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LEGO SPEAKER 第3報 ≪第2報 第4報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第3報

コンパクト・スパイラルホーン (9号機)
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1.理想のエンクロージャ方式 |
理想のエンクロージャ方式
とは? どういうものであろうか?
前提はフルレンジ1発の点音源型スピーカーシステムとして考えてみたい。
高域と定位は使用するスピーカーユニットの性質と外形デザインでほとんど決定されるので、エンクロージャの方式で重要なのは低域の処理である。
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1-1 バスレフ型 |
バスレフは小型のスピーカーを製作する場合には効果的な選択と言える。容積とポートの空気の質量による共鳴だから小型化できる。低音の増強効果も高い。実際7号機、8号機で採用しており、評価できる。しかし、共鳴独特の付帯音があり、低音も遅れる。ポートの噴出し音もあり、理想とは思えない。
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1-2 密閉型 |
ユニットからのダイレクトの音が聴ける。共鳴現象を伴わないので特定の周波数の増強が無い。ユニットへの背圧の付加によって耐入力が上がるなどのメリットがあるが、実際はエンクロージャ自体が強力な背圧で振動して低音の放射体となるようである。だから6号機では意外なほど低音が出ている。コンクリートなどでガチガチに作れば別であろうが、そんなことをしたらユニットにすべての背圧がかかって歪んでしかたないだろう。結局、密閉型はエンクロージャを楽器のように響かせて鳴らすシステムだと理解している。このため独特の低音色があり、個人的にはベストとは思えない。
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1-3 共鳴管型 |
4号機として私がメインシステムに採用している方式である。
気柱共鳴なのでバスレフよりも低音の遅れ感が無い。TQWT(Tapered Quarter Wave Tube)方式なので、4分のλで共振する。100Hzで管長85cmとコンパクトにできるのもメリットである。しかし、開口部からの高域の漏れで独特の洞窟音がある。やはり共鳴方式なので特定の周波数が増強される。3次共鳴(85cmで300Hz)も問題。など、これも ベストとは思えない。
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1-4 バックロードホーン型 |
実は、バックロードホーンがBESTであると思っていた。背圧を有効に利用して低域の能率を改善する。ホーンは本来、小口径大振幅と大口径小振幅の変換器であるが、小型ユニットの低域での空振りをホーン開口部の空気の大面積振幅に変換して改善し、能率を向上する。実にうまい方式である。ところが、実際に製作してみるといろいろ問題がわかってくる。効率を高めるにはアルペンホルンのような直管が最高であろうが、そんなものでは共鳴管動作が強烈に出てしまい問題だろう。第一、長すぎて部屋に置けない。したがって、折り曲げたフォールデットホーンとなるが、これが効率を低下させ、また、折り曲げ部の音響インピーダンス不整合から反射が起こり独特のホーン歪が発生する。2号機では4段のフォールディングでしかも180度なので、かなり効率低下を招いている。
共鳴管としての動作も問題である。ホーン部は両端開放なので2分のλで共鳴してしまう。 100cmで170Hzである。この付近の共鳴はいやなので、100Hzまで下げようとすると1.7m必要になる。このため大型になることが避けられない・・・。
しかし、やっぱりバックロードホーンの音は気に入っている。
なにより低音が(立ち上がりが)早い。2号機は使用したユニット(FOSTEX FE-108EΣ)の効果が大きいが、きわめてパワフルで聴いていて楽しい。このバックロードホーンの問題を解決できれば、それが私にとって理想ではないか?
