LEGO SPEAKER 第5報

≪第4報 第6報≫

LEGOスピーカーの製作 第5報

写真1 スモール・スパイラル11号機シリーズ)
写真1
スモール・スパイラル11号機シリーズ)

1. 10号機の反省

 10号機は失敗作であった。周到な計画を行い、コストもかけた。ガウディを彷彿とさせるアバンギャルドなデザインも前衛的と考えていた・・・残念な結果である。

 音にスパイラルホーンの力が無い。密閉型のような鳴り方をする。8cmユニットが力不足なのかと考え、10cmペーパーコーンのTB W4-930SGに乗せ変えてみた(写真2)。しかし、傾向は変わらなかった。低音は伸びている。でも、なぜか楽しい音がしないのである。この失敗の理由はなにか?

(1) サイズが大きすぎた。

小型とは言えない中途半端なサイズになってしまった。大型にするには2号機や4号機のようなフロア型にすべきであり、スピーカースタンドの高さが合わず、適切なセッティングができないのも問題である。

(2) 構造強度の問題

10号機はこれまでと異なり積み上げ工法(以後バーティカルタイプと呼ぶ)ではなく、貼り合わせ工法(以後ホリゾンタルタイプ)とした。ところが、この構造で大型のエンクロージャを作ると大きな面積のフタ構造が必要となり、LEGOではこの部分の強度が取れない。柔軟なピース接合は内部損失面では有利であるが、大面積の薄板ではフニャフニャになってしまうのである。このため、壮大に箱鳴りが生じ密閉型のようなボン付いた低音が乗ってしまうのである。

(3) なめらかでないホーンカーブ

本来、巻貝のような、なめらかなホーンを形作りたかったのであるが、出来上がった構造は急激に断面積が広がる理想とは程遠いものであった。そもそも、このホリゾンタルタイプでは内部の仕切りのブロックが薄板のプレートではなく、16mmの厚板(方向)となるので効率が悪い。こんなに大きな図体なのに4ターンしかできず、平均音道長も1m程度。

だが、最大の問題は・・・

(4) かっこよくない

サザエをモチーフにしたのがまずかった。サザエが美しいはずがない(サザエファンの方、すみません)。スピーカーにとってデザインは最も大切な要素であり、リスニング中にずっと視界に入るので見た目のかっこよさは大変重要なのである。

生物デザインをコンセプトに設計した10号機であったが、散々な結果である。しかし、この失敗も貴重な経験となった。やはりスモールサイズで行こう。
LEGOならではの、LEGOでしかできないコンセプトを検討することにした。

写真2 10cmユニットに置換した10号機
写真2
10cmユニットに置換した10号機

2. スモール・スパイラルホーンの検討

 前報の最後に5号機の改造結果を報告した。簡単な螺旋構造を筒構造に挿入して簡易的に共鳴管をスパイラルホーン化したのであるが、これが大成功であった。スパイラル構造の初代、9号機は複雑な階段構造を有し、製作が困難であったが簡易構造ならば簡単にスパイラルホーンを作ることができる。この方法を応用して11号機はLEGOで簡単に製作できるスパイラルホーンスピーカーを作ることにした。 まずはテストモデルである。

2-1 テストモデルの試作

 5号機の改造では互い違いのブロック構造を挿入(前報、写真26参照)したので、空間が2分割されダブルスパイラルホーンとなったが、この方法では内容積の半分が無駄になってしまう。フロア型の5号機では良かったが11号機は小型化したいのでプレートピースで螺旋階段を作り、筒に仕込むことにした。

 ロケットみたいだが、3段階のサイズの筒を作り、それぞれ3ターン、4ターン、1ターンの螺旋を挿入する。写真3に示すが、2段目の第4ターンはピッチを広げてある。

 この構造で平均音道長は1m程度になる。1段目の組立の様子を写真4に、2段目、3段目を写真5、6に示す。完成したテストモデルを写真7に示す。ヘッドユニットには8号機からPARC Audio DCU-F101Wを持ってきた。

写真3 螺旋構造
写真3
螺旋構造
写真4 1段目の組立
写真4
1段目の組立
写真5 2段目の組立
写真5
2段目の組立
写真6 3段目の組立
写真6
3段目の組立
写真7 完成したテストモデル
写真7
完成したテストモデル

