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LEGO SPEAKER 第9報 ≪第8報 第10報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第9報

LEGOスピーカー 17号機「ダックス」(JSP方式)
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1. リファレンスモデルを作ろう! |
ここのところ、ミニサイズのモデルばかりを製作していた。ミニサイズは面白いのだが、音質的には物足りないことも確かである。考えてみればLEGOの造形性を活かして特殊なものに挑戦してきた。もっとベーシックな基本モデルも一度作っておこう。今後の研究にも活用できるリファレンスモデル16号機の作成である。
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1-1 設計仕様 |
フルレンジの基本と言えば10cmである。これをコンパクトな箱に入れ、バスレフシステムを構築する。さらにいつものスパイラルピースを挿入してスパイラルド・バスレフとする。スパイラルド・バスレフの実験機である13号機(第6報)を解体して再利用しよう。スピーカーユニットはペーパーコーンのTang Band W4-930SGである。ナチュラルな音質とネオジウムの強力マグネットが気に入っている。
エンクロージャの外形寸法はどうするか?・・・実は私のもっとも好きなコンパクトスピーカーはALR/ジョーダンのEntry Sなのである。このサイズ(w130mm H215mm D175mm)を参考にする。リアバスレフとして背面からポート長の調整を容易にしよう。組立方式はポートが水平方向なのでホリゾンタルタイプとする。
しかし、ただの箱ではつまらない。LEGOで造るメリットを活かしたい。
LEGOでは自由な外観造形だけでなく、内部の構造補強も自由にできる。今回は徹底的に縦横に構造補強して強固な箱を作ってみよう。10号機の失敗と12号機の実績で強固な箱が音質に重要であることは分かっている。構造補強で内容積は減ってしまうが、強度優先である。
<16号機 基本仕様>
・方式:10cmフルレンジ スパイラルド・バスレフ
・組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
・バスレフ方式:リアバスレフ ポート長調整可
・使用ユニット:Tang Band W4-930SG (ペーパーコーン)
・外形寸法:W128mm H224mm D140mm
・ポート寸法:32X32mm 133mm(最終調整値)
・吸音材:活性炭2個
・内容積概算:約1.5リットル(内寸96x192x120mm 内構造物を30%とした)
・ポート周波数:110Hz(バスレフとした参考値)
ポートの周波数計算にはBachagi.hさんの密閉/バスレフ型エンクロージャ設計プログラムを使用した。いつも設計計算ではお世話になっている。
この計算結果は110Hzと高いが、これは最終調整状態での単純バスレフとしたときの周波数であって、スパイラルピースを挿入した状態でのポートの周波数は不明である。
外形はEntry Sと比較して少し奥行きが小さいが、バランスは良い。実際はLEGOブロックのピッチ8mmと長さ約1cmで決まってしまい、幅16ピッチ、高さ28ピッチ、奥行き14段ということである。奥行きが140mmでポート長133mmというのは?であるが、これはポートが背面から33mm突き出した構造だからである。ポートを短く(最短100mm)することも可能な構造なのである。
では製作に入ろう。
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1-2 製作過程 |
例によって写真を見ながら解説する。
写真2は16号機の全部品である。青い枠状のパーツが補強構造で、3段(3cm)の厚さで、左右と上下とをバスレフポートを中心に強固に繋いでいる。今回の主要パーツである。これを前後の黒い枠パーツでサンドして120mmの箱構造ができる。
黄色いパーツはバスレフポート。内部に8段、青いバックパネルに1段の計9段(最終的には10段の10cm)のポートで、これに延長ポート(バックパネルの青部分)が付加される。スパイラルピースは赤いパーツで均等ピッチ4.5ターン(最終的には不均等ピッチに変更される)。
スピーカーユニットの部分は13号機の流用である。さらに、ターミナルパネルとフロントパネルがある。黄色い小物パーツはパネルの補強柱である。
組立その1(写真3)、補強枠に後ろの枠パーツとポート部品、補強柱をつける。赤いパーツはスパイラルピースの固定用である。
組立その2(写真4)、ターミナルパネルを付ける。パネルの厚さは3.3mmのLEGOプレート3枚重ねで1cm、穴あきプレートで端子を固定した。
バックパネルの取り付け(写真5)。ポート端にはプレートを付けてポートの補強をするが、このためポート長が+3.3mmになる。
スパイラルピースの挿入(写真6)。この長さだと引っかかって意外に難しい。フロントパネルに、メンテナンス用のタブを付けよう。
前枠の取り付け(写真7)。なんか色がガン○ムみたいだが手持ちのLEGOブロックを活用したためで色分けではない。補強の効果でとても強固な箱になった。12号機もガチガチの強固であったが、大きさの割には内容積が少なく、全部プレートブロックで造ったので大変コストがかかってしまった。今回は比較的簡単で安価である。
吸音材を挿入する(写真8)。今回は2袋入れてみた。内容積の20%くらいか?このぐらいがちょうど良いだろう。スピーカーユニット部の取り付け(写真9)。この部品は13号機の構造そのままである。実は元は12号機なのであるが、この構造から今回もホリゾンタルタイプにした。フロントパネルを取り付けて完成(写真10)。オーディオテクニカのインシュレータを奢った。ブルーのワンポイントデザインである(実は余り部品が青だった 写真11)。
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1-3 試聴と調整 |
まずは、いったんスパイラルピースを外して単純バスレフとして試聴。追加2段のポート長11cmではじめたが、ちょっとバスレフの癖がきつい。やはりポート周波数が高すぎかな?・・・伸ばしてみる。延長は極めて容易である。アンプに接続したままで、ブロックを1段づつ追加しては試聴。8段、全長17cmくらいがバスレフとしては効果的か?