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1-5 スパイラルホーン型 |
そこで、スパイラルホーンである。 以前からとても注目していた方式である。螺旋階段のようなホーンを用いれば、
・音道がスムーズで効率が良い
・コンパクトに長い音道を構成できる
・構造強度を高められる
・音道の長さが中心付近と周辺付近でかなり差が出るので共鳴管動作が緩和される
理想的デザインはサザエのような巻貝構造である。 ところが、スパイラルホーンにはとんでもない欠点がある。
・造れない・・・
独特の方法で実現した例や、海外メーカーで樹脂成型の製品はあるが恐ろしく高価である。 でも、いい音するんだろうなあ。あこがれていた・・・。
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2.スパイラルホーンの設計 |
私にはLEGOがある。LEGOならば複雑なスパイラルホーンが造れるのではないか? 早速検討してみよう。
スパイラルホーンにはピッチ一定のコンスタントピッチ(と呼ぶことにする)と外形一定のコンスタントパイプ(と呼ぶことにする)があるが、理想はこのハイブリッドである。 まずはコンスタントピッチで考えてみる。
バックロードホーンとしては、教科書と今までの経験から、
・スロート面積は16X16mmとする
・開口部面積はこの20倍程度とする
・音道長は最低でも1m以上は欲しい
あまり急激にホーン形状を広げると、低域で適切なホーンロードがかからない。ホーンは内部の空気を固体として動作させる必要がある(感覚的にはトコロテンのような押し出しが必要、バネ動作はいけない)、このため、ある程度のホーン容積が必要で音道が長くなる。ヘッドユニットには8cmスピーカーを用いてコンパクトに設計する。小型化こそ設計者魂が燃えるのである(本当は大型システムを製作する予算が・・・)。
以上から検討図を描いて見る。図1は7段のボックス構造で90度回転しながら降りていく構造である。・・・なんだこりゃ?! こんなのぜんぜんスパイラルじゃあない。音響迷路にはなるだろうが、音響インピーダンスの不整合がありまくりである。・・・ボツ!。
DNAのような螺旋構造を造りたい。普通ならば頭の中で3DCGよろしく完成形がイメージできるのであるが、今回は無理だ。複雑すぎる。しかたないので、実際にLEGOで遊んで(組んで)見ることにした。
4X4サイズのプレートで螺旋階段を組んでみた。写真2、Aは9枚で一周。ピッチ26mm、中心の音道110mm、断面積368mm2(外壁で囲うので音道部分は16mmX23mm)。Bは13枚で一周。ピッチ40mm、音道168mm、断面積576mm2。Cは17枚で一周。ピッチ53mm、音道245mm、断面積800mm2となる。1段目にA、2段目にB、3段目にCを用いて、4段目はCのピッチでプレートを4X6に広げれば音道309mm、 断面積1600mm2に、5段目は4X8のプレートで音道434mm、断面積2400mm2にできる。いけそうだ。図2にホーン部分の検討図を示す。
この設計ならば比較的滑らかな音道が構成できる。トータル長も1200mm以上ある。ブロックはホーン部分だけで1300個以上(2台分)使用することになる。
木製では実現できないLEGOならではの複雑な構造体である。
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3.製作 |
分割して製作できるように設計したので製作も比較的容易である。
いつも思うが、LEGOスピーカーは本当に製作が楽しい。まあ、遊んでるようなものであるから当然か? 手も汚れないし、木屑や塗料で部屋を汚すこともない。完成後の調整も容易で、すぐに鳴らして実用に耐える。工具で怪我の危険も無い(腱鞘炎になる可能性はあるが・・・ううっ手が痛い!)。
完成した1段目を写真3に示す。同様に2段目~5段目を写真4~7に示す。
左右で螺旋方向を変えてある。
1台分のホーン部分構成部品を写真8に、組み立て後を写真9に示す。
ヘッドユニットはどうするか?
本来は使用するスピーカーユニットはQtsやmoといったスペックで選択すべきだが、私はルックスで選んでいる。カッコいいユニットを使ってみたいのである。
実は、当初、使用ユニットにはPARC Audioの8cmウッドコーン、DCU-F101Wを考えていた。が、実際に装着したところ、このユニットはとてもコンプライアンスが高く、あまりホーンシステムと相性が良くなかった。そこで、急遽、8号機からチタンコーンTB (TangBand) W3-1231SHを外してきて用いることにした。ヘッドユニットを標準化しといて良かったなあ。
ただし、ホーンシステムに用いる場合、吸音材は不要である。吸音材はバスレフや密閉型などの背圧を処理しなければならない方式では必須であるが、背圧を有効利用するホーンシステムではせっかくのエネルギーを殺してしまうので、吸音材はいらない。ただ、内面64mmのキューブ形状では2~3kHzで定在波が生じる恐れがあるので、私は紅茶(のティーバッグ)を用いている。今回は高級なアールグレイを選択してみた。とても良い香りがする。上品な音になるといいな。(写真10)
完成した9号機、コンパクト・スパイラルホーンの外観を写真11、12に示す。
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4.試聴 |
音はどうか?・・・試聴を忘れて夜中まで楽しんでしまった。 音を文字で表現することは困難である。 第一印象は・・・すごい音ではなかった。大型スピーカーに負けないすごい音ではない。 でも、よく聴きこむと、低域が極めて自然である。バスレフのようなクセもなく、共鳴管のような特定周波数の増強感もない。ちゃんとバックロードホーンの早い低音が出ている。 だが、とても自然。 やはりスパイラルホーンはいい。私のLEGOスピーカーの中でも8cmユニットと、このコンパクトデザインを考えれば最高だと評価したい。 今後はスパイラルホーンに注力することになりそうである。
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5. おわりに |