外しでインピーダンス特性の変化を測定してみた。
図2に示すインピーダンス特性はディップが小さく、ダンプドバスレフの特性になっている。これは内部の複雑な補強構造による気流抵抗でダンピングされたためと考えられ、バスレフ効率は低下するが、その分音のクセは抑えられる。低音域の量感をとるか、自然な音質を重視するかで評価は変わるが、予測した特性である。
吸音材の充填によるダンピングではないので無駄なエネルギーロスにはなっていないと思う。なお、エンクロージャの密閉性不良でも同様な特性となることを経験しているが、本機の密閉性は十分に考慮しているので問題は無いはずだ。
特性からバスレフ共振周波数はおおよそ100Hzであると読み取れる。ここでエクステンションダクトを取り付けるとバスレフ周波数が下がり、低音域特性の山の形が図3のように変化した。
バスレフ共振周波数は読み取りにくいが、90Hz程度であろう。
これらの周波数は設計値とほぼ一致しており、内部強化フレームの充填による内容積の減少率は想定の範囲と見て良いだろう。
周波数特性はおおむねフラットで良好な特性である。(図4)
驚いたのは高音域特性で、フルレンジユニットとは思えない伸び方をしている。分割振動によるピークも良く抑えられていて、本当にこのマークオーディオのOM-MF5は優秀なスピーカーユニットであることが理解できた。
この周波数特性はエクステンションダクトなしの状態であるが、バスレフダクトは容易に変更できるので様々にいじってみた。延長して長くしたり、太さを変えてポート径を広げてみたり…。リアパネルの外部背面ダクトは自由度が大きく、実に便利である。
変形のたびに低音域の感じが変化するのだが、量感を伸ばすことはなかなか難しい。スピーカーユニットサイズとエンクロージャの内容積で決まる限界が存在するのだ。
いろいろと試してみた結果、構造図に示したダクト径サイズでエクステンションを付けた共振周波数約90Hzの状態が最適と判断した。
試聴した音の第一印象はクオリティの高い音ということである。(写真28)
モニタースピーカーのような正確な音がするという感じだ。やはり正攻法による振動を抑えたエンクロージャは音質向上に高い効果があるようだ。
これまでのLEGOスピーカーに感じられた音調の甘さが少ないのである。強化したバッフルパネルはスピーカーユニットの支点を明確にし、正確なドライブを実現するのだと思う。
もちろん、このスピーカーユニットの良さにも助けられている。
もう一つ考えられることは、吸音材を排除したことによるメリットである。これもダイレクトな音を再現する要因であろう。
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5.まとめ |
本68号機の製作により新たな研究テーマである
「強化骨格構造:Rigid-Frame Technology」
の効果は確実にあると結論した。
前作67号機で経験したLEGOスピーカーのエンクロージャ強度に関する限界を突破する一因になりうる技術であると確信している。
しかし、本機では低音の量感不足を感じることも事実だ。これは強化フレームによる内容積の減少とバスレフ効率の低下が要因であろう。
次回は本方式によるサイズアップモデルを製作してみたいと思う。
(2019.01.06)