先の計算プログラムでは約100Hzである。もっと伸ばしたいところだが、さすがに背面の出っ張りが長すぎる。単純バスレフとしてはもっと細くすべきだろう。もともとスパイラル用に太くしてあるのである。感覚的にはポートの周波数は高めにしたほうが効果的で、100Hzくらいで低音感がある。これより低くすると本当の低音が増強されるはずであるが、効率の低下とスピーカーユニットからの直接放射音域との中抜けが生じ、かえって低音感が損なわれる。やりすぎは禁物である。
では次に赤いスパイス、スパイラルピースの挿入である。もちろん、ポートの調整ではスパイラルも同時に延長する。ちょっと面倒である(写真12)。
再度試聴。このくらいのサイズのシステムは本当に使いやすい(写真13)。
これまでまったくの無調整で完成したシステムは12号機しかない。スピーカーユニットの置換は行ったが、エンクロージャを強固に造りすぎて調整が不可能だったのである。やはり完成度の向上には調整が必須。調整をやり易くすることも大切である。
スパイラルド・バスレフ化した16号機は・・・やはり良い。低音が引き締まってスピード感が出てきた。好みや聴く音楽の種類にもよると思うが、私は単純バスレフの量感よりもスパイラルのスピード感が良いと感じる。
調整を行おう。同様にポートの長さを変えながら低音に特徴のある課題曲を再生する。夜中に同じ曲ばかり何度も大音量で再生していたから、さぞかし近所迷惑だったろう。
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1-4 調整結果と比較試聴 |
最終的な調整結果はポート長13段(13.3mm)。スパイラルピースはこの長さでは均等ピッチでは負荷が強すぎて効率低下したので、不均等ピッチの2.5ターンとした。また、背面の延長ポートを短くするために内部ポートを1段増やして10段に改造し、延長は3段となった。改良後のメンテナンス状態を写真14に示す。ピースも青のイメージカラーに戻した(赤はシャア専用で落ち着かない)。
ベストモデルEntry Sと比較試聴してみる(写真15)。もちろん試聴時には同じスタンドに置き直している。
ntry Sはこんなに小さいのにアルミのメタルコーンウーハーが強力で背面のバスレフポートからガンガン低音が吹き出して来る。高域も繊細で大変きれい。コンパクトボディのおかげで定位が大変良く、ステレオイメージがビシッと決まる。不思議とリスニングポジションにとらわれず、どこで聴いても良い音である。コンパクトシステムではまさに一押しのモデルである。これよりも大きな市販システムをいくつも聴いたが、低音の量感、質とも群を抜いてすばらしい。・・・と、宣伝はこのくらいにしておいて、比較である。
Entry Sの低音再現は量感たっぷりで腹に来る低音のアタックが魅力だが、やはり私にはバスレフの音がする。ポートに付属のウレタンを差し込んでバスレフをダンプすると、バスレフの癖は抑えられるが、低音増強効果も低減するので痛し痒しである。
16号機に繋ぎ変えて見る。ボリューム位置そのままで明らかに音量増加。フルレンジは能率が高い。というよりは2ウェイではトゥイーターにアッテネーションして効率を落とし、ウーハーの低域を延ばすのが常套手段なので能率が低い。このトゥイーターのアッテネーションが元凶で鮮度が低下するのではと考えているが、この点ではEntry Sは優秀である。トゥイーター追加による高域の伸びを取るか、フルレンジのダイレクト感を取るかであるが、自作派はやっぱりフルレンジだろう。
一聴して表現がまったく違う。16号機ではフルレンジならではの、中域重視の明るいサウンドである。もちろん定位も抜群。しかし、低域は量感では完敗。スピード感で勝負であるが、一般的にはEntry Sだろうなあ。私の作るLEGOスピーカーは概して低音が出ない。スピード感を重視して量感が犠牲になっているのである。うーん、良質な低音再生の道は険しい・・・。
ではどちらが私の好みかと言うと、16号機の方である。聴いていて楽しい。製作者のバイアスもあるが、聴いていて楽しいことが最も大切なのである。
研究用のリファレンスシステム16号機であるが、最近はこれでずっと聴いている。
バランスのとれた、サイズ的にも使いやすいシステムができた。ニックネームはどうするか?・・・良いものが浮かばないので名無しである。わりと意志が弱いのである。

16号機リスニング風景
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2. コアキシャル・バスレフ |
