キット屋コラム
キット製作後の測定について

 皆さん、こんにちは。今回は前回書きましたキット製作後の測定の重要性について考えてみたいと思います。完全自作と異なり、キットの大きなメリットの一つに設計的に担保されたものであるという点が挙げられます。組立マニュアルの手順に従い製作いただくことで、基本的に誰が作っても同じ特性,同じ音色が得られるという安心感はキットならではのものです。

 その一方で作ったままの状態で、そのまま使うというのも本来の姿ではありません。自分が作り上げたキットの本当の意味での完成は、想定された動作をしていることを確認してこそといえるからです。もちろん高度な測定器類(オシレータ,オシロスコープ,歪率計など)は必要ありません。それらの安定度は設計段階で周到に検討されているべきもので、そういう部分をクリアしているからこそのキットだからです。また測定を通じ自分が組み立てたキットが正しく動作していることを知ることは、一層愛着を深めることにもつながります。今回は誰にでもトライ出来る測定の基本について書いてみます。

 基本的に真空管アンプの測定は基本的に真空管に与えられるべき3つのエネルギー(電圧)が適切に供給されているかを知ることにあります。具体的にはA電源(ヒーター/フィラメント),B電源(プレート),C電源(バイアス)の3つです。キットにおいては回路的,設計的に意図通り(或いは近似)の電圧が確認出来るか否かが測定の中心となり、「設計値の再現性」が目的となるのが完全自作とは大きく異なるところです。

 では実際に被測定アンプをJB300Bアーカイブとして実際の測定をシュミレーションしてみます。今回の測定はアンプとして適正動作をしている(歪み感のない音が左右のバランスを崩さない状態で鳴っている)状態になっている事を前提として書きます。つまり全ての真空管を実装した状態での測定となりますが、本来はその前段階として組立直後に行うべき真空管未挿入でのチェックもありますが、ここでは割愛いたします。

 キットの測定に用意頂くのは基本的にテスターのみです。高価ではなくとも結構ですが500V耐圧以上のデジタルテスターの使用が望まれます。出来ればオートレンジのものが良いと思います。アナログテスターはデジタルテスターよりも内部抵抗が低いため、真空管回路のようにハイインピーダンスだったり微小電圧を測定する場合には不向きです。

なお、テスターの先端部は被測定部分にのみ当てることが求められる訳ですが、慣れないうちは中々上手くいかず、時に隣の部品にショートさせて壊してしまうトラブルなどもありえます。そんな時お奨めするのが先端部を除いて金属部分をビニールテープなどで絶縁すると安心です。

参考回路図はこちらをご覧ください。

(1)ヒータ/フィラメント電圧の測定


例:300Bフィラメント電圧

例:12AX7ヒーター電圧

真空管には必ずフィラメントまたはヒーター(今後代表してヒーター)が存在します。留意点は真空管アンプのヒーターには「交流点火」と「直流点火」があることです。文字通り交流点火はテスターのACレンジ,直流点火はDCレンジで測る必要がありますので注意が必要です(直流点火の場合はプラスマイナスの極性によってデータがマイナスとなることがありますが、絶対値で判断頂いて問題ありません)。

JB300Bアーカイブは整流管(5AR4),初段(12AX7),ドライバー(6BQ5)は交流,出力段(300B)は直流点火です。他のアンプでは電源トランスのヒーター巻線から直接真空管のヒーターに結線されていれば交流点火,ブリッジダイオード或いは三端子レギュレータなどを中継していれば直流点火と考えて差し支えありません。

基本的に全ての電圧は一次側電圧、つまり商用100Vの誤差によって変動します。試しに測ってみると分かりますが時間帯によっても場所によっても変動するものです。大体は101V~102V程度が観測されますし、真空管の個体差もありますので測定電圧が10%程度の誤差を生ずることもありますが、それによってアンプの特性が大きくが変動することはありませんのでご安心下さい。

 

(2)B電圧/プレート電圧

プレートは陽極とも言い、フィラメント或いはカソードから熱電子を引き付ける重要な役目を果たします。プレート電圧は数百V以上の場合もありますので測定には特に注意が必要です。
B電源回路には大容量の電解コンデンサーが使われています。電源を切っても暫くの間チャージが残っている場合もありますので、測定時は手袋をするなど特に注意が必要です。

前項でヒーターは交流と直流のいずれかであると書きましたが、ヒーター以外は全てDCレンジで測定します。回路図を見ると分かりますが真空管アンプは商用100Vを整流して直流化させて動作しています。従ってヒーター電圧以外の測定にはテスターの黒棒をスピーカーターミナルのマイナス側に締めこんでしまって片手で赤棒を持って測定するのが安全で感電を回避することも出来ます。


例:B電圧の測定

B=チョークの手前,B1=300Bプレート,B2=6BQ5のプレート,B3=12AX7プレートに供給されます。


例:プレート電圧の測定

300BのプレートがPL/PR,6BQ5のプレートがPQL/PQR(JBでは6BQ5が三極管接続になっていますので7番-9番ショートとなっていますが6BQ5のプレートは元々7番です),12AX7のプレートPXL/PXR
(JB300Bでは12AX7双極を並列接続するようになっておりますので測定点は6番ピンでも構いません)。

 

(3)カソード電圧

本稿の冒頭で「C電源」という言葉を使いました。本来「固定バイアス」アンプにはグリッドバイアス電圧生成用の電源(=C電源)が個別に必要になる訳ですが、現状主流となっている「自己バイアス」(カソードバイアス)ではプレート電圧の一部をバイアス電圧として利用しているためC電源回路は個別に存在しません。その為、カソード抵抗の対アース電位を測定してプレート電流値の指針とすることが一般的です。なお300Bは直熱管ですのでカソードは存在しませんが、しばしば便宜上直熱管においてもカソード電圧と呼称されます。

上図で300Bカソード電圧がKL/KR(ハムバランサーの2番ピン),6BQ5がKQL/KQR,12AX7がKXL/KXR(JB300Bでは12AX7双極を並列接続するようになっておりますので測定点は8番ピンでも構いません)です。特に300Bのカソード電圧はプレート電流の目安となりますので是非測定しておきたい部分です。

大変大雑把ですが以上がキットの場合の測定項目です。こういった簡易測定を繰り返すことで段々と回路自体が理解出来るようになり、一層キット製作が楽しくなります。ます。是非お試しいただければと思います。

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