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LEGO SPEAKER 第22報 ≪番外編その2 番外編その3≫ |
LEGOスピーカーの製作 第22報

名状しがたい異形のパワードPCスピーカー 30号機
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1. はじめに |
ステレオサウンド誌の「Digi Fi」という書籍にパソコンとUSB接続のみで機能するデジタルアンプ基板が付属するという。・・・パワーアンプをUSB駆動? たしかにデジタルパワーアンプの効率はきわめて高い。前回の29号機でも実感したことだ。しかし、USBポートの最大供給電力は規格では5V、500mAである。つまりたったの2.5Wだ。(ただし電源供給の無いUSBハブで4分割すると1ポートは最大100mA)
これが真空管アンプの出力であれば2.5Wでも安心できる。高電圧と十分にパワーのある電源から実用的なひずみレベルでスピーカーを駆動できる範囲が2.5Wということだからだ。ところがこのデジタルアンプにはたったの2.5Wしか電源電力が供給されない。しかもステレオなので、方チャンネルでは1.25Wである。これで本当に使い物になるのだろうか?
だが・・・こういったガジェットが大好きなのだ。・・・わたし、気になります。
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2. パワードPCスピーカー構想 |
入手した「Digi Fi」7号にはW64×H38×D93mmという小さなサイズの基板が付属していた。さっそく、27号機に接続して試してみる(写真2)。27号機は超コンパクトだがタンデムドライブ方式でスピーカーユニットが2本並列接続されておりインピーダンスが4Ωと低い。こういったコンパクトスピーカーは大型システムと比較して能率が低いのでむしろパワーアンプ泣かせだ。だから駆動のしにくい27号機でテストするのだ。・・・結果は、意外にというか十分な音量でドライブしてしまう。このデジタルアンプはたいしたものである。これは製作意欲がかきたてられる・・・さて、30号機はどんなシステムにしようか? せっかくUSB接続だけで動くのだから複雑な大型スピーカーは似合わない。シンプルなパソコン用パワードスピーカーにまとめてみよう。
ところで、このデジタルアンプはどうなっているのか? Olasonicという製造メーカのブランドがあるこの基板には、USBコネクタとスピーカーターミナルの他にIC回路、それにコイルとコンデンサから成るローパスフィルタが載っている。ローパスフィルタが4組あることからこの回路がBTL方式であることが解る。ひときわ目立つのは16V 6800μFの電解コンデンサである。資料によると2.5Wの供給電力をこのコンデンサに蓄えて瞬時にはチャンネルあたり10Wもの出力が出せるとのことである。
パワードPCスピーカーの利用シーンを想定してみる。音のクオリティだけを考えればあえてUSB電力で駆動する必要はないだろう。このアンプはノートパソコンなどに気軽に接続してBGM用に利用するのが最適だ。発熱のほとんど無いデジタルアンプなのでスピーカーエンクロージャに内蔵させ、できれば左右チャンネルのスピーカーシステムも一体型にしたい。BGM用の場合、スピーカーの正面で聴くとは限らないので、左右のスピーカーユニットを一体にすることで定位が安定し、リスニングポイントによらずに音楽を楽しむことができるだろう。スピーカーユニットには5cmクラスの超小型フルレンジユニットを選び、できるだけコンパクトにまとめたい。
心配されるのはステレオの広がり感の低下と低音不足であるが、これは左右2本のスピーカーユニットを背面上方に90度の角度で取り付けて、反射音を有効に利用することでステレオ感を得る音場型システムとして対応しよう。小径ユニットの直接音を避けることで中高音域のふくらみを抑え、低音不足を補う考えだ。エンクロージャにはアンプ基板も内蔵するので内容積はより少なくなるが、シンプルなバスレフ方式としても2本のスピーカーユニットが協力してバスレフダクトを駆動することで駆動力の向上を期待したい。
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3. 構造設計 |
図1に30号機の構造図を示す。この図からは形状が想像しにくいが四角柱の2面に90度の角度で5cmフルレンジユニットが装着されたバスレフ方式のエンクロージャで、下面は階段状になっており、エンクロージャは約45度の角度で前方に傾斜して設置される。
トップパネルが前面となり、こちらがリスナー方向で2本のスピーカーユニットは正面からは見えない背面上方に配置された音場型システムである。エンクロージャ内部にはデジタルアンプ基板が内蔵されるが、できるだけ小型にするために固定は簡単なスポンジによる押し込み固定とする。
