キット屋コラム
フルレンジスピーカー(1)

 皆さん、こんにちは。今回からスピーカーについて数回に分けて考えてみたいと思います。最初に「フルレンジスピーカー」から考察してみましょう。

 フルレンジスピーカーとは基本的に一つのユニットで全帯域をカバーする目的で使用されるタイプのユニットを言います。ただ一般に人間の可聴帯域を十分にカバーできる帯域を確保することが出来ないものも多く、ユニットによって実周波数特性は様々です。従って真空管アンプでフルレンジユニットを鳴らすということはそれぞれの個性を踏まえつつ、いかにその個性を引き立たせるかという使い方が望まれることとなります。

 もし帯域を拡げたければマルチウェイ化(ツイーターやウーハー等を追加)することで音響的には可能ですが、それによって逆にフルレンジユニットの個性を減じることもありますし、帯域分割を行う「LCネットワーク」の設計も別途必要となります。また帯域分割数(ユニット数)が増えるに従って、音源が分散されることから結果として適正な音像,音場再生が難しくなる側面もあります。

 フルレンジにも幾つかの形状的分類ができます。最も多いのは文字通り「シングルコーン」型ですが、その他にも「ダブルコーン」(メカニカル2ウェイ)もあります。

最も知られているシングルコーンタイプです。口径数cm~20cm程度まで数多くのバリエーションがあり、比較的廉価で入手できます。

これが一般的なダブルコーンです。一枚の振動板を大小2枚の組み合わせとして高域の補償を行っています。

 フルレンジスピーカーの魅力は、ストレートな音色であることが挙げられます。帯域的には制限がある代わりに音色的な生々しさ、色付けのなさ(高感度さ)をフルレンジの最大の魅力とする方が多いことから現代においても多くのフルレンジ愛好家がいらっしゃいます。真空管アンプの持ち味を楽しむなら、まずフルレンジから、という方も数多くいらっしゃいます。ひとことで言うなら鮮度感が高く、素直な音であると言えるのがフルレンジユニットです。

 次に魅力として忘れてはいけないのが定位の良さです。発音源が一つであることからソースによって定位が上下したり散らばったりすることが少ないのはフルレンジユニットの大きな特徴といえると思います。また形式ゆえにエンクロージャーを含めたスピーカーの物理的サイズの自由度が高く、ブックシェルフサイズで十分実用になるものも多く存在します。マルチウェイ化することによってエンクロージャーの設計も難しくなることから自作派にとってフルレンジユニットは大変魅力ある存在といえましょう。密閉型,バスレフ型,バックロード型,後面開放型,平面バッフル型・・・と様々な形式のエンクロージャーで音楽を楽しめるもフルレンジならでは、といえます。

 その他、一体型の2ウェイで「同軸」型と呼ばれるタイプもあります。同軸型は必ずLCネットワークが必要となりますが、2つの発音源が一つのフレームに収められていることからこれをフルレンジスピーカーに分類する場合もあります。

写真では分かりにくいですがセンターキャップの内側にドライバー/ホーンが内蔵されています。構造が複雑であることから高価でハイグレードなスピーカーシステムに使用されることが多い形式です。

 次回はフルレンジのコーン(振動板)形状,コーン材質による違いを検証してみたいと思います。

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