2-2 試聴

 うん。スパイラルホーンの音がちゃんとしている。・・・が、ちょっと低音感が足りない。効率が良くないようである。低音のスピード感も物足りない。どうも、このサイズで音道1mは欲張りすぎたようである。スパイラルといえども8ターンでは気流抵抗が大きくなり効率が低下してしまう。さらに、細長すぎてトップヘビーで安定が悪い。すぐに倒れそうである。これは問題だ(写真7の後ろに写っているトールボーイのフロア型に比べればずっと短いが、フロア型はボトムにウエイトを付加して転倒対策している)。

 ところで、音道の1mというのはバックロードホーンで必要な長さから設定したものであった。バックロードホーンでは共鳴管動作が比較的顕著に出るので、あまり短いと中域に増強が生じて問題となる。スパイラルホーンでは共鳴は少ないと考えられるので、もっとショートホーンでも良いのではないだろうか?

3. 11号機 スモール・スパイラルホーン

11号機はスパイラルの小型化を目指そう。目標は小型バスレフとして設計した8号機のディメンジョンである。個人的にこのサイズが気に入っている。これ以上小さくてもかっこ悪いのである。

3-1 製作

 設計した11号機の構成部品を写真8に示す。8号機にくらべて1ブロック高くなってしまったが、ほぼ同一サイズで3段階、6ターンの螺旋構造を持つ。2段目の筒は正方形ではなく長方形である。これは螺旋容積を増やす工夫である。写真9は1段目の筒と3ターン螺旋構造。写真10は2段目2ターン、写真11は3段目、ベース部分1ターン、音道長は60cm程度。ベース部分は写真12のように屋根を付けて前面のホーン開口につながる。

 完成したボディ部分を写真13に示す。内部の螺旋構造を壊さないように組み立てるのはなかなか難しい。螺旋構造の固定はベース部分と上端だけなので、内部で踊る可能性があるが直接音圧のかかるところではないので問題ないだろう(ブロックのテンションで固定される)。8号機から持ってきたDIY AUDIO SA/F80AMGのヘッドユニットを付けて11号機の完成(写真14、正確には8号機を分解してそのパーツで製作した)。

写真8 11号機構成パーツ
写真8
11号機構成パーツ
写真9 1段目の組立
写真9
1段目の組立
写真10 2段目の組立 
写真10
2段目の組立
写真11 ベース部分の組立
写真11
ベース部分の組立
写真12 ホーン開口部分
写真12
ホーン開口部分
写真13 ボディの完成
写真13
ボディの完成
写真14 スモール・スパイラル11号機
写真14
スモール・スパイラル11号機

3-2 試聴

 音はどうか?・・・。これはいい。とてもキレの良い、早い低音が鳴る。もともと低音が豊かなユニットであるが、ショートホーンは遅れがなく実にアタックが効く。小型で製作も容易だし(コツはあるが)、コストも比較的安い。これは大成功だと自画自賛してしまった。

 コンパクトで設置もしやすい。しやすいから理想的なセッティングができる。このあたりもスモールスピーカーの美点である。もちろん、大型スピーカーに低音のスケールではかなうわけはないが、大型には不得意なキレが気持ちよいのである(写真15)。

写真15 11号機(タイプA)外観 小型でインテリアにも最適?
写真15
11号機(タイプA)外観
小型でインテリアにも最適?

3-3
考察

 11号機を聴くと、こんなに小型のショートホーンで開口も8cmユニットの実効面積の2倍程度しかないのに低音の増強効果があることに感心する。9号機からスパイラルホーンとして10号機、5号機改造、テストモデルと製作してみていろいろとわかってきた。 スパイラルホーンでは・・・

(1)ショートホーンでも効果がある

小型のユニットでは駆動力に限界があるので、ショートホーンの方が効率良いよう である。先に書いたように長くする必要もないのではないか。ただし、短すぎると ダンプドバスレフの構造に近づくと考えられる。

(2)開口面積は大きくしなくても良い

ホーンは小面積大振幅と大面積小振幅のトランスデューサーであるが、スパイラル ホーンでは開口面積をホーンピッチが支配すると考えられる。つまり、ピッチと断 面積からなる体積の増加が開口率であり、ピッチを増加すれば開口面積は小さくて も良い。極端な例としてはコンスタントパイプ(第3報参照)ではピッチのみ増加してホーン効果を得ることができる。

(3)中心軸は無いほうが良い

どのように表現したら適切かわからないが、9号機のスパイラル構造には中心軸が あった。平均音道長を稼ぐために中心をつぶしたのであるが、このため共鳴管動作 が生じ、いわゆる洞窟音が乗ってしまった。ショートホーンで良いのだから、中心 も利用して断面積を稼ぐべきである。

