キット屋コラム
真空管の個性(三極管編)

 皆さん、こんにちは。先週,先々週と二週続けて書きました真空管アンプの個性についてご参考になりましたでしょうか。

今週,来週は更に深堀りして三極管,多極管それぞれの代表的真空管の音質と個性について書かせて頂きます。今週は三極管です。

 最初に「300B」です。三極管といえば300Bというほど広く知られ、かつては米WE(ウエスタン・エレクトリック)300B流通量の少なさ、価格の高さから高嶺の花ともいえる存在であった訳ですが、1990年頃から中国などで300Bが量産されるようになって価格的にもお求め易くなり、一気に300Bの人気が高まりました。


音質的には中高域の粒立ちが極めて細やかで繊細感があり、中低域にかけて量感(ふくらみ)のある聴き易い音質であるのが特徴です。言い替えれば”最も真空管らしい音質”といえるのが300Bとも言えましょう。出力はシングルで7~8W,PPで15W~20W程度です。

 次に「2A3」です。300Bの陰に隠れてややマイナーな感もある2A3ですが300Bが一般化する前、特に自作派の方には2A3アンプを作るのが目標という方も多かった歴史ある真空管です。音質的には300Bと共通する繊細さを基調をしながらもやや陰翳感のある表現で、落ち着いた音色という面では非常に守備範囲が広い真空管です。
出力はシングルで3.5W前後,PPで8W~15W程度ですが、最近プレート損失を上げた新種の2A3も出てきており、シングルで5W以上取れるものも出てきておりますので、今後更に注目されていくでしょう。

 上記2種類が三極管の代表格ですが、その他に忘れてならないのが845,211です。この球は一般に「送信管」と呼ばれ、元々は送信機の出力部に使用されていました。300Bなど一般的三極管とは動作条件が大きく異なり、1kV前後の高電圧で動作させる球から”いつかは845(211)”という特に自作派にとっては憧れの真空管です。
先日のヴォイシングチャートを再度ご参照頂いてもお分かり頂けますが、これら送信管は300B,2A3と音質を異にしており、特に高域の輝かしさ,抜けの良さが非常に特徴的である一方、低域はやや締まっており、大型スピーカーなども緩みなく制動することが出来ます。
845と211を比較してみますと、845の方が音の輪郭(エッジ)が明確でクリアな音質であるのに対し、211はやや円やかで一般的三極管の表現に近似しています。
出力は845でシングル15W~30W,PPで30W~70W程度、211は845の70%程度です。

その他にも様々な三極管がありますが、まずこの4種類を押さえておけば三極管の音の基本的な理解としては十分です。次週は多極管についてご説明致します。

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