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LEGO SPEAKER 番外編その2 ≪第21報 第22報≫ |
LEGOスピーカーの製作 番外編その2

これが28号機の本当の姿
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1. 未完成だった28号機 |
オーディオの先輩から「なぜきちんとしたデバイディングネットワークを組まないの?」と指摘されてしまった。年始に製作した28号機(LEGOスピーカーの製作 第20報参照)であるが、タンデムドライブ方式を採用した本格的な2ウェイシステムなのだが、デバイディングネットワーク回路は簡素なコンデンサー1個だけによるHPF(ハイパスフィルタ)と抵抗器1個のアッテネーターというこれ以上無いシンプルな回路を採用した。・・・シンプルイズベストと主張していたが、実は設計をサボってしまったのだ。
第20報には完成した!と記したが、しばらく聴いていたら高音域のキャラクターが気になりだした。本当はリボントゥイーターの美しい高音域が特長のはずなのだがなんともやかましい音に聴こえてきた。
本報は番外編その2として28号機のデバイディングネットワークを設計した追加報告である。
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2. デバイディングネットワークの考察 |
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2-1 現状の分析 |
以前製作した24号機ではペーパーコーンウーハーを採用し、パワーアンプ直結のダイレクト接続方式で成功したが、そのスピーカーユニットは10cm径でフルレンジユニットに近い優秀な高音域レスポンスがあった。しかし、28号機のウーハーユニットWavecor WF152BD04は15cm径の強力なタイプのウーハー専用ユニットで高音域までの使用には問題がある。メーカーの仕様では推奨クロスオーバー周波数は3.5kHzとなっている。ウーハーユニットの周波数特性を見ると8kHz付近にコーンの分割振動によるものと思われる10dB以上のレスポンス上昇があり、これが高音域の再生音に影響していると見られる。
図1は28号機の現状のデバイディングネットワーク回路図であるが、トゥイーターユニットに4.0kHzで-3dBとなるHPFのコンデンザー(3.3μF:合成インピーダンスが8Ωでないことに注意)とアッテネーター(3.9Ω)がシリーズに接続されているだけでウーハーユニットはパワーアンプに直結である。確かに余計な回路の無いダイレクト接続はダイナミックで鮮度の高い再生音が得られる良さがあるのだが・・・。
周波数レスポンスのグラフは測定したわけではなくイメージとして見てもらいたいが、横軸が周波数で20Hzから20kHzを対数表示で示し、縦軸はdB表示のレスポンスである。水色のラインのウーハーレスポンスには8kHz付近にピークがあり、黄色のラインのトゥイーターレスポンスに対して大きく上昇している。これではせっかくのリボントゥイーターが10kHz以上でしか効果が無い。さらに問題なのはウーハーユニットの高音域が壮大にひずみを生じることである。だからやかましい音がするのだ。製作時には良い音だと感じていたのだが冷静な評価ができていなかった。
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2-2 6dB/octネットワーク回路 |
図2は6dB/octの特性を持つ基本的なデバイディングネットワーク回路である。-3dBクロスオーバー周波数fcは3.5kHzに設定してある。28号機はウーハーユニットにタンデムドライブ用のサブユニットが接続されているが、ここでは説明を簡単にするために省略した。
6dB/octのデバイディングネットワーク回路は図のようにコンデンサー1個とコイル1個のシンプルなものである。6dB/octとはオクターブつまり2倍または半分でレスポンスが6dB低下するという特性である。-3dBで50%に低下するので、ここをクロスオーバー周波数に設定すればウーハーとトゥイーターの総合特性はフラットになる算段だ。つまり、現状の回路にコイルを追加すれば良いのだ。ところが、以前の報告でも記したがこのコイルを使いたくなかった。2ウェイではファンダメンタル帯域を担当するウーハーユニットにシリーズに素子を入れたくなかったのである。