11号機の完成により、8号機を廃止機種とした。第2報をごらんになって8号機を製作された方がいたらごめんなさい。多少の部品の追加で11号機にアップグレードできるからゆるして。(今回は図面省略、写真を参考にされたい)

4. 11号機シリーズ

 調子にのって11号機を量産してしまった。

 写真15のDIY AUDIO SA/F80AMGを使ったモデルがタイプA、解体したテストモデルから持ってきたPARC Audio DCU-F101Wを使ったタイプB(写真16)、ペーパーコーンの木製フェイズイコライザー付きユニットTB W3-517SBを用いたタイプC(写真17)、10号機から外したVifaのTG9FD-10-04を装着したタイプD(写真18)である。

 同じエンクロージャなのに、それぞれにずいぶんと音が違っていて、とてもおもしろい。

(1) タイプA

低音に定評のユニットだけに豊かでハイスピードの低域が気持ちよい。
大入力にも破綻が少なく、ロングストロークユニットなのに優秀である。
高域にマグネシウムのコーン音が乗るので、ここがキャラクターになり、好みが分かれるところか。

(2) タイプB

ウッドコーンの音質が好ましい。8cmとは思えないロングストロークで小音量時の低音感が良いが、大音量では破綻しやすいのが残念。フェイズプラグの効果で高域も良く伸びている。コーンが重いせいか能率は低い。

(3) タイプC

ペーパーコーンのユニットを使って見たくて、変わり者のこれを選んだが軽いペーパーコーンの良さがでて、能率高く、意外とハイスピードの低音が聴ける。
フェイズイコライザーの効果か高域もうるさくない。自然な感じで聴きやすいスピーカーになった。

(4) タイプD

これが一押し。グラスファイバーコーンはクセがなく、とても自然。軽いコーンはハイスピードで抜群のキレ。こんなに早い低音は聴いたことがない。まさに軽低音。
ドラムのアタックなどは実に鮮烈。このスピーカーでしか聴けない音があるように思う。意外なくらい大音量にも対応する。しばらくはメインスピーカーに君臨しそうである。

写真16 11号機タイプB
写真16
11号機タイプB
写真17 11号機タイプC
写真17
11号機タイプC
写真18 11号機タイプD
写真18
11号機タイプD

5. 今回のおまけ

 じつは6号機(正確には6号機改)を使ってなかった。LEGOで実験的に作った密閉型システムである。隙間のあるLEGOでは密閉型はできないと思っていたが、活性炭吸音材の導入により内部音圧を下げることで実現したものであった。しかし、どうも吸音材は音を殺すような気がしている。聴いていて楽しいスピーカーではなかった。

 6号機を見ていて、スパイラル化したくなってきた。この構造なら簡単にコンスタントパイプにできる。写真19に示す螺旋構造を仕込んで再度改造した。1ピッチ目は6ターン、2ピッチ目は3ターン、3ピッチ目は1.5ターンの3ピッチ構造である。

 ヘッドユニットも改造した。ホーンシステムではユニットに背圧がかからないと前に記したが、現実はホーンを駆動するのに圧力が必要なはずで、ヘッドユニットの強度が重要と思う。写真20に示すように内側を2重構造にして密閉性と強度を高めた。肝心の内部容積が減ってしまうが利点のほうが多い。この2重化補強は11号機のヘッドユニットでも採用している。細かいノウハウが必要なのである。

 試聴・・・(写真21)。思えば大型のスパイラルホーンは初めてである。

これはまたいい。やはり10cmユニットのフロア型は余裕が違う。ホーンが長いので低域のキレは劣るが量感がある。11号機と違った方向で楽しめるスピーカーになった。
以後BGM用として作業中に鳴り続けている。

 話題のパイオニアの復刻ユニットを注文した。どう使おうか?10号機を解体すれば 5,000ピースが利用できる。アイデアは尽きない・・・。

写真19 6号機再改造用パーツ
写真19
6号機再改造用パーツ
写真20 ヘッドユニットの補強
写真20
ヘッドユニットの補強
写真21 新6号機(右端、外観に変わりは無い)
写真21
新6号機
(右端、外観に変わりは無い)

6. 次報

次回は、12号機をご紹介します。お楽しみに!

12号機
12号機

第4報LEGOスピーカーの製作第6報

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