キット屋コラム
スピーカーエンクロージャー(1)

 皆さん、こんにちは。前回,前々回とフルレンジスピーカーの概要について書きましたが、今回はスピーカーユニットを収める「エンクロージャー」(スピーカーボックス)について考えてみたいと思います。

 スピーカーユニットは単独で使用出来るものは殆どなく、基本的に何らかのエンクロージャーに入れることを前提に設計されています。何故ならばスピーカーユニットはコーン紙が前後に動くことで空気を振動させて音を出している為に、前面だけでなく背面(裏側)からも音が出ており、コーン紙の表と裏では空気の粗密、つまり空気の押し引きが反対(逆相)になります。表側と裏側を隔てる仕切りがないと低い周波数では表側の音と裏側の音が混ざり合い打ち消してしまいます。結果、低音の出ない高音だけの、スピーカーユニットの持っている能力を発揮していない事になります。これでは正しいスピーカーの動作とはなりませんので、その逆相音を遮断して低域から高域までリニアに再生することがエンクロージャーの基本的な役割となります。

 その一方でエンクロージャーは単純に背面から放射される逆相音を遮断するだけでなく、エンクロージャー内で発生する「背圧」(コーン紙が前後に振動することで発生するエンクロージャー内の気圧変化)を積極的に利用して特に低域の再生能力を高める為の様々な形式のものが存在しますので、併せてご紹介したいと思います。

 最初は「平面バッフル」です。これは最も基本的な形式のエンクロージャーで、表側と裏側の音を隔てる為に大きな一枚の板にスピーカーユニットを装着する方式です。完全に逆相音を遮断する事は出来ませんが、板のサイズを大きくすることで十分な実用性を確保することが可能です。また裏側の音が自由に出る(背圧がかからない)ことで、ユニットそのものの音(個性)を引き出しやすく、ハイスピードな音が得られることが魅力です。物理的にバッフルサイズが大きいほど低域再生能力も向上するため、大型ユニットを使用する場合はかなり大きなサイズのバッフルが必要となります。

このように一枚板にスピーカーユニットを実装するだけの極めてシンプルな形式です。バッフル後方の壁との距離によって低音の量感を調節することも可能です。製品としての採用例は少数ですが小口径フルレンジでは十分実用になります。

 次にご紹介するのが「後面開放型」です。この形式は平面バッフルの発展型とみることも出来ます。平面バッフルの四隅に折り返しをつけて背面からの低域の回り込みを低減させることで平面バッフルよりもサイズを小さくして低域再生能力を改善することが出来ます。

これは以前当社で試作した8インチ(20cm)フルレンジ用の後面開放エンクロージャーです。この形式でもユニットの個性が非常によく出ますし、折り返しの長さを変えることで低域の量感を調整することも出来ることから家庭用スピーカーとしては平面バッフルより現実的な選択といえます。パイン(松)合板など響きの良い材料を使用すると良い結果になる場合が多いです。


 続いては「密閉型」です。文字通りスピーカーユニットを背面の音が表側に出ないように完全に閉じたエンクロージャーに入れる形式です。メリットとしては素直でクセの少ない低音再生が可能であり、聴感上のSN比の高い再生音が得られることです。
デメリットとしてはスピーカーユニット背面の音をエンクロージャー内に閉じ込める為、エンクロージャーが小さいと背圧がコーン紙の振動を抑制して低域が出難くなること、低域まで十分に再生しようとするとエンクロージャーが大きくなることです。またF0(最低共振周波数)の低いスピーカーユニットを使用しないと低域はややタイトとなります。エンクロージャーによる音の色付けを排除する目的からスタジオのニアフィールドモニター等に多用されてきました。

これは以前当社で販売しておりました「ランドセル」という8インチ(20cm)スピーカーシステムです。1950年代の設備用システムの復刻品ですが、当時はスピーカーユニット自体の低域再生能力が現代ほど高くなかった為、密閉型エンクロージャーを採用したシステムが多く存在しました。現代でも中域の密度感の魅力から愛用される方が多くいらっしゃいます。

 

 続いて以下に述べる形式はいずれもエンクロージャー内に閉じ込めた音響エネルギーを積極的に活用し、低域を共鳴させることによって低域の再生能力を高めることを意図した方式で様々なバリエーションがあります。

 そのなかで最も市場で多く流通しているのが「バスレフ型」です。これは「Bass Reflection」の略で別名「位相反転型」とも呼ばれます。エンクロージャーに筒(ポート)を設け、スピーカーユニットが前後してエンクロージャー内の気圧が高くなった瞬間にポートから空気が吐き出されるエネルギーを利用しており、ヘルムホルツ共鳴管の原理からポート断面積と長さによって共鳴する周波数を調整出来るメリットがあります。これにより比較的小さなエンクロージャーでも低域の量感を増すことが出来ます。

これは「Y-25ver.2」です。ver.1ではスペインBeyma社のユニットを採用しておりましたがver.2では当社オリジナルユニットに変更されました。それに伴ってver.1ではダブルポート仕様でありましたがver.2ではシングルポートに変わっております。これはスピーカーユニットの裸特性の違いに合わせてチューニングを施した結果である訳ですが、バスレフ型の難しさは使用するスピーカーユニットとエンクロージャーサイズとポートチューニングのバランスであり、基本的にはユニット毎にポートチューニングを変えなければなりません。ポートが前面にある「フロントバスレフ型」が一般的ですがポート動作時に僅かな風切り音的なノイズが発生する場合があり、また僅かな低音の遅れ感につながる場合もあることからポート位置を背面にレイアウトしたものを「リアバスレフ型」もあります。

これは以前当社で販売しておりました「樽オーラトーン」という10cmフルレンジシステムです。これもリアバスレフ型の一種といえますが、本機ではポートを設けず(共鳴させず)スリットのみとして低域の増強よりもスピーカーユニットの背圧を抜くことでコーン紙の制動を緩めることでクリアでハイスピードな音質を目指した事例です。

 次回はその他の形式(バックロード,フロントロードなど)について考えてみたいと思います。

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