PARC Audioのウッドコーン8cmフルレンジDCU-F101Wが使いこなせない。10cmのDCU-F121Wは共鳴管方式の4号機に載せて一時期メインシステムとして使用していた。だから8cmのウッドコーンにも期待したのだが、どうもうまく使えない。スモールスパイラルホーンの11号機に載せたが(第5報)あまり良い結果ではなかった。スパイラルド・バスレフの第2実験機にも載せたが芳しくない(第7報)。なんとかこのスピーカーユニットを使いこなせないものだろうか?造りも大変よくカッコ良いのだが・・・。どういった箱に入れると良いのだろうか?思案していた。
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2-1 JSP方式 |
SUNVALLEY AUDIO 大橋さんの日記を見ていて、T田さんという方が自作されたシステムを紹介されていた。JSP方式というバスレフシステムであった。私は一目で「これだ!」と思った。動作の詳細はJSPさんのホームページにあるので参考にされたい。
このコアキシャル・バスレフと呼べる(勝手に呼ばせていただきました)デザインに感銘を受けたのである。
いつもバスレフシステムを造る場合、ポートの取り付け位置で悩む。ポートから低音域やエンクロージャ内の高域も漏れ出すので、スピーカーユニットの直接放射音と干渉して影響を与えると考えられる。これを減らそうと背面にポートをもってくるのだが、音が2ヶ所から放出されることに変わりは無く、干渉は避けられないだろう。これでは本当の意味でのフルレンジではない。もっともこの問題はバスレフシステムだけでなく、バックロードホーンも共鳴管も、密閉型でさえもエンクロージャ放射があるから避けられない問題なのである。本当のフルレンジシステムは困難と考えていた。
バスレフのポートをエアウーハーと考え、スピーカーユニットの周囲にシンメトリカルに配置したJSP方式はこの問題を解決する一手段なのではないか?もちろん、ポートの近接配置で直接放射音との干渉はさらに大きくなると考えられるが、これが同軸状であることがポイントである。
よーし、この方式のバスレフシステムをLEGOで作ってみよう。スパイラルではなく強力に効かせた量感たっぷりのバスレフシステムでウッドコーンの起死回生である。
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2-2 設計仕様 |
JSPさんの設計によれば十分な内容積と長いエンクロージャが必要である。しかし、LEGOで大きな箱を作ることはコストからも強度からも望ましくない。今回はアレンジさせていただいて、コンパクトに造ろう。同軸配置のシンメトリックデザインが重要である。
基本仕様を以下の様に設定した。(記載は最終調整値である)
<17号機 基本仕様>
・方式:8cmフルレンジ JSP方式バスレフ
・組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
・バスレフ方式:フロント コアキシャル・バスレフ (ポート、全長調整可)
・使用ユニット:PARC Audio DCU-F101W (ウッドコーン)
・外形寸法:W128mm H128mm D260mm
・ポート寸法:16X16mm 220mm 4本
・吸音材:活性炭3個
・内容積概算:約1.8リットル(内寸96x96x240mm 内構造物を20%とした)
・ポート周波数:80Hz(4本)
ポート周波数の計算にはJSPさんの計算プログラムを使用した。
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2-3 製作過程 |
LEGOでスピーカーシステムを造る場合、最も苦労するのはスピーカーユニットの固定である。木のバッフル板に好きに穴を開けるのと違い、LEGOにはブロックの基本サイズがあり、これに合わせなければならない。はめ込み方向では1ピッチが8mm、積み上げ方向では1段が1cm(正確には9.6mm)である。ネジ固定にはLEGOの穴あきパーツを用いるが、これもあまり種類はない。また、手持ちに在庫があるのかも重要になってくる。いつも製作はカット&トライのパズルの様である。だからこそパズルが解けたときが楽しいのである。最終手段としてはブロックの加工や穴あけ作業があるが、強度が低下するので、できるだけこれはやりたくない。
