キット屋コラム
プリアンプの効果

 皆さん、こんにちは。今回はプリアンプの効果について考えてみたいと思います。

先週簡易プリメイン型についてご説明しましたが、ポイントは簡易プリメインについているボリュームは音量を上げるための機構ではなく、アンプに入力される電圧を絞って適正ゲインに調節するための"アッテネータ"であるということなのです。つまり簡易プリメインアンプのボリュームは開放(全開)が1:1の関係であり、通常は大幅に絞った状態であることを意味します。

常時ボリュームを絞った状態で音楽を聴くということは即ち信号系に抵抗が直列的に存在することと同義です。試しに通常のパワーアンプ(ボリュームのない直結タイプ)の入力部に電圧制限用(ゲイン調整用)の抵抗を挿入すると、抵抗値が大きくなればなるほど再生音が曇り、真空管ならではの音の質感が損なわれることを経験された方もいらっしゃるかもしれません。これと同じことが簡易プリメインでも起こっていると理解頂くと分かりやすいと思います。

 別の実験方法としてプリ+メインのセパレート構成で使用する場合、同じ音量でプリアンプのボリュームを全開にしてパワーアンプ側で適正音量(ゲイン)を得る場合と、パワーアンプ側を全開にしてプリアンプ側でゲイン調整するのを比較してみると、明らかに前者の方が音の勢い(闊達さ)が損なわれることに気付きます。これは入力部にボリュームが介在することでパワーアンプからみたプリアンプの見かけ上の出力インピーダンスが上がってしまい、カットオフ周波数が下がり高域の周波数特性が劣化することからも説明が可能です。

 例えばCDを音源として考えた場合、信号は16ビットで記録されています。1ビットの分解能は1/65536であり、最大出力の2Vに対して僅か30μVに過ぎません。この微小電圧の変化を如何に正しくスピーカーまで送り届けるかがパワーアンプの使命であり、入力信号の劣化を極力抑えアンプの持つ音質を生かす使い方が望ましいと考えます。つまりプリアンプの使命は如何にパワーアンプを理想に近い状態で使うかということに帰結するとも言えるのです。

 私どもでも試聴室や展示会のデモでも簡易プリメインアンプをよく使います。その場合は必ずパワーアンプのボリュームを開放してプリアンプ側で音量調整を行っています。これはアンプの音質的魅力を最大限に引き出す為の手段であり、電気的にも非常に有効です。

まずは簡易プリメインで真空管アンプの持つ音質の素直さ、倍音の豊かさを十分に味わって頂いたあと、次はプリアンプを追加してみて下さい。それまでの単独使用では聴くことが出来なかった音の瑞々しさや音場(空気感)の淀みない拡がり、また広大なダイナミックレンジ(抑揚感)を満喫頂けることと思います。ぜひお試し頂ければ幸いです。

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