29号機ではアンプ部の筐体を分けたが本機はバスレフ方式で若干の放熱も期待できるので内蔵に問題は無いだろう。アンプ基板にはUSBケーブルがつながるが、これは容易にバスレフダクトから引き出してしまう。USBコネクタをエンクロージャに付けることが困難だからだ。吸音材は活性炭が一袋でいっぱいだろう。小型のエンクロージャではダンプのためにも吸音材が必要である。
スピーカーユニットには5cmフルレンジの新作PARC Audio DCU-F071Wを選択した。ウッドコーンの高性能ユニットである。ゴールド色のフェイズプラグもカッコ良くマグネットはネオジウムでコンパクトなところも利点。インピーダンスは4Ωで音量確保には有利だがアンプ基板の仕様上も問題ないだろう。スピーカーユニットのfoは160Hzである。
設計したエンクロージャのサイズはW158mm、H136mm、D190mmで実効的な内容積は0.5リットル程度と推定される。バスレフダクト長はブロック7段の7cmで、計算したバスレフ周波数は約130Hz である。実際はもう少し高くなると思うがスピーカーユニットのfoが160Hz なので欲張ってもしかたない。このサイズでは低音域の伸びは150Hz程度が限界だろう。参考にブロック段ごとの構造図を図2に示す。
<30号機 基本仕様>
・方式:5cmフルレンジパワードスピーカーシステム(左右一体音場型)
・組立方法:バーチカルタイプ(垂直組立)
・エンクロージャ方式:バスレフ
・使用ユニット:PARC Audio DCU-F071W(ウッドコーン)
・外形寸法:W158mm H136mm D190mm
・内容積:約0.5リットル
・ダクト長:70mm
・ダクト共振周波数:約130Hz
・吸音材:活性炭1個
デジタルアンプ部
・形式:Olasonic製USB・DAC付きデジタルアンプ基板
・最大出力:10W+10W(8Ω BTL接続)
・電源:5V USBパワー
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4. デザイン検討 |
23号機の製作(第15報)で利用したLEGOの基本ブロックパッケージを今回も用いる。机上で使用するパソコン用スピーカーなのでデザインにもこだわりたい。本機はポップなデザインシリーズ第2弾なのだ。
第15報でも記したが、この基本パッケージには9色のブロックが入っているが、それぞれの種類と個数が異なることが問題だ。青と黄が一番多く、次に赤と白が多く、緑、黄緑、オレンジ、茶はあまり入っていない。細かいパーツが多くてスピーカー製作には向いていないパッケージだ。大き目のパーツのみを使用して製作するには3箱は必要である。(黒はトップパネルにのみ使うのでパッケージのブロックは使用しない)
さらに、トップパネルを造るプレートブロックとパネルブロックが必要になるが、これは別途用意した。
各色ブロックの数量割合から色彩デザインの検討を行った結果を図3、図4に示す。センスの問われるところだが私はパターンHを選んでみた。このデザイン性もLEGOスピーカー製作の楽しみの一つである。
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5. 部品解説 |
写真3に30号機の全構成部品を示す。コンパクトモデルで左右一体型なので部品が少ないが、アンプ基板がパワードスピーカーであることを主張している。
個々の部品を説明しよう。写真4が今回のメインパーツ、デジタルアンプ基板である。こんなに小さいのに10W+10WのパワーアンプでUSB電力のみで動作するDAコンバータ付きパワーアンプ基板だ。その優れた実力が今回の企画となった。
スピーカーユニットPARC Audio DCU-F071Wを写真5に示す。PARC Audioお得意のウッドコーンでの最小ユニット5cmフルレンジである。ネオジウムのマグネットはコンパクトで内容積を圧迫しない。フレームはプラスチックだがフランジが円形で困難な取り付け作業を助けてくれる。今回は5cmユニットで軽量なので固定はボルト&ナットではなく容易な3mmタッピングネジを用いる。また、端子にはスピーカーケーブルをあらかじめハンダ付けしてある。5cmなので低音再生能力が心配だが良質なゴムエッジは振動版のストローク性能に期待が持てる。
メインフレームを写真6、写真7に示す。赤、茶、オレンジ、黄、黄緑、緑の6色のカラフルなブロックで造ったフレームで、90度の2面にスピーカーユニットを固定する窓があり、この4隅にタッピングネジ固定用の下穴をキリで開けたのが今回唯一のブロック加工である。
ベースフレームを写真8、写真9に示す。青と白のブロックで造られた複雑な階段形状の部品である。上部の16mm×16mmの四角い穴がバスレフダクトで70mmの長さである。