今回は、穴あきプレートの穴を3mmネジ用にリーマーで広げただけで、うまくパズルが解けた。このスピーカーユニットの様にフランジが大きいとやり易い。写真17にフロントベゼルを示すが、3段3cmの構造体はスピーカーユニットのマグネットが入る枠構造でネジ止め用の穴あきプレートが4箇所付いている。2ピッチ(16mm)角形の4つのバスレフポートは4隅にあり、ぎりぎりのサイズである。一部大きなフランジに塞がれるが、まあ良しとしよう。
17号機の構成部品を写真18に示す。たったこれだけ?である。本機はバスレフポートが4本あるだけでスパイラルピースも無く、シンプルそのものである。
写真19はスピーカーユニット部である。シンメトリックなデザイン。M3ネジとダブルナットでスピーカーユニットを強固に固定した。マグネットが大きいのでぎりぎりの装着である。この部分の厚さは3段でポート長も3cm。
写真20はターミナル部。後方に延長調整する算段なので、ちょっとカッコ悪いがターミナルは横出しである。この部分の厚みは7段、ここまでがバスレフポートとなるので、計10段、10cmのポート長でまずは作成した。
リアフレームとバックパネル(写真21)。組み合わせて、ただのマス構造になる。フレームは10段なので、システムトータル全長は21cmの予定。この17号機では4本のポートの動作が均等になることが重要なので正方形としたが、この部分での内部定在波が心配である。LEGOは表面がツルツルなのでポート作成には有利だが、エンクロージャ内部で盛大に定在波が立つだろう。定在波は34cmで1kHzだから9.6cmの内面で約3.5kHzになる。いやな周波数だなあ。最もうるさく感じる帯域である。吸音が必要になるだろう。
組立その1、マスを造る(写真22)。とりあえず、吸音材はバックパネルに1個両面テープで固定した(写真23)。
スピーカーユニット部とターミナル部の組立(写真24)。前後を組み合わせて完成(写真25)。とりあえず内部定在波防止に紅茶をぶら下げてみた。
足となるウレタンシールを貼って完成(写真26)。
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2-4 試聴と調整 |
キュービックなデザインがなかなかカッコ良い。早速試聴してみよう(写真27)。
・・・ギャボッ! なんというひどい音。大失敗である。低音がぶよぶよでしまりが無く歪っぽい。ユニットもバタついている。これはどうしたことか?・・・JSPさんの計算プログラムでポートの周波数を求めてみると124Hz。ポートを短くしすぎたか。まあ、長くする予定だったので調整しよう(ちゃんと計算してから造らなかったことを反省)。
どこまで伸ばすか?・・・使っているスピーカースタンドの長さから5cm伸ばして全長26cmとする。こんなことで決めて良いのか?・・・良いのだ。セッティングは重要である。あまり長くすると構造強度が不安だしポートの効率も落ちるだろう。ポートはこの全長でぎりぎり伸ばして22cmにした。
高域も予想したとおりやかましい。内部定在波対策には吸音材の活性炭を中心に2袋入れよう。壁面にフェルトを貼るよりもはるかに効果的なはずだ。この吸音材の固定と、延長したポートの振動防止のためにステーを設けた。計算上のポート周波数は約80Hzになる。
ああ、LEGOで造っといて良かったなあ。改造も極めて容易だ(写真28)。
再度、試聴(写真29)。うん。これは良い。マトモな音になった。というか8cmユニットとは思えない低音がガンガン出てくる。確かにJSP方式は低音再生に有利であると確認できた。もっと長くしたらさらに低音域が延びるのか?・・・まあやりすぎは止めておこう。現状でも十分である。それにしてもポートのチューニングでこれほど激変するとは驚いた。うるさかった高域も吸音材の付加で大変エレガントになった。ウッドコーンの優しさが出てきた。心配していたポートと直接放射音との干渉であるが、あまり感じない。コアキシャルデザインのメリットが活きてエアウーハーとの一体感が出ている。このためかバスレフ音も抑えられているように感じる。予想したとおり定位が大変良い。トゥイーターのようなシャープな定位ではないが、自然にステレオイメージが広がる。これは良いシステムになった。ニックネームは「ダックス」に決定。

16号機と「ダックス」外観
JSP方式のおかげで念願であった8cmウッドコーンを有効に活用することができた。
先輩方に学べ、である。
スピーカーの自作はビルダーのみなさんがそれぞれ工夫されていて大変興味深い。私のLEGOスピーカーも一員になれたら幸いである。