キット屋コラム
出力と音量の関係について

 皆さん、こんにちは。今回はオーディオ(特にパワーアンプ)の出力と音量の関係について考えてみたいと思います。

 皆さんのなかに出力メーターのついたパワーアンプをお使いの方もいらっしゃると思います。その一方でメーターの振れ方(指針位置と音量の関係)についてはそれほど意識していない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 多くの場合、出力(W) と対数(dB)が併記されているものが多いと思いますが、仮に公称出力100Wのパワーアンプを想定し出力メーターを描いてみました。ご注目頂きたいのは、メーターの"WATT”と"dB”表示それぞれの位置とその間隔です。

dBという単位についてはご存じの方も多いと思いますが簡単に言いますと対数、つまり基準値と比較して何倍、或いは何分の1であるかというような表現のための単位記号です。人間の感覚に近いことから音響機器の評価にもよく使う訳ですが、改めて上図をご確認頂きたいのが0.1W(-30dB)と10W(-10dB)が1W(-20dB)を中心としてほぼ同間隔で描かれていることです。

 皆さんが日頃ご自身のリスニングルームで聴かれている音量は、特殊な環境を除き3W程度、多くの場合は1~2W程度であろうと思います。事実私どもの試聴室でも3Wを越えると会話に支障が出る訳ですが、ここで理解しておきたいのがメータ-上で0.1Wの音量と1Wの音量差、つまりその差0.9Wと、1Wと10Wの差、つまりその差9Wの違いは聴感上ほぼ同じに感じられるという点であるということです。更に出力が低い領域であればあるほどその聴感上の音量感(言い換えればダイナミックレンジ感)の変化が大きいということになります。

 少々分かり難いかもしれませが人間の聴感は定量的な出力差に対してリニアではないという事であり、仮に音量を上げていっても5Wと10Wの聴感上の音量差はあまりなく、更に出力が上がればその差はもっと小さくなるだろうと思います。信号のピークでレベルで針が瞬間的に10W以上まで触れる音量に設定すること自体は可能ですが、その一瞬の間に音量が瞬間的に数値通りに大きくなったという感覚を持つことはほぼありません。

つまり「人間の耳は小さな音量における増減には非常に敏感ではあるものの、一定以上の音量においては鈍感である」ということがこの出力メーターにおけるdB表示からも見えてきます。私たちが感じる音の好み(評価)は多くの場合、極めて低い音量レベルにおける表現(ニュアンス)の差であるということは想像に難くありません。

 以前オーディオで大切なのは最大出力ではなくて常用レベルにおけるトルク感であると申し上げました。最大出力が何百Wまで伸びている云々という事よりも僅か1W~2Wである皆さんの常用聴取音量における音色(ねいろ),響きの方が重要であり、それこそが真空管アンプの大きな魅力の一つであると言い換えても良いかもしれません。

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