コンデンサーと比較するとコイルは問題のある部品だと考えている。コイルとは高音域においてインピーダンスが上昇するインダクタンスを得るために線材をループ状に巻いた部品だが、大きなインダクタンスとするためには線材を長く巻く必要があり、線材の直流抵抗が問題となる。この抵抗成分がウーハーユニットにシリーズに接続されるので、このような不要な帯域での抵抗挿入は避けたいのである。図2のL1素子計算値0.36mHは現実の製品には無いので近い値として0.39mHで調べてみると、空芯コイルで直流抵抗0.32Ωという製品がある。ウーハーユニットの8Ωに対してたったの4%ではあるが、スピーカーケーブルの太さやターミナルの金メッキを云々する世界でこの4%の影響は大きく、ダンピングファクターを低下させる要因となるだろう。だからダイナミック感が損なわれる・・・と判断して外してしまったのだが・・・問題であった。
コイルの直流抵抗を下げるには線材を太くすれば良いが、コイルがばかでかくなり実用的でない。そもそもすでにコイルは部品としては大きく、固定しにくい点も嫌いな部分である。直流抵抗を下げるには鉄芯のコア(透磁率の高い金属棒)を利用する方法もある。コアをコイルに挿入すると鉄芯入りの電磁石が強力になるように磁束が集中して効率が向上する。コアコイルは空芯コイルと比較してコンパクトであり固定も便利だが周波数特性にクセがあったりして良いことばかりではない。PARC AUDIOの製品にコアコイルがあり、L001-039という製品ではインダクタンス0.39mHで直流抵抗は0.13Ωである。今回はこのコイルを選択しよう。
デバイディングネットワークの回路は勉強するとなかなかに奥の深いもので、接続位相に関しては種々の考え方がある。電気回路的にはこのC1とL1の2素子の回路では同相接続が正しいようだが、逆相接続が行われていることも多い。これは現実のスピーカーシステムではウーハーとトゥイーターユニットは離れた位置に取り付けられており、クロスオーバー周波数の3.5kHzでは逆位相になる距離は5cm程度ときわめて短く、ボイスコイルのある位置も影響してくるので厳密な位相あわせは難しい。したがって実際は音を聴いて気持ちの良い方に合わせるといった感じである。その結果、逆位相が多いのだろう。
アッテネーターはR1、R2の2本の抵抗器により構成され、トゥイーターユニットの8Ωとの合成抵抗値が再び8Ωとなるように構成する。これはアッテネーターを変更してもデバイディングネットワークのフィルター周波数特性に影響を与えないためである。
トゥイーターユニットの能率は93dB/Wでウーハーユニットが88.5dB/Wなので-4.5dBの調整で整合するが、図の3.3Ωと10Ωの組み合わせで-4.8dBのアッテネーターになる。
今回はウーハーユニットの推奨仕様とトゥイーターFT7RPの推奨仕様からクロスオーバー周波数は3.5kHzに設計する。この6dB/octのデバイディングネットワーク回路では問題のウーハー特性の8kHzでは10dB程度しか遮断できない。もっとウーハーの高音域ひずみ成分を低減したいところである。
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2-3 12dB/octネットワーク回路 |
図2の回路にコンデンサーとコイルをさらに追加して図3のように構成した回路が12dB/octのデバイディングネットワーク回路である。トゥイーターユニットにコイルL1をウーハーユニットにコンデンサーC2をそれぞれ並列に追加して不要な帯域の信号をバイパスすることでオクターブあたりの遮断特性を2倍の12dBに向上した回路である。使用する素子数は増えてしまうが特性が良いので一般的な市販スピーカーシステムではこの回路の採用例が多い。
この12dB/octネットワーク回路では3.5kHzで-6dBの減衰量でクロスするので-3dBとなる遮断周波数は3.5kHzではない。-6dBクロスでは合成特性はフラットにならないが位相差もあるのであまり問題にしないようであり、接続位相は同相が多く用いられている。(電気回路的には同相接続ではクロスオーバー周波数でディップを生じる)
ウーハー側の8kHzの遮断特性は-20dB以上あり十分である。トゥイーター側も5kHz程度から十分なレスポンスがあり、リボントゥイーターのさわやかな高音域が期待できる。せっかくデバイディングネットワーク回路を搭載するのだから本格的にやりたい。今回はこの12dB/octネットワーク回路でいこう。
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3. 設計検討 |
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3-1 回路設計 |
実際の回路設計に当たっては考慮すべき点がある。28号機のウーハーユニットは2本あることだ。タンデムドライブ方式であるためエンクロージャ内部に第2のユニットFE103Enが搭載されている。これとウーハーユニットWF152BD04が並列に接続される。
それぞれのユニットのインピーダンスは8Ωで能率は89dB/Wと88.5dB/Wでほぼ同等である。動作としては外部からはWF152BD04だけが見えており、内部のFE103Enは高音域がマスクされ高音域の周波数特性に影響は与えない。このため低音域の強力な4Ωの能率88.5dB/Wの1つのウーハーユニットと見なせる。悩むところはこの2つのスピーカーユニットを電気回路的に並列接続された別々のウーハーユニットと見るか、4Ωの1つのウーハーユニットと見るかである。
