キット屋コラム
真空管の寿命とメインテナンス

 皆さん、こんにちは。今回は真空管の寿命とメインテナンスついて考えてみたいと思います。

真空管の寿命には大きく二つの捉え方があります。一つめは物理的(機械的)破壊です。本来高真空であるべき管内に空気が混入する、フィラメント(ヒーター)が断線する、管内の電極が短絡するケースなどです。この場合は音そのものが出なかったり、再生音に明らかな異常が生じるので、交換時期を明示的に知ることが出来ます。

分かり難いのは二つめのケースで、外見上は全く異常がないのに片チャンネルの音が著しく小さい、歪っぽい、ノイズが混入するなどの場合です。では真空管の寿命というのはどのくらいなのでしょうか。

 一般的には「増幅度が30%低下するまでの時間」が真空管の寿命と言われています。言い替えればボリューム位置が同じなのに再生音が以前と比べて明らかに小さくなるような場合です。真空管は構造的にフィラメント(カソード)からプレートに向かい熱電子を放出することで増幅動作を行っています。この熱電子の総量は製造時に決定されている訳で、極めて長い時間その熱電子を放出し続ける訳ですが、その時間には諸説あり、数千時間と包括的に言う場合もあれば、整流管1000~2000時間,出力管5000時間,電圧増幅管10000時間等と言う場合もありますが、それ以上に真空管の寿命はそれぞれの真空管の動作条件によって大きく異なります。

 全ての真空管には必ず「最大定格」があります。動作上の電圧,電流の上限と言い替えることも出来ますが、その定格に対してどれだけの余裕度をもった設計を行うかが真空管の寿命を決定づける大きな要因であることは言うまでもありません。車のエンジンと同様で十分にアイドリングし適切な回転数を維持するのと、起動後すぐにレッドゾーンに振り込むような使い方では大きく寿命が変わるのと同じと同じです。つまり適切な余裕度を考慮しつつ、それぞれの真空管の特徴を音質的に引き出したアンプこそが良いアンプと言える訳です。

 電気的な意味での真空管の健康度は、各真空管のプレート電流を測定することで客観的に知ることが可能です。ただ回路的に通暁されている方は僅かですし、内部に非常な高電圧が発生している真空管アンプの内部をご自身で測定するのはお奨め出来ることではありません。

下の写真をご覧ください。

この球に限らず殆どの球には「ゲッタ」と呼ばれる鏡状(あるいは黒色)の塗布物を確認することが出来ます。上の写真ではベース(ガラスの下の金属)部分の左上にありますが、真空管の種類によっては管頂部にゲッタがあるもの、側壁部にあるものさまざまです。
ごく初期の真空管にはゲッタレスのものがありますし、一部には透明のゲッタもありますから全ての真空管で共通ではありませんが、私たちが一般的にオーディオ用に使う真空管では基本的にゲッタがあると考えて差支えありません。

 ゲッタは管内に微量に生ずる不活性ガスを吸着し、真空度を維持するために塗布されています。そして経時的に少しずつゲッタ自体が減っていきます。数年間に亘り真空管を使っているとだんだんとゲッタの輪郭部分が薄くなっていき、やがて面積自体が減少していきますが、いずれゲッタが消失した球はその後、真空度を維持することが困難であり、仮に音が正常であったとしても交換時期が近づいていることを示唆しています。

電圧増幅管は10年以上使ってもゲッタが殆ど減らないものも多いですし、整流管の場合はゲッタが十分残っていても整流出力電圧が低下することもありますので、ゲッタの残存量=真空管の健康度と一概に断ずることは出来ませんが、特に出力管においては有効で便利な目安と言うことが出来ます。常時これを確認する必要はありませんが、年に一度程度のチェックは有効です。

 なお真空管のメインテナンスについては時々カラ拭きする程度で十分ですが、製造されて数十年(以上)経過している真空管ではピン部分に酸化皮膜を生成し、導通不良となる場合があります。真空管自体の寿命も然ることながら、電気的にベストな状態で使うためにはピンの定期的なクリーニングをお奨めします。

注意したいのは浸透性の高い接点復活材やケミカル類を絶対に使わないことです。これらを使用することにより電極間の絶縁部分に薬剤が浸潤し、最悪の場合各電極が短絡を起こしてアンプの破壊を招く可能性もあるからです。またヤスリなどでピン表面を削るのも長期的に錆を惹起する可能性がありますのでご注意下さい。最も安全で効果が期待できるのは無水アルコール等で丁寧に表面の汚れを拭き取ることです。同時にソケット側も薬局などで販売されている太めの歯間ブラシなどで清掃すると良いと思います。

 適切に設計されたアンプを家庭でお使いになるケースであれば真空管は長寿命です。定期的な外観の確認と清掃を行って最良の状態で真空管アンプをご愛用頂きたいと思います。

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