本機ではバスレフの効果は少ないと考えられるのでシビアなダクト長の調整は行わないでも良いだろう。複雑な形状であるが、小型であり十分な量のブロックを使用しているので強度は高い。5cmユニットとはいえエンクロージャ内の音圧エネルギーはバカにできないのだ。ベースが弱いと異音などのトラブルの元になる。
トップパネル(写真10)は黒のプレートブロックで造ったフタである。ピンクのパネルブロックでアクセントを付けた。写真11に30号機のエンブレムを示す。
その他の部品を写真12に示す。USBケーブルは本来、電源ケーブルでもあるので太いほうが望ましいが、USBコネクタが意外にかさばるので細型タイプを選んだ。この方がバスレフダクトへの影響も少ないだろう。なお、USBコネクタのBタイプ側は小型なので16mm×16mmのバスレフダクトを通すことができる。
吸音材はいつもの活性炭1袋、他に3mmタッピングネジと基板固定用のスポンジシートを用意した。
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6. 製作過程 |
まず、メインフレームにスピーカーユニットをタッピングネジで固定する(写真13)。小型の5cmユニットなのでタッピングネジで簡単に固定できた(写真14)。LEGOブロックは強度の高いABS樹脂で粘りがあるので割れずにタップが利くのである。内部はスピーカーユニット同士が干渉しない配置とした(写真15)。
アンプ基板をスポンジシートで包む(写真16)。テストの結果、発熱は全くと言って良いほど無かったが、いちおう回路部分は包まないようにする。スポンジで固定するのは基板の一部がエンクロージャやスピーカーユニットに触れると異音が生じるからである。
メインフレームに基板を挿入する(写真17)。狭い内部は基板とスポンジでいっぱいである。スピーカーからのケーブルを基板のターミナルに接続する。スピーカーユニットの左右を間違えないように接続するが、本機はスピーカーユニット側を正面にすると左右が反転してしまうので使えない。
メインフレームとベースフレームを組み合わせる(写真18)。このとき、バスレフダクトを基板固定のスポンジが塞がない様に注意する。一体になると全体の異様な外観が見えてくる(写真19)。
USBケーブルを基板に接続し、吸音材を前面に挿入する(写真20)。USBケーブルは吸音材をまたぐ形で配線してUSBケーブルが引っ張られても基板に直接力がかからないようにする(写真21)。前方の内部は吸音材でいっぱいであるが、このエンクロージャで最も弱いトップパネルをダンプする効果がある。
トップパネルを取り付ける(写真22)。完成した30号機は異彩を放っている(写真23)。
30号機を四方から見る(写真24~写真29)。どこから見ても異様な形状である。オブジェとしてのインパクトはあるが・・・。
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7. 試聴 |
実際の使用時には黒いトップパネルを正面に向けるので外観はあまり気にならない。音はどうか?・・・あれ?音が出ない??? トラブル発生である。写真17を良く見るとわかるのだがスピーカーケーブルがきちんとターミナルに接続できていない。初歩的な組立てミスだが、簡単に分解できるLEGOなので修正は容易であった。
・・・音量は十分である。本機には音量調整機能が無いので、パソコンの音量をあらかじめ下げておく点に注意が必要である。何台かのパソコンのUSBポートに接続してみたが問題なく認識され正常に動作した。このあたりの使いやすさも、まるっ!
予想通り定位感は抜群でどこに置いても違和感無く聴く事ができる。音場感、ステレオ感は設置環境にもよるが、少し離れて聴くと広がりが感じられる。低音域は豊かではないがバスレフの効果は出ており、BGM用としては十分に楽しめる。このサイズではこれ以上の低音の再生は特別なテクニック無しでは無理だ。むしろ5cmユニットとしては高音域がきつくなくバランスが良い。スピーカーユニットを背面に設置したおかげである。
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8. まとめ |
30号機の使用風景を写真30に示す。実際は黒いトップパネルを正面に向ける。
パソコンとUSBケーブルで接続するだけで簡単に良い音が聴ける。この手軽さが本機の最大の魅力である。リスニングルームのノートパソコンにつないでみたり、作業用のデスクトップPCで音楽再生に使ったり、と役に立つ楽しいスピーカーができた。音楽だけでなく起動音やエラーメッセージもクリアな良い音になった。
もちろん、この原稿も音楽を聴きながら書いている。そのパソコン自身で鳴らしながら・・・。良いBGMがあれば原稿執筆もはかどるはず?・・・なので。
(2012.9.18)

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