図4の回路プランAは2つのスピーカーユニットそれぞれにLPFの回路を挿入したものである。スピーカーユニット側から見るとパワーアンプには独立に接続された方が電気的干渉も少なく良いだろうと考えたのだ。スピーカーユニットは発電器としても動作する。パワーアンプ側との間にインピーダンス素子が存在すると、この電圧がスピーカーユニット間で干渉するのだ。デバイディングネットワーク回路を独立することでパワーアンプの出力端は十分にインピーダンスが低いのでこの干渉電圧を吸収できるのである。
クロスオーバー周波数は3.5kHzに設定したが図3の計算定数と異なっている。これは現実に入手できる部品に合わせたためである。特にコイルの素子定数に制限が多く、トゥイーター側のコイルは0.39mH(売り切れ!)が0.33mHに、ウーハー側のコイルは0.68mH(これも売り切れ!!)が0.8mHに変更されている。この入手性の悪さも私がコイルという部品を嫌いな理由のひとつである。
先ほど接続位相がいい加減(感性に訴えると表現すべきか?)になることを記したが、この素子定数も正確に計算したところで入手部品に無ければ意味が無い。デバイディングネットワーク回路とは結構いい加減になってしまうものなのである。(複数の部品を組み合わせて調整する方法もあるがコストと実装スペースを考えると非現実的)
図5の回路プランBは2つのスピーカーユニットを1つのウーハーユニットと見なして構成した回路である。電気的な干渉は避けられないが、そもそも音響的にエンクロージャ内部の空気を介してこの2つのスピーカーユニットはつながっていると考えられる。むしろ一体のスピーカーユニットとして考えた方が良いのではないか?また、この回路の利点は同じクロスオーバー周波数3.5kHzでも並列に接続されたスピーカーユニットのインピーダンスが4Ωになるのでコイルの素子定数が半分になる点である。つまり、コイルの直流抵抗も低減できる。(もっともユニットインピーダンスとの割合は大きくはなるが・・・)
なお、ネットワーク回路に用いる部品はPARC AUDIOのコアコイルの他にDayton製のメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサーとネットワーク用Jantzen酸金皮膜抵抗器を用意した。アッテネーターの抵抗器R1、R2には3.3Ωと10Ωを用いて-4.8dBとするが、高音域がきつかった場合に-6dBにも設定できるように3.9Ωと8.2Ωも用意した。ネットワーク回路の部品リストを以下に示す。
回路プランA
L1 0.33mH X2 (PARC AUDIO L001-033) 0.12 Ω
L2,L3 0.8mH X4 (PARC AUDIO L001-080) 0.19 Ω
C1 3.0uF X2 (dayton day-3.00)
C2,C3 5.1uF X4 (dayton day-5.10)
回路プランB変更部品
L2 0.33mH X2 (PARC AUDIO L001-033) 0.12 Ω
C2 10uF X2 (dayton day-10.0)
ATT -4.8dB
R1 3.3Ω X2 (Jantzen 3.30Ω)
R2 10Ω X2 (Jantzen 10.0Ω)
ATT -6dB
R1 3.9Ω X2 (Jantzen 3.90Ω)
R2 8.2Ω X2 (Jantzen 8.20Ω)
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3-2 構造設計 |
設計したデバイディングネットワーク回路を実装するにはかなりのスペースが必要である。回路プランAでは1台にコイル3個、コンデンサー3個、抵抗器2本を組み込まなければならない。コンパクトな28号機の内部にそんな余裕はない。そこで、図6に示すようにリアパネルの背部全面にネットワークパネルを追加して部品を搭載することにした。
ネットワークパネルの厚さは22mmあるので改造した28号機の奥行きは227mm(スピーカーユニットフレーム、ターミナル、ネットワーク部品除く)となる。28号機は3個のスピーカーユニットからそれぞれ独立してターミナルを出してあるのでリアパネルから結線できる。LEGOで製作するネットワークパネルにはリアパネルから出る6個のターミナルを避けるように穴を設け、最大8個のデバイディングネットワーク部品を固定する端子と固定穴を穴あきパネルブロックで造る。固定にはM4のボルト&ナットを用いて重いコアコイルをしっかりと固定できるようにした。ネットワーク部品が音圧で振動すると異音を生じる問題があるのだ。ボルト&ナットによる固定は部品の交換や回路変更を容易に行えるので実験、研究に最適である。パワーアンプとの接続はネットワークパネル下部に新たに設けた接続用のターミナルで行う。ネットワークパネルの裏面には部品だけを搭載して部品間の配線はリアパネルとネットワークパネルの内側で行った。
図4の回路プランAの実装図が図7である。ただでさえ部品点数の多い12dB/octネットワーク回路にさらにサブユニットの部品もあるのでネットワークパネルいっぱいに8個の部品が搭載される。PARC AUDIOのコアコイルは四角いケースにモールドされており、2本のボルトで固定できて便利である。コイル同士はできるだけ離して、さらに90度に配置して搭載すべきであるがこの配置が限界だ。各部品のリード線にはM4端子を付けておいて簡単に固定できるようにした。
ネットワークパネルの内側には配線を行うが、この配線は容易には変更できないので回路プランBと共通である。回路の接点数と内部配線が長くなってしまう点は気にしない。
図8が図5の回路プランBの実装図である。コイルとコンデンサーが1個づつ減り、ウーハーユニットとサブユニットのターミナル間をジャンパーケーブルで結ぶ。回路図からわかるようにトゥイーター側の部品に変更は無い。
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4. 製作作業 |
組み立てたネットワークパネルと用意したネットワーク部品を写真2に示す。
ネットワークパネルの裏面(背側)には接続点となるM4ボルトが10箇所付いている。このボルトは配線とともにナットでパネルに固定されており部品の端子を接続してからさらにナットで固定する。他に6個のM4ボルトがありコイルの固定に使用する。6箇所の角穴からリアパネルのターミナルを貫通する。
表面は内部配線がされており、薄い空間に収まるように取り付けを工夫した。6本のY型ラグ端子ケーブルでリアパネルのターミナルに結線する。
搭載部品のリード線にはM4端子を圧着してさらにハンダ固定してある。ショートしないようにリード線にエンパイアチューブをかぶせ、圧着端子は熱収縮チューブで処理してある。細かいことだが信頼性に差が出るのである。
28号機本体にネットワークパネルを取り付ける(写真3)。リアパネルのターミナルにY型ラグ端子を結線してからネットワーク部品を取り付ける(写真4)。
部品が固定されると壮観である。電力機器の配電盤みたいだ(写真5)。
回路プランAにて製作(改造)の完了した28号機(写真6、写真7)。今回は改造作業なのであっという間に出来上がった。それでは試聴しよう。
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5. 試聴と調整 |
・・・あまりの変化に愕然とした。音が死んでしまったようだ。やかましさは無くなったが、低音域の迫力が無くなりダイナミックな力強さも無くなった。まるでミニスピーカーのような音だ。これはどうしたことか?・・・検証の実験は行っていないが、おそらくタンデムドライブの2つのユニットを独立して動作させてはいけないのではないかと感じた。サイズも種類も異なるこの2つのスピーカーユニットのインピーダンスは同じ8Ωだが、ボイスコイルのインダクタンスも発音動作に伴う動的なインピーダンス変化もそれぞれ異なり、ここに独立してネットワーク回路のLPFが接続されると位相が変化し、同相で動作しなくなるのではないかと想像した。その結果、低音域が逆に低下したのではないだろうか?
早速、回路プランBの登場である(写真1参照)。今度は正しく動作しているようだ。低音域のダイナミズムが復活した。これならばダイレクト接続にも遜色ない。高音域は大変な改善である。リボン(正しくはプリントコイル)トゥイーターの美しさが感じられる。やっと本領発揮である。
タンデムドライブではメインのウーハーユニットと内部のサブユニットが協調して、あたかもひとつの強力ウーハーユニットのように動作する必要があるのだろう。独立駆動は大失敗であった。
アッテネーターを-6dBに変更するテストもしたが、これはもったいない。-4.8dBで十分である。ネットワークパネルには汎用性を持たせてネットワーク定数の変更実験や回路研究も行う予定であったのだが、回路ブランBで十分に満足できる結果となった。
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6. まとめ |
LEGOスピーカーでこれほどの音が出せるとは!・・・我ながら感無量である。
「5th Anniversary」にふさわしい美音。ダイナミックでパワフルな低音域と繊細で美しい高音域が一体となっている。これが私の望んだ音。これまで5年間かけて求めてきた音なのである。(←相変わらず自画自賛)
デバイディングネットワークの追加によって28号機は完成した。今度こそ本当の完成だ。回路プランAは失敗であったが、これも勉強になった。この失敗の克服こそが楽しみなのかもしれない。不満は解決するためにあるのだ。
そう・・・技術も、手法も、あるんだよ。
(2012.6.24)

試聴中